エサキキンヘリタマムシと夏の思い出

エサキキンヘリタマムシは6~8月頃に山地の河畔林(大抵は上流域)でみることができる非常に美しいタマムシの1種です。
2019年の夏、幸運なことに近場でこの虫に出会うことができたので、その時の出来事をまとめて書きました。

「その場所」に至るまで

あれは確か、5月頃に楓の花掬いをした日だったでしょうか……。
道ですれ違った男の人が私に声をかけてきました。
「どんな虫を採ってるの?」
私は「花に集まるカミキリムシを採っています」
とシンプルに答えました。
なんやかんや話しているうちに……
「その網、エサキキンヘリとか狙ってるんじゃないの?」
____!!
確かにこの時使っていたのは、その手のタマムシを狙うのに特化した「タマムシネット」と呼ばれるものではありました(交換するの面倒くさくて年中使っている)。
なんだ、知っているのか、この人は……
「いや、さすがにキンヘリは……」
なんとなく否定してそのまま会話は終わりました。
さすがにこんな所で採れるわけじゃないですか……エサキキンヘリなんて。
夢のまた夢。
その時はまだそんなふうに思っていました……。
エサキキンヘリタマムシは主に渓流沿いなどに生えるケヤマハンノキやハルニレの樹冠部で見られるタマムシです。こういった樹木がある生息地ではヤナギ類の倒木や衰弱木にも訪れるようです。
ケヤマハンノキ自体はもう少し下の方でも何本か見ているし、2018年には散々スウィーピングして、どうにかルイスナカボソタマムシとスジバナガタマムシを採集することができています。
ルイスナカボソ回

トラウマを打ち破れ

2018.06.09前日が雨か何かで、少し余裕を持って出発。向かったのは…A谷です。そろそろいい時期という事で…今回はヤマハンノキを徹底的に攻めに来ました。流石にエサキキンヘリとかは厳しいと思うけど、やるだけやってみようという事で。…

スジバナガ回

季節は夏へと進んでいく

2018.07.08この日はサークルのイベント…というテイでA谷へ採集へ(笑)ミヤマカラスアゲハPapilio maackii Ménétriès, 1858コムラサキApatura metis substituta Butler, 1873開けた場所や道路に水が滲み出た場所では、夏型のミヤマカラスアゲハを始めとして、コムラサキやクジャクチョウなど美しい蝶がたくさん見られました。…

しかしエサキキンヘリタマムシだけは採れませんでした。
タマムシ大図鑑では★★(普通)、場所によっては多く見られることもある本種ですが、発生する環境や好む樹木に条件があるみたいです。(地域的な多少もある)
2017年には石川県を訪れて、実際にエサキキンヘリタマムシの生息地へ連れて行っていただきました。

タマムシ採集を極める石川遠征_1日目: 金縁に届け…

2017.07.08(1日目)朝、なんやかんやで普通に起きれたので準備を整えて、ガラリオさんの車で今回の遠征における最大の目標種…エサキキンヘリタマムシのポイントへ向かいます。10時頃。辿り着いたのは……

その時教えてもらった生息地の環境、採れる木の雰囲気をずっと頭の片隅に入れて、これまで近場採集をやってきました。
しかし私自身どうしても、今までの場所では何かが欠けている気がしていたのです……。
____話を現在(2019年5月)に戻して、
虫屋らしい男性と話をした場所から、大体15分ほどかけて自転車を押しながら登ったところ……
ケヤマハンノキが生えている場所を新しく見つけました。
大きく開けた谷沿いを走る道。そのすぐ脇(谷側)には樹高20m弱のケヤマハンノキがあり、日当たりも風通しも抜群。若干の枯れ枝も見受けられます。
山側は数年前に伐採されたのか開けており、こちらにも良さげな若いケヤマハンノキ(10m程度)が何本か生えていました。
石川県の採集環境とは違うけど、私が探していた環境はまさしくこんな感じでした。
今まで訪れた場所の中でエサキキンヘリが採れるとしたらここしかない。そう思える場所でした。
以後、エサキキンヘリタマムシの発生が始まる6月頃から、このポイントに通って何度もケヤマハンノキの葉を掬いました。
5/26~6/26にかけて4回行き、全敗。
遅くても発生が始まっているはず(むしろピークでもいいくらい)の6月末に採れなかったことで完全に心が折れ……以降しばらくはハルニレのある別のポイントに通っていました。
(なおこちらでも一応ケヤマハンノキはあったが採れなかった)
そして……

