本州最北の亜種、キタカブリ
日本に8亜種が生息するマイマイカブリですが、本州(本土部)には4つの亜種が生息しています。
(左から)西日本を中心に分布するホンマイマイカブリ、関東~中部地方に分布するヒメマイマイカブリ、東北南部を中心に分布するコアオマイマイカブリ。
そして4つ目が……今回のテーマ、キタカブリです。
マイマイカブリ東北地方北部亜種、通称キタカブリは本州の中でも最も北寄りに分布する亜種です。
具体的な分布域は太平洋側では宮城県北部から北で、日本海側では秋田県から北となっています。
「物理的に遠い」という理由でこれまでキタカブリには挑めていませんでしたが、今回ついに東北に行く機会を作れましたので、はじめてのキタカブリ採集にチャレンジしてきました。
2025.01.10
朝イチの新幹線+電車で一気に北上し、確実にキタカブリが出るエリアである岩手県まで向かいました。
事前に調べておいた河畔林まで駅から歩き、採集を開始します。
細い木が多く、笹ヤブがきつい
最初はここあんまりかな、と思ったのですが歩いていると案外マイマイカブリ向けの物件がありました(出ないけど)。
ちなみに足元には少ないながら雪が積もっています。今日も降る予報。
開始から15分かそこらで、非常にいい立ち枯れを見つけました。
良さそう、って写真撮ったらそこからは出ないことが多いが……
これが本当にいい具合に朽ちていて、素手でも崩せるほどやわらかい立ち枯れでした。
朽木中の密度もほどよい。これで出ないなんてこと……ある??
めちゃくちゃ”気配”を感じる
そして。
大型甲虫が顔をのぞかせています
「これは__来たでしょ!!」
写真だと分かりませんが、この時点で特徴的な口ひげが見えていました。確定演出です。
マイマイカブリ東北地方北部亜種
Carabus (Damaster) blaptoides viridipennis (Lewis, 1880)
赤い胸部に緑の上翅__紛れもなく探していたキタカブリです。
もうちょっと苦戦する予定だったのですが、いい立ち枯れに行き着いたおかげで早速採ることができました。
もうちょいきれいな個体もいるはず
キタカブリはマイマイカブリの8つの亜種の中でも最も色彩の鮮やかな亜種です。
探し続ければより美しい個体に出会えるはず……ということで引き続きこの立ち枯れを崩していきます。
ゆっくり立ち枯れを崩していくと、また新しいマイマイカブリが顔を出しました。

さっきより明らかにきれいだ!
頭胸部の輝きが先ほどの個体とは全然違います。
これは期待できるかも……!!

そうそう、こんな感じだよね!!
取り出してみると、まさしく期待した通りの美しいキタカブリが姿を現しました。
マイマイカブリとは思えない、この美しさに見とれてしまいました。
その後もこの立ち枯れからポツポツと追加が得られ、
こんな感じで、素手で崩せる
この個体もなかなかきれいです
最終的にこの立ち枯れからは5頭のキタカブリを得ることができました。
もうちょっと崩せそうだったけど、全部崩してしまうのはもったいなく感じたので多少残しておきました。
時間はまだまだあるので、ここからはマイマイカブリが出なさそうな倒木も含めて調べていくことにしました。
キタカブリ以外にも東北ならではのオサムシやゴミムシはいるため、そういう種もいろいろ見ておきたい。
地面に接している倒木はカチコチに凍っているかなと思っていたのですが、意外とそうでもなく……崩せるところは少なからずありました。
それでも関東でやるよりゴミムシを出すのは難しく感じる?
アオゴミムシなどの集団も出るのですが、地元の河川敷でやるよりは手ごたえが薄く感じました。
越冬できる良い朽ち具合の部分が限られているのかも。

アオゴミムシ
Chlaenius (Chlaenius) pallipes (Gebler, 1823)
ただのアオゴミムシでもこの地域に来るとキタカブリと同じカラーの虫ということで特別さを感じますね。
私は岩手県で昆虫採集をしたことがなかったので、普通種でも今回はちゃんと採集していこうかなと思いつつ、アオゴミは写真だけ撮ってスルーした……

ヨツボシゴミムシ
Panagaeus (Panagaeus) japonicus Chaudoir, 1861
オレンジの斑紋が美しいヨツボシゴミムシも出ました。
東北まで来ると、本種に似たコヨツボシゴミムシ(未採集)というのが出るのを期待してしまうのですが、今日は出ませんでした。

