この冬に出会った冬尺蛾たち

冬尺蛾。
シャクガ科の中のナミシャク亜科、エダシャク亜科、フユシャク亜科を含む35種が知られています。(最近増えたんだっけ?)
成虫が晩秋から早春の間、年一回のみ発生する事が最大の特徴で、冬場こそ観察できる数少ない虫の一つです。
……とはいえ、その姿は地味極まりないものが多く、私も去年まではガードレールとかコンクリの壁とかに冬場止まってる細長くて薄茶色の二等辺三角形みたいなやつ、という認識でした。
しかしこの冬でその認識を改めることとなりました。
ということで本記事はこの冬に出会った冬尺蛾を紹介します。

銀色の翅


シロオビフユシャク
Alsophila japonensis (Warren, 1894)
(2019.12.12 長野県)
昨年の夏頃、長野の夜回りポイントはごく一部を除いて完全にLED化してしまいました。
しかしそんなLED街灯の側の木に止まっていたのがこのシロオビフユシャクでした。
シャクガの仲間はLEDの灯りでも割と関係なく飛んでくるような印象があります。
(適当に飛んでる個体がたまたま引っ付いただけなのかもしれないが……)
この時の私は、モミにつく「スジモンフユシャク」という局地的な種がいるということを思い出して、確かこんな見た目だったなと思い持ち帰ることにしました。(結果は当然普通のシロオビフユシャクだったけど)
ちなみにスジモンフユシャクの出現時期は2月中旬から3月中旬にかけてと遅め。
長野だともっと遅いかも。そもそもこの辺にいるか分かんないけど……(モミ食いの虫は他に色々採れてるからいても良さそう?)

なんだ普通のやつか……と思いつつも、持ち帰ってよく見ると翅の鱗粉は銀色に輝き、渋い美しさがあることに気づかされました。
これをきっかけに、今まで以上に冬尺蛾に興味を持つようになったのでした。

儚さが魅力を引き立てる

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ヤマウスバフユシャク
Inurois nikkoensis Nakajima, 1992
(2019.12.25 長野県)
クリスマスだし、糖蜜でもやるかという事で近所で糖蜜採集をやった日のこと。
すっかり日も落ちて暗くなった林内をたくさんのフユシャクが舞っていました。
それが写真のヤマウスバフユシャク。この手のフユシャク(Inurois)は、まさしく壁とか手すりによく引っ付いてるタイプのやつで、翅も薄く文字通り風が吹けば飛ぶような弱々しい蛾です。
この時は撮影直後に飛んでしまったのもあり採集はしなかったのですが、後々写真を眺めていると、この透き通るような美しさが本種の魅力なのではと思い始めました……

Alsophilia


クロバネフユシャク
Alsophila foedata Inoue, [1944]
(2019.12.29 埼玉県)
年末に実家の埼玉の方に帰った時のこと。
近場の河川敷で糖蜜採集をやるも爆死。その時唯一採れたのがこのクロバネフユシャクでした。
クロバネフユシャクはクヌギ林に依存する種で、関東には多いものの分布は若干限られるようです。

前述のシロオビフユシャクと合わせて本種もAlsophilaという属に含まれるのですが……これが展翅してみると結構格好いいな、と思ったのでした。
むし社で「日本の冬尺蛾」という図鑑を適当に見た時にAlsophila属の標本写真を見て(格好良いな、この本買うか)と思ったくらいには惹かれるものがあった(実際その場のノリだけで日本の冬尺蛾を買ってしまった。後悔はしていない)

飛ぶことをやめた雌


ウスバフユシャク雌
Inurois fletcheri Inoue, 1954
(2019.12.30 埼玉県)
フユシャクの形態的な魅力としてまずイメージされるのが、雌の翅が退化しているということではないでしょうか。本来あるはずのものが失われたり縮小した虫はなんだか魅力的ですよね。
 

ちなみにウスバフユシャクの雄。ちゃんと翅がある。
中でもチャバネフユエダシャクやカバシタムクゲエダシャクの雌は乳牛のような、かなり独特の見た目をしています。(どっちも未見だけど……)
翅が退化した雌は灯りに飛んでこないため、主にルッキングにより探すことになります。
冬尺蛾は昼に活動する種もいれば日没直後、日没から一定時間が経過した後の夜に活動する種もおり……種類毎に活動時間が異なります。
雌や交尾ペアを探す上でこの活動時間を知っているかどうかが極めて重要なようで、全然関係ない時間に探していると雄すら見つからずに終わることもあります。
雌は活動時間になると高木に登って行きますが、時折間違えて柵や低木に登ってしまうことがあり、これをルッキングで探すのが基本的な戦術になるようです。

クロスジフユエダシャク雌
Pachyerannis obliquaria (Motschulsky, 1861)
(2020.01.04 埼玉県)
本種は翅がわずかに残っているが当然飛ぶことはできません。
このようにトイレの壁など建物についていることも。

クロスジフユエダシャク雄。昼行性だが交尾は夕方以降に行われることが多いという。

ウスバフユシャク雌。先程の写真と同個体。小さいので油断していると見落としてしまう。
真冬の寒い日に徘徊しながら探すのは結構しんどいですが、この時期ならではの不思議な姿の虫を見つけられた時の嬉しさはこの上ないものです。

変異する冬尺蛾

フユエダシャクの仲間なんかは個体変異が大きくて、図鑑見てても本当にこれ同種なのかと疑うような個体もみられます。

シロフフユエダシャク
Agriopis dira (Butler, 1879)
変異幅が広く、かつ頻繁に見かけるのがこのシロフフユエダシャクなのですが……今の自分には変異を紹介できるほどの写真がありませんでした。
(今後また追加していきます)

冬尺蛾を探して分かったこと

冬尺蛾の仲間を探すとなると、とにかくルッキングをやることになります。
そんな事を繰り返すうちにルッキング能力は向上していき、昼間何気なく歩いていても、手すりや壁についてる小さな虫が以前に比べて遥かに目に止まるようになりました。
また純粋に蛾類に対する反応力が上がり、昼間の採集でも今までは何気なく見過ごしていたであろう蛾を多く見つけられるようになった気がします。

(2020.04.03 長野県)
エダシャクの何か。種類はわかんないけど冬尺蛾ではないかもしれない。
昼間に樹皮に止まっていた。

冬尺蛾じゃなくても昼間に飛んでいるシャクガは結構多くて、また意識して見ていると特定の時間帯にやたら活発に飛翔する個体が見られたり、壁や樹皮に止まっているシャクガ類が次々と見つかったり……視野が広がったと感じられたことが、冬尺蛾探しによって得られた最も大きなものだと思っています。
冬の採集の楽しみが、またちょっとだけ増えました。
____こうなると、この冬出会った冬夜蛾という記事も書きたくなるけど、それは情報量が多くなりすぎて筆者が死ぬので、少しずつ放出します。
糖蜜の話もまだしてないしな……

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