2019.07.28(到達編)

8月も目前となり、エサキキンヘリタマムシのシーズンもほぼ終了したも同然。
※8月末や9月まで生き残った個体が採れることが少なからずあるようです。
適当に航空写真を眺めていた時、このポイントの未到達地点に良さげな広葉樹林があることに気づき、この日はその場所を頑張って目指すことに。
で、例によってケヤマハンノキのポイントも通るので軽く葉を掬っていきました。
一番大きく「この木なら採れそう」と思っていた木をすくったものの当然のように採れませんでした。
6月末でダメなのに今採れるわけないか……

一応、山側にある10m程度の若木にも網を伸ばして頂点付近をすくってみる。樹冠部で何か飛んでる幻覚が見えた気がした……(笑)
ネットを手元に手繰り寄せる。
____網の外側にクロホシタマムシみたいな虫がついていた。
一瞬フリーズした。
よく考えなくても分かることをよく考えた。
・このサイズならクロホシタマムシかエサキキンヘリタマムシの2択である。
・今すくったのはケヤマハンノキである。
そうつまり、これは……

「嘘だッ!!!!」
嘘だろォォ!!
網を放り投げ、割と素で出た言葉だった。ナタを持ち出したくなる勢いだった。
なんで今更になって採れんの!?
他にいくらでも採れるべきタイミングがあったでしょ……!!

エサキキンヘリタマムシ
Lamprodila kamikochiana (Obenberger, 1940)

落ち着いて写真を撮っておく。
ちゃんとエサキキンヘリタマムシです。
今度はちゃんと自分の力で辿り着けた……それが本当に嬉しかった。
初採集の時とは全然違う感動があります。
それにしても、まさか自転車だけで来れる範囲で採れるような虫だとは思わなかった……(笑)
あまりの衝撃に燃え尽きそうでしたが、採集始めて30分やそこらの出来事です。
(実は網にはもう一頭エサキキンヘリタマムシが止まっていて、飛び立つまで気づかずに逃げられてしまいました……)
この後、当初の予定どおりにこのポイントの未到達地点へと向かいました。
未到達地点には良さげなケヤマハンノキも多数生えていましたが、エサキキンヘリが採れることはありませんでした。
その代わり、

オオトラフコガネ
Paratrichius doenitzi (Harold, 1879)
道中に咲いていたノリウツギの花をすくっているとオオトラフコガネが得られたり、


スジバナガタマムシ
Agrilus sachalinicola Obenberger, 1940
一本のケヤマハンノキで4頭のスジバナガタマムシが採れたりしました。
崖っぷちで踏ん張りながら、日当たりがいい谷向きの枝先(赤丸のあたり)を下からすくいました。そこ以外からは採れなかった。
ちょうど真下にバッコヤナギ(ヤマネコヤナギ)の衰弱木があったから都合が良かったのかも。
多くない種類なので、これだけでも頑張って奥地に来た甲斐がありました!
他にはサワシバからダイミョウナガタマムシが採れたり(こんな時期までいるんだ!)しましたが……全部紹介してると長くなってダレるので割愛します。
エサキキンヘリについては、この1匹で終わると思っていたのですが……

2019.08.08(考察編)

この日の自分が何を考えていたのかよく覚えていませんが、峠を越えて新たなポイントを開拓することにしました。
目的としたポイントもケヤマハンノキが生えていそうだったので、ヤマハンノキで採れるタマムシのラスボス……ヒロオビナガタマムシを狙っていました。

