「死に標本」はどうにかできる?

昆虫の採集というのは趣味で行われるものばかりではありません。
ある場所で各種の事業(土地開発とか)が起こるとき、事前調査や事後調査によって決まったエリアの動植物が調査されることがあります。
こういった調査はたいてい何らかの環境調査会社が実施しており、調査で得られたサンプルも多くはその会社で保管されます。
そのサンプルが最終的にどうなっているか、知っていますか。
調査の証拠として一定期間保管された後……廃棄処分されるのです。
特別な理由がなければ、博物館など公的機関に渡ることは少ないと思われます。
(もしかしたら会社によるのかもしれませんが、私の知っている範囲では活用されるケースはわずかです。)
なぜこうなってしまうのでしょうか。
いろいろ事情があると思います。
まず第一に、環境アセスメントなどよる調査結果は、アセスメントを行う事業者が有する機密情報です。
標本も例外ではなく、これを第三者に提供したり記録を公表したりするためには事業者の了解を得る必要があります。
したがって二次利用につなげにくくなります。
第二に、標本の作製や維持管理に割かれる人件費や人材が会社には存在しません
誰も手を付けられなければ、サンプルは一緒くたに三角紙につつまれてゴチャゴチャの状態のまま保管されます。
もはや重要なものがあるかどうかも判断がつかない状態です。
展翅展足はもちろん、ラベル付けなんてこともやりません。それが業務に含まれないからです。
三角紙に日時場所を書いて保管しておき、何か問い合わせがあった時にそこから探し出すだけです。
本当にただの証拠としての存在。ある程度時間がたったら廃棄される。
それが調査業務における昆虫サンプルの多くがたどる末路です。
ただ__私はそんなサンプルを拾い上げ、ラベルをつけ標本にできます。
個人的な勉強のため、あるいは貴重なものだからと……サンプルの山の中から引き上げて標本化したものも少なくありません。

このハチ標本たちも、そうして作られたもの
私は今年、持っていたハチの標本を専門の方に託しました
しかし、業務成果から作ったこれらのハチ標本は送ることができないため、手元に残ってしまいました
彼らは私とともに灰になる運命が待っているでしょう。
こうして業務成果から作られた標本を私は「死に標本」と呼んでいます。
自分一人の力ではデータを公開することも、公的機関につなぐこともできない。標本としての本来の力を持たないものです。
自分で調査サンプルの同定をやっている中で「これはたいへん貴重だ」「これは初記録かも」というものは少なからずありました。
しかし、自分が主体的に業務に関わっているわけでもない状況下だとこうした「発見」も公表につなげられないまま終わってしまいます。
また、そもそも公表に値しないレベルの膨大な調査サンプルは最終的に全部ゴミになる運命から逃れることは困難です。
※主に報告書にのっけるリストを作るため、希少種の在不在を確認するために同定作業をします。
同定作業が終わった後のサンプルは基本的に用済みなわけです。
私が個別に拾い上げて標本にすることは確かにできますが、個人収蔵.comの公表データに含めることはできないし、勝手に第三者に託すこともできません。業務の標本はいわゆる墓場まで持っていく標本になります。
とはいえ付属する情報を何も明かさなければ、標本写真を使うくらいは許されるのでは? と勝手に思っています。(別にいいですよね??)
という考えのもとで書いたのが、前回の記事です。

コオイムシとオオコオイムシの違い【標本の比較】

コオイムシとオオコオイムシの違い【標本の比較】

日本においてコオイムシ属(Appasus)は、コオイムシ Appasus japonicus Vuillefroy, 1864オオコオイムシ Appasus major (Esaki, 1934)の2種が知られています。コオイムシもオオコオイムシも北海道・本州・四国・九州に分布します。ただし対馬にはコオイムシのみが分布します…

あのオオコオイムシは実は業務で得られた標本で、私とともにお墓までいくことが決まった子です。
データは公開できないし誰にも託せないけど、標本の写真が使えるなら……比較記事は作れるはずだ、ということであの記事が書けたのです。
こういうやり方が怒られないなら、いわゆる「死に標本」にも有効活用の道があるのではないかと思えてきます。
ここに、最近ハートに刺さった死に標本のひとつを紹介します。
ヤジリモンコヤガ
ヤジリモンコヤガ
Ozana chinensis (Leech, 1900)

ヤジリモンコヤガは極めてまれな種で、生態もほとんど分かっていません。
ネット上にある画像もわずかで、国内に標本がどのくらいあるのか……という虫です
雑多な蛾類サンプルの中に混じっていたもので、比較的きれいな状態だったため軟化して展翅しました。
供養のつもりで載せておきます。ともに灰になるでしょう。
「死に標本」やそれに満たない廃棄サンプルが生じてしまうことに関して、私は不満や苦悩があるわけではありません。
割り切ってやっているつもりです。
ただ、部分的にでも諦めずに済む道があるなら……それを模索していきたいなと思うのです。
(しっかり許可を得たうえで、公表や公的機関での収蔵につなぐのが一番ですね)

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