コオイムシとオオコオイムシの違い【標本の比較】

日本においてコオイムシ属(Appasus)は、

  • コオイムシ
    Appasus japonicus Vuillefroy, 1864
  • オオコオイムシ
    Appasus major (Esaki, 1934)

の2種が知られています。
コオイムシもオオコオイムシも北海道・本州・四国・九州に分布します。ただし対馬にはコオイムシのみが分布します。
コオイムシ
♂が卵を背負う姿から「子負い虫」の名で呼ばれます
どちらも水生植物が豊かな止水域を中心に生息する水生昆虫で、時には混生します。
2種は非常によく似ていて、同定に悩むことが多い昆虫です。
本記事ではコオイムシとオオコオイムシの違いと彼らの見分け方について、私が持っている標本を用いて解説します。

違い1 前脚腿節の太さ

まず一番はっきり違いが出る前脚を見ていきます。
前脚のカマを受ける部分、腿節はオオコオイムシでより太くなります。
コオイムシとオオコオイムシにおける前脚腿節の比較
コオイムシとオオコオイムシにおける前脚腿節の比較
オオコオイムシの前脚腿節は前縁・後縁ともに強く盛り上がり弧状になっています。
一方コオイムシでは、特に後縁部で盛り上がりが弱く縁も平らな印象です。
両種の標本を並べてみると一目瞭然なのですが、単体では判断に悩むかもしれません。

違い2 前胸背前縁中央のくぼみ

前脚で自信が持てなかったら前胸背を見ましょう。両種とも前胸背の前縁部には”くぼみ”があり、ここに違いが出ます。
コオイムシとオオコオイムシにおける前胸背の比較
コオイムシとオオコオイムシにおける前胸背の比較
コオイムシでは前胸背前縁中央のくぼみは浅く、オオコオイムシでは深くなります。
画像では赤線で前縁部をなぞってみました。確かに深さに違いがある事が分かるかと思います。
ただ、個人的には線でなぞるまではどっちも同じに見えていました
手元のコオイムシ標本を見た限りでは、日本の水生昆虫(中島ほか,2020)で示されている図ほど明確な差はない印象です。
これも両者の標本をしっかり見比べたら分かる、気がするくらいの微妙な違いです。

違い3 体長と体色の傾向

3つ目の違いとして体長と体色の傾向にも触れておきます。
あくまで傾向がある、というだけで体長や体色は決定打にはできないことに注意が必要です。
コオイムシとオオコオイムシの大きさ比較
コオイムシとオオコオイムシの大きさ比較
一般にオオコオイムシの方が大型で、体色は濃い(暗い)褐色になることが多いです。
入手したオオコオイムシの標本を手元のコオイムシ標本10個体と比較しましたが、どの個体よりも大きく濃い色をしていました。
単に大きいだけでなく「幅広い」という印象も受けました。体形にも若干の違いがありそうです。
今回紹介に用いたオオコオイムシは、「まさにオオコオイ」という感じの典型的な個体だったというわけです。
日本の水生昆虫(中島ほか,2020)では両種の体長は以下のように記されています。

  • コオイムシ:17.0-25.5 mm
  • オオコオイムシ:18.5-28.0 mm

これを見ると、オオコオイムシでも判断に悩む小型個体が出ることが分かります。
体色についても変異があったり標本にすることでの変色があるため注意が必要です。
一般に明るい褐色の個体が多いコオイムシの中にも、濃い褐色の個体が出ることが確認されています。
体長や体色についてはあくまで検討材料の一つとして置いておいて、前脚や前胸をチェックすることを欠かさないようにしましょう。

生息環境などの違い

2種はともに水生植物が豊かな止水域に生息し、時には混生することもあるようですが……特に好む生息環境が両種で少し異なるようです。
コオイムシが主に生息するのは、平地から丘陵地の池や水田、周辺の湿地などです。
一方でオオコオイムシは主に丘陵地から山地の湿地に生息し、コオイムシよりも浅い水域を好む傾向があるようです。

コオイムシがいた休耕田の水たまり(長野県)
また、一般的な感覚ではオオコオイムシの方が出会いづらい昆虫ですが、レッドリストなどでの評価はコオイムシの方が高いです。
コオイムシは環境省のレッドリスト(2020)で準絶滅危惧種(NT)に指定されていますが、オオコオイムシでは指定はありません。
都道府県別のレッドデータブックなどの掲載状況を見ても指定状況の違いは明らかです。
オオコオイムシでは15都道県で指定されているのに対して、コオイムシでは31都府県と倍の都道府県でレッドリストなどの指定を受けています
推測ですが、コオイムシの方が低地の止水環境に好んで生息する種だったために開発や水質汚染の影響を受けやすく、減少が著しかったのではないかと思います。

まとめ

コオイムシとオオコオイムシは前脚腿節と前胸背前縁を見ることで見分けることができます。
体長や体色も参考にしながら同定していきましょう。
確認の難易度は高いですが、本記事で紹介した点以外にも口吻の長さや♂の交尾器などにより見分けることができるようです。
もし本記事の内容だけで自信が持てなければ、以下もあわせてご参照ください。

角田 亘,2002. 福島県と神奈川県のコオイムシとオオコオイムシの外部形態
https://www.museum.yokosuka.kanagawa.jp/wp/wp-content/uploads/2020/08/s49-3_Tsunoda_2002.pdf

苅部治紀・高桑正敏,1994. 神奈川県を主としたコオイムシ属2種について
https://nh.kanagawa-museum.jp/www/pdf/nhr15_011_014karube.pdf

先日、ようやく紛れもないオオコオイムシの標本を入手したのでこのような比較記事を作ってみました。
これからは私も、もう少し自信をもってコオイムシ属を同定できるような気がします。
コオイムシ
水たまりにいたコオイムシ(栃木県)
現状、コオイムシは里山などの自然が豊かで水がきれいな環境を中心にみられるような昆虫だと思います。
しかし、埼玉県でも平地での確認例が最近出てきています。
いずれはかつてそうだったように、平地の湿地や水田地帯にみられる虫に戻ってくれるかもしれません。
そうなればこの虫を同定する機会も増えるはず!
本記事がコオイムシ同定に悩む人の助けになれば幸いです。

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