カシワオビキリガとミヤマオビキリガほか近縁5種の見分け方【Conistra属】

チョウ目(鱗翅目)

コニストラ問題

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低地の糖蜜採集ではおなじみのカシワオビキリガ。

カシワオビキリガを始めとするConistra属(コニストラ、と呼ばれる)は、平地から山地までの雑木林に広く生息し、一般的に個体数も多いグループです。

一度に複数種がみられることも多く、キリガの観察や採集をしていればこの仲間の同定には苦労させられると思います。
かつて、みんなで作る日本産蛾類図鑑に、Conistra属の見分け方を分かりやすくまとめたページがあって、すごく重宝していたのですが……近年のサーバーダウンなどの影響か、いつの間にか消滅してしまいました(絶望)

問題のConistra属を始めとするキリガの仲間はむし社から出ている「日本の冬夜蛾」に同定ポイントが掲載されています。

私はこの文献を入手したことでConistra問題には以前ほど悩まなくなってきたのですが、ごく普通にみられる種でありながらネット上に同定に役立つ情報が少ないのが現状です。

自分用にパッと確認できる資料がほしかったし、自分が作った標本の活用にもなるかなという気持ちで……まとめ記事を作ってみることにしました。

今回の記事では「日本の冬夜蛾」の記述内容をベースに、私見も合わせて書いていきます。
Conistra属の5種(カシワオビ、ミヤマオビ、ホシオビ、テンスジ、ゴマダラ)に加えて、誤認されやすいフサヒゲオビキリガとナワキリガを合わせた計7種をご紹介します。

分かりやすい種の見分け方から始めて、段々候補を絞っていくような構成にしてみました。
そもそもここで紹介しているConistra属やその近縁種に該当するのかどうかの判断は……がんばってください
(パッと見て誰でも分かるような明確なポイントはないのです)

よく当てはまる特徴をあえて挙げるなら……。

・秋~春に出現する小~中型の越冬キリガ ・翅の縁はギザギザではない。 ・翅色はオレンジ、赤、褐色などで、  点状の紋やまだら模様はあっても大きな斑はない。 ・腹部にも模様はない。  (クロチャマダラキリガは腹部腹面に黒斑がある) ・内横線や外横線(翅脈を横切る線)は細くあまり目立たない。

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今回紹介する7種です。

今回の記事では、特に前翅の模様や色にフォーカスした比較解説を行います。
したがってこれ以降の写真の多くは前翅(右翅)の拡大写真です。
交尾器や下翅にも各種の違いが表れると思いますが、野外で観察する場合でも使えそうなポイントに絞ってご紹介します。

ホシオビキリガ(まだら型)とゴマダラキリガ

まずは分かりやすい、翅全体にまだら模様のある2種を見分けましょう。
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両者を見分けるポイントは図に示した通りで、翅の色と黒斑の形が違います。
また、ホシオビキリガの方が一般に大型で、翅が長い印象を受けます。
個体数も一般的にホシオビキリガの方が多いです。

ホシオビキリガの白点型

続いてホシオビキリガの白点型です。
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このグループのキリガでこのような白紋が出るのは本種だけですので、これがあればホシオビキリガと同定できます。

ナワキリガを見分ける

ナワキリガはConistra属によく似ているAgrocholorta属のキリガです。
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本種は翅に走る外横線が直線状であることがポイントです。
外横線は図で示した位置にある、翅脈を横切る線です。
前翅の縁も全体的に直線的で、他種より翅が角ばった印象を受けます。

本記事では紹介しませんが、南西諸島のナワキリガは別種(※)に分けられています。
※アマミキリガ(奄美大島・徳之島)、ヤンバルキリガ(沖縄島・久米島)

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また、ナワキリガの見た目の大きな特徴として、肩が張っていることが挙げられます。
胸部の両肩部分に毛が発達していて耳のように顕著に飛び出しています
この部分は野外で止まっている姿を見れば観察できますが、展翅標本にした後では分かりにくいかもしれません。

また本種は照葉樹林のキリガで、アラカシなどが生える林に生息します。
分布も関東以西とされているので、確認地の環境も判断材料にできます。

フサヒゲオビキリガを見分ける

フサヒゲオビキリガはConistra属によく似たIncertobole属のキリガで、クヌギやコナラのある典型的な雑木林に多くみられます。
糖蜜採集をすると大量にみることになる種で、慣れていないと少し迷うかも。
(慣れれば飛翔個体のサイズ感でも大体分かるようになります)

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フサヒゲオビキリガは他のキリガよりも小型の種で、翅の色も明るめのベージュ色です。
♂のみですが、名前の由来になっているフサフサした触角を持ちます。

明るい色の前翅の外縁部付近に並ぶ黒点が目立つことも一つの特徴です。
ただし他種でも同じ位置に黒~黒褐色の点紋が並ぶことがあります。翅色や大きさと合わせて判断できると安心です。

強いて言うなら画像で示したミヤマオビキリガの淡色個体と迷うかなと思います。(一般的にフサヒゲオビが一回り小さいです)
違いを挙げようとすると意外と困るのですが……図中に示した腎状紋と環状紋(二つの丸い紋)の縁取りとかどうでしょう。
フサヒゲオビキリガは縁が白くて丸い紋がよく目立つ印象です。

フサヒゲオビキリガは個別記事があるので置いておきます。
個人的に好きなキリガの一つです。

残りのConistra属

残りはホシオビ(黒点型)、カシワオビ、ミヤマオビ、テンスジですね。
ここから本題です。注意しなければならないのは、ホシオビ黒点型以外の3種は個体変異が結構あります
翅の色や部分的な濃淡が個体により異なり、パッと見での判断を困難にしてしまうのです。