クロナガオサムシ基亜種
Carabus (Leptocarabus) procerulus procerulus Chaudoir, 1862
倒木からはクロナガオサムシも時々出てきました。
本種は長野県でも埼玉県でも、ここ岩手県でも同じ「基亜種」です。
コクロナガオサムシが出れば初採集の北上山地亜種なのですが、見た限り全てふつうのクロナガオサムシでした。
とはいえ、関東や長野の個体とは何かが違うかもしれませんよね。持ち帰って標本にし、DNAサンプルも取っておきました。
DNA解析を個人の家庭でできる時代になったら、オサムシ採集はもっと楽しくなりそう
その後も河畔林の中を歩いていると、突然林の中から大型の猛禽類が飛び立ちました。
同じ林内の少し離れたところに止まったのが見えたので、鳥用カメラ(P950)で拡大して探してみる__

フクロウ
Strix uralensis hondoensis (A.H.Clark, 1907)
居たのはなんと、フクロウでした。
夜間に鳴き声を聞くことは多いけど、姿を見ることはなかなか叶わない鳥です。
そんなフクロウを昼間に見られるとは……ラッキーだ!
今日は雪も降る予報だったので鳥用カメラ(P950)を持ってくるか悩んだのですが、持ってきておいて本当に良かったです。
そういえば雪予報だったのにそんなに雪降ってないし、今日は全体的に運に味方されている日ですね。
さらに進むと、洪水の影響で流されてきた倒木がたまっている場所がありました。
よく見るとすでにオサムシが写っています
倒木の一つに、根際に土が絡んでいるものがありました。
こういう所からはアオオサムシが出るよね、と思いつつ土をどけていくと……思った通り出てきました。

アオオサムシ東北地方亜種
Carabus (Ohomopterus) insulicola kita Ishikawa & Ujiie, 2000
アオオサムシ東北地方亜種、通称キタアオオサムシです。
東北地方では全体的にこの亜種で、光沢が強く赤みがかった個体が多い印象があります。
本亜種は過去に東北を訪れた時に採集済みでしたが、岩手県ラベルは当然初めてです。

すぐそばでもう1頭出ました

こちらも赤みが強い♀
ここでは2♀を得ることができました。
さらに採集を続けます。

キンナガゴミムシ
Poecilus (Poecilus) versicolor (Sturm, 1824)
関東で見る個体と何ら変わりはないキンナガゴミムシですが、はじめての場所で出会うとどこか特別さを感じてしまいます。
(これは採集した)
朽木崩しを続けていると、小さめのオサムシが転がり落ちてきました。

このサイズ感は……アレですね。

アカガネオサムシ本州亜種
Carabus (Carabus) granulatus telluris Bates, 1882
湿地性の小さなオサムシであるアカガネオサムシでした。
アカガネオサムシの採集はいつぞやの長野県以来で、かなり久しぶりな気がします。
本亜種は環境省レッドリスト(2020)で絶滅危惧II類とされています。
関東地方では生息地はかなり限られる印象ですが、東北地方の河川敷では比較的簡単に採れるようです。
羽化不全なのがちょっと残念でしたが、貴重な1頭ということでしっかり採集していきます。

ヤマトトックリゴミムシ
Oodes (Lachnocrepis) japonica (Bates, 1873)
他の倒木からはヤマトトックリゴミムシも出ました。
個人的には遭遇機会があまり多くないゴミムシです。夜間に田んぼ周りをルッキングするとふつうにいるっぽいんですが……
なお脚が黒いふつうのトックリゴミムシも採れました。
関東ではほとんどニセトックリなので、真トックリゴミムシの採集は久しぶりでした。
マイマイカブリ狙いの立ち枯れ崩しから完全に倒木崩しにシフトしていますが、正直なところ崩せる立ち枯れが全然ありません。
案の定……採集者の痕跡があって、良さそうなところは既に崩されています。
起こされたままになっていた朽木。ここからトックリゴミムシが出た。
幸い先行者はマイマイカブリしか狙わないタイプみたいで、埋まりかけの倒木はほとんど崩されていませんでした。
おかげさまでここまで順調にゴミムシを得ることができています。
もし最初にあの立ち枯れを見つけていなかったら、今日はキタカブリ0もあり得たのではないか?
そんなことを思い始めた時のことです。