ここはまだよく行くポイントの奥地。
クズをすくって8月ラベルのタゾエナガタマムシを採集。標高は1000mくらい。
自転車で行ける限界まで押して登り切ったら、自転車は置いてここから峠を越えます。
2時間半~3時間くらいだっただろうか。道中かなりキツかったのは覚えている(途中で完全に体力が尽きて後半めちゃくちゃ休憩しながら登った)。

たどり着いたこの場所の標高は1500m程。
登り疲れたので道を下りながら林縁のスウィーピングを行うことに。
周りの植生はやはりこれまで訪れた近場ポイントとは違っていて、ケヤマハンノキはもちろん、他のポイントでは何気に少ないミズナラも多く、結構立派なサワシバも時々見つかりました。
(この地域のサワシバはこのくらいの標高に多いのかもしれない)

コエゾゼミ
Lyristes bihamatus (Motschulsky, 1861)
周囲で聞こえるセミの鳴き声はほとんどコエゾゼミだったようで、スウィーピング中にも得られました。色鮮やかでとても好き。
しばらく歩いていると、強烈な悪臭が漂っている場所がありました。
獣臭? 
いや、この臭いって確か____

「あっ……」
写真だと分かりにくいけど、茂みの奥に真っ黒で大きな獣が確認できました。これツキノワグマだわ。
生きてんのか?
過去にも栃木県で一度死体に出会ってますが、その時と全く同じ臭いがしたので死んでると判断。
(よく見たらすごい数のハエが集っていた)
距離を取った上でめちゃくちゃ熊鈴鳴らしたけど反応なし。ちゃんと死んでるな。助かった……
死体となるとこれはシデムシが熱い! と思ったものの確認しに行く覚悟の準備ができませんでした。
死体でも普通に怖い。
あと臭すぎて近寄りたくない。
というわけで無視を決め込む。
完全に失念してたけど普段の採集地でさえ普通にクマが出る地域なんですよね……
山奥に行く時は熊鈴使うようにはしていますが、改めて気をつけなければと思いました。
で、そんなクマの死臭が漂う場所には____

ケヤマハンノキがありました。
樹高は13mくらいだったと思います。
可能なら早く立ち去りたかったけど、これは無視できなかったので軽くすくっていきます。
すると……
樹冠からタマムシネットめがけて飛んでくる虫の姿をはっきりと捉えました。
冷静に、引きつけてからネットイン。
20200202215904169.jpeg
エサキキンヘリタマムシ
Lamprodila kamikochiana (Obenberger, 1940)
ここでも採れるとは……いや採れるか。
それだけ山奥まで来てるってことだ。
再び網を近づけると、今度は2匹のタマムシが網に引き寄せられるように飛んでくる。
試しにそのまま木から遠ざかるように軽く走ってみると、ちゃんとついて来てるぞ!
ぴた。
「あ、捕まっちゃった~!」
なんと、贅沢な鬼ごっこなんだ……
一瞬IQ2くらいなってた。
足元に花畑が見えた。

……しばらくこんなノリでエサキキンヘリと戯れて、情けない気持ちになりました。
結果的にこの1本のケヤマハンノキからは4頭のエサキキンヘリタマムシが得られ、他にも採集できなかったものの樹冠を飛んでいる個体が何度か確認できました。
1時間近くこの場所に滞在し、もはや真後ろにあるクマの死臭など気にならなくなっていた……