まずは典型的な個体を並べてみるべきポイントを押さえましょう

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(典型的な特徴を書いています。自信が持てなければこの後に続く各種の解説も併せて確認を……)

一番重要なポイントは内横線です。図で示した位置にある、翅脈を横切る線です。
翅の色やコントラストに変異があっても、この内横線には各種の特徴がちゃんと表れています

ただし上段の2種、ホシオビキリガとカシワオビキリガは内横線の形では見分けがつきません。
そこで画像右下に赤字で書いたコメント……翅の色と長さ感をもって判断します。
変異個体の中にも通ずるホシオビの色、カシワオビの色、というのはある気がして……最近でも迷った個体もいましたが最後は手元の標本と見比べて同定できました。

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ホシオビキリガにも稀に極小個体がいるので大きさだけでは確定できない。
ホシオビ以外の3種は変異個体も紹介しつつ各種のポイントを以下に示します。

カシワオビキリガ  Conistra ardescens (Butler, 1879)

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カシワオビキリガの特徴はとにかく赤みが強いことです。
平地のクヌギ林などでは本種ばかりで、個人的には一番よく見るキリガです。

ミヤマオビキリガやテンスジキリガと比較すると、内横線がかなり不鮮明です。
不鮮明ながら、結構大きめに波打っているのが特徴の本種。
私はよく、「内横線マクドナルドみたいなやつがカシワオビ……」と現場で記憶と照合したりします。
マクドナルドのロゴ2つ並べたような、4つくらい山のある波形を覚えておけば自信が持てます。

内横線が不鮮明どころか見えない、というような個体が右側の写真の個体ですが……色や翅の形にしっかりカシワオビの特徴が見受けられました。

ミヤマオビキリガとの見分け方として、難しいですが前翅の外縁部の形も参考にできます。(先述の画像、赤線で示しています)
本種と比較してミヤマオビは丸く張り出す感じです。私はほとんどここを見ずに内横線で同定してますが、色あせ個体など自信が持てない時にみる形質として覚えておくと良いかもしれません。

ミヤマオビキリガ  Conistra grisescens Draudt, 1950

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ミヤマオビキリガには淡色タイプから暗色タイプまでいて悩まされます。
内横線の特徴としは、カシワオビほど大きな波が立たないが、テンスジほどまっすぐでないという微妙なところです。
何となくの傾向としては、上端近くに一山、少しまっすぐで下端付近に隣り合って二山みたいな構成の波になっている気がします。
読み取りづらいものも多く、自分の標本にも誤同定がある気がしてなりません。
カシワオビと比較して山地に多いと思いますが、低地でもみられます。

テンスジキリガ  Conistra fletcheri Sugi, 1958

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テンスジキリガはまっすぐな内横線を期待したい種です。
厳密には上端付近に角ばった一山があります。そこからまっすぐ流れて最後にカクっと曲がって落ちます。
全体として、みたいな形の内横線が出来上がります。
右の写真の個体がなんか波打っているように感じるかもしれませんが、これは展翅が甘くて翅が波打っているだけです。

テンスジキリガには内横線の特徴以外にも多くは翅脈が淡色になる(ならない個体もいる)という特徴がありますが、カシワオビやミヤマオビにも翅脈の明るい個体がいますし、翅が細い、というのも正直自信をもってそう思える個体は少ないです。

また、あえて書きませんでしたが腎状紋の下部には黒斑がないとされています。確かに他種ほど目立ちませんが個体によりうっすらあるようにも見える……

こんな感じで、テンスジキリガの特徴は判断に悩むものが多く、内横線がまっすぐの典型的な個体を引けないと自信が持てないのが私の現状です。
唯一の救いとして、本種は山地性の傾向が強いようで、少なくとも近所の低地ではまだ確認していない種類です。

まとめ:内横線を気にしよう

ここまでの説明で何となく分かっていただけたかと思いますが、このグループを同定する上では「内横線」という形質を確認することが重要になります。

採集して持ち帰り、標本を作るのであれば後からじっくり確認することができますが、現地で観察し写真を撮るのみの場合、少なくとも内横線を含む前翅の基部付近が見えるような撮り方が望ましいです。

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後方から照らすと模様が見やすい気がする(カシワオビ、ミヤマオビ)。

また、採集して一つ一つ同定していけば手元に標本がたまっていきますし、変異タイプへの理解も深められます。集めた標本が次の同定の助けになることもあります。
私も今年の標本整理の時に誤同定標本が次々と発掘されてヤバいな、と思いました……
この記事の同定もどこか間違ってたら……? ごめんなさい(ミスってたら教えてください)

まだキリガ採集を始めたばかりだったり、観察のみだったり手元に比べる資料が不足している方は今回の記事を役立てていただければ幸いです。(などと言う私も手持ち標本資料の不足を感じたので、悩ましい変異個体がいないか今後注視していこうと思います)

今回は現時点で私が持ってる標本の写真を出して説明してきましたが、もちろんまだ私が出会っていなくて紹介出来てない変異タイプもありますので、この記事を読んでも同定に悩んでしまうことは当然あるでしょう。
もっと資料がほしい、そんなあなたには……
「日本の冬夜蛾」がオススメです。(姑息な宣伝)

肝心の比較解説ページがモノクロ印刷なのがけっこう痛いですが、カラープレートに各種の様々な変異個体が示されており、同定の上でかなり参考になります。

キリガの仲間は冬でも採集・観察が可能な魅力的な昆虫です。
まだよく知らないという人もぜひこの本を買って、この冬はキリガを好きになりましょう。

キリガの採集記、置いときますね。

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