あ、倒木からも出るのね
既存のキタカブリ採集記とか見てると、もっぱら立ち枯れや高い位置の腐朽部から出されているイメージがあったので、こういう所からはまったく出ないものだと思っていたけど……ちゃんといますね。

エリトラ凹んでるけど、色はきれい
これも一部は手で塊が剥がせるタイプのやわらかい材で、手に持った瞬間”いけそうなオーラ”を確かに感じました。
ちょっと地面から浮き気味の倒木とか、浮いた位置であればOKかも? このあとも追加を得ることができました。
こんなところとか
こんなところにも!
ここでは今日初めての集団越冬が観察できました。
集団(3頭)
欠けが多かった1頭をリリースして、他は全て採集しました。
これで採集頭数は5♂♂4♀♀に。現場だと色のきれいさが分かりにくかったので、気持ち多めに持ち帰りました。
キタカブリはもう十分かな。
あとは残り時間で、まだ見ぬゴミムシを探しました。

チビアオゴミムシ
Chlaenius (Eochlaenius) suvorovi (Semenov, 1912)
もうそろそろ終わろうかというところで、チビアオゴミムシが出ました。
本種は環境省レッドリスト(2020)における絶滅危惧IB類(EN)です。
ランクの割に各地でみられる印象ですが、私がたまたま生息地の近所に住んでいるからそう感じるだけなのかもしれません。
東北での生息状況はよく知りませんが、アカガネオサムシがわりと採集されるのと同じように本種もそこそこいるのかもしれませんね。

越冬中のニホンアマガエル
時刻は15時頃。
まだ粘ってもよかったのですが、採集成果的にはもう十分だったのでここで切り上げて終えることにしました。
キタカブリ採集だけじゃない
帰宅後、採集したキタカブリたちを早速クリーニングして泥を落としました。
きれいだ……
頭胸部の色はくすんだ感じの個体が多かったですが、上翅の緑色はどの個体もしっかり出ていて、まさに思い描いていたキタカブリの姿でした。
これで本州のマイマイカブリ4亜種をコンプリートした訳ですが、今後は……離島のマイマイカブリを狙う? ことがあるでしょうか。
でも久々にマイマイカブリを真剣に狙ってみたらやはり面白かったので、他の地域でも挑んでみたい気持ちは強まりました。
マイマイカブリだけのために遠征というのはなかなかハードルが高いので、一緒に楽しめる何かがあればいいな。
そう……今回もマイマイカブリだけのために東北に来たわけではなかったのです。

マガン
Anser albifrons (Scopoli, 1769)
この時期、宮城県にある伊豆沼や蕪栗沼の周辺では、国指定天然記念物のマガンを始めとするいくつかのガン類を観察できます。
今回はこのガン類を(会社の方々と一緒に)観察するために連休を使って東北に来ていて、そこにキタカブリ採集をくっつけることにしたのでした(笑)
越冬のために当地周辺を訪れるガン類は、安全に夜を過ごすため夕方になると沼の水上に集まってきます(ねぐら入り)。
そして沼に集結したマガンは、朝になると一斉に飛び出して採餌場所に移動します。これがねぐら立ちです。
一斉に飛び立ったマガン
キタカブリ採集は1日で満足することができたので、1/11~1/13の3日間は野鳥観察に徹しました。
マガンのねぐら立ちは一斉に羽ばたく羽音が迫力あって素晴らしかったです。一生に一度は見ておきたい光景です!
他にも、ヒシクイやコクガンなどを観察することができました。
ヒシクイ(左上)、コクガン(右上)、ハクガン(左下)、シジュウカラガン(右下)
ヒシクイとコクガンはともに国指定の天然記念物です。
冬の昆虫採集はどうしてもターゲットが狭くなってしまうので、地域ならではの野鳥観察と抱き合わせるのはかなり有効だなと今回強く感じました。
地域の生き物をまんべんなく楽しめるような、充実した遠征計画を組めれば遠方に出かけるモチベーションも高まりそうです。
体の調子の方も、今回の4日間の遠征を乗り切れるくらいには良くなってきました。
また、何かこういう回を企画したいなと思いました!

コメント
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
いつもブログ参考にさせていただいております。
今回のキタカブリの採集では歩きのみですか?
SECRET: 0
PASS: c2d6779891af30736e4a55227e1c3fdb
今回のキタカブリ採集は徒歩のみでの実施でした。
たくさん歩きました!
SECRET: 0
PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
ありがとうございます。
私も今度岩手キタカブリ行ってまいります。