その後、少し離れた場所にあるケヤマハンノキをすくったところ1頭を追加。
さらにこの木ではやや高い位置の葉の上に止まっているエサキキンヘリも確認しました。
これはチャンス____
というのも、前回の採集から得ている個体のほとんどが向こうからネットに飛んできてくれたもので、葉をすくって得たのはついさっきの1頭だけなのです。
石川県で採集したあの時も全く同じような現象に苦しめられたのをよく覚えています……
まるでレベルの低い採集者からのスウィーピングを無効化する力でも持っているかのようで……
ここで葉に止まっている個体を確認した上ですくえば、どうなるだろうか。
最初はいつもどおりの強さですくって、
その後さらに、ちょっとしつこいくらい、徹底的にすくってみました。
これで入らないなんてことは____
「入ってないやんけ!!」
網の中にエサキキンヘリタマムシの姿はない。
もちろん、葉に網を近づける前に落下したのを確認したわけでもなければ、飛び立つ姿を見たわけでもない……
その後、エサキキンヘリが姿を見せることはなかった……
本当に、私のスウィーピングが全然通用していないことを痛感させられる……
2年経っても、まだエサキンの理解者にはなれなかった……。
ただ、今年エサキキンヘリが採れた場所はいずれも山道の中で視界が開けるような谷沿いの道で、山側に生えている木の最も日が当たりやすい位置でした。

文字だけだとピンとこなさそうなのでがんばって図を書きました。(雑でごめんなさい)
この図が前述したエサキキンヘリタマムシが得られた環境を示すものです。赤で囲った部分は日当たりが最もよく、エサキキンヘリたちが得られたおおよその位置になります。
こういう環境に生える木を好む、というよりは網の長さとかいろいろ考えたときに一番採りやすい条件が揃うのがこういう木なのだろうと思っています。
ハビロキンヘリと異なり、エサキキンヘリは低い木でもちゃんと採れて、日当たりや風通しの条件をとにかく重視するようです。
なのでエサキキンヘリは5m程度の網でも戦える場合もあります。
続いてこちら……

谷側にも立派なケヤマハンノキはいくつも生えていますが、位置関係上最も日当たりの良い部分に網を届かせることが難しく、このような木からはエサキキンヘリはもちろん他のタマムシもなかなか採れません。
このような木がすぐそばにある場合、山側に生えているケヤマハンノキからエサキキンヘリが採れることもありませんでした。
より日当たりの良い高木に移っているのかも。
右下の図は道に立って谷側の木を見た状態を示しています。
横の方に一部日当たり良い枝がありますが、こういう条件の場所すくってタマムシが採れたことってほとんどない気がします……
今まで純粋な日当たりばかりを気にしていましたが、他の樹木との位置関係などを見て考えることをこの時初めてやってみて、ほんの少しだけ採集のヒントが得られた気がしました。
ちなみにこのポイントではスジバナガタマムシは得られませんでしたが……

この間の採集では採れなかったルイスナカボソタマムシが採れました。
ルイスナカボソはこういうショボいというか弱々しいケヤマハンノキが好みなのか……?
※エサキキンヘリについては樹勢はそんなに重視されない感じがあった。
その他、この日の採集の成果。

・ノリウツギの花すくいで採れたミヤマクロハナカミキリ
・林縁を飛んでいたホソツツリンゴカミキリ
・峠道の針葉樹倒木にいたシラフヒゲナガカミキリ
・峠道でたまたま見つけたシラオビシデムシモドキ
どれも初採集で嬉しかった!

結果、この日採集できたエサキキンヘリタマムシは5頭でした。
当たり前のように複数採集できてしまいましたが、8月に入っているのにしっかり採れていることや赤みの強い個体が混じっていることが気になります。
エサキキンヘリもおそらく羽化直後は赤くて、その後の活動時間に応じて青みがかっていくタイプのタマムシだと思うのですが、そう考えるとやけに新鮮味のある個体だなと思いました。
(跗節欠けも思いの外少なかった)
もしかしたらこの辺りでのベストシーズンは他より少し遅めで7月~8月くらいなのかも知れません。
(7月の上中旬に最初のポイントに訪れていたら違う結果があったかも知れない……)
以上、エサキキンヘリタマムシを追いかけた2019年夏の話でした。
沢沿いなどでヤマハンノキを見つけたら是非採集に挑戦してみてください。本当に感動します!

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