コブの形と背中の色を比べよう
シロコブゾウムシとヒメシロコブゾウムシはどちらもゾウムシの仲間としては大型の種類です。
野山を歩いていると目につきやすい昆虫だと思います。
名前はよく似た2種ですが、見た目にはいくつかの違いがあります。

背面からみた2種の比較
名前の通り2種とも「コブ」を持つゾウムシですが、シロコブゾウムシは特にとがった大きなコブが目立ちます。
ヒメシロコブゾウムシは上翅の基部中央部分が黒色になっています。
ただしシロコブゾウムシも背面が暗色になったり擦れて黒っぽくなることがあるため、コブの形を見て判断するのが確実です。
側面から見た2種の比較
側面から見ると「コブ」の違いがより詳しく分かります。
シロコブゾウムシにはとがった1対のコブが目立ちますが、ヒメシロコブゾウムシには多数の丸いコブがありゴツゴツした上翅になっています。
2種を見分けるだけならこれだけ覚えればOKです。
2種を見分けるだけなら……ね(笑)
(ヒメ)シロコブゾウムシの仲間
日本国内には、彼らの近縁種が他にもいくつか生息しています。
これ以降は、シロコブゾウムシとヒメシロコブゾウムシの2種に加えて近縁の4種(計6種)を紹介します。
シロコブでもヒメシロコブでもないゾウムシに出会ったら、もしかしたら本記事で紹介するゾウムシかもしれません。
ヤマグワをかじるクワゾウムシ
今回紹介するシロコブゾウムシやヒメシロコブゾウムシが含まれるグループはクチブトゾウムシ亜科に分類され、太く発達した口で樹木の葉っぱなどをかじって食べます。
なお、(ヒメ)シロコブゾウムシの仲間はいずれも後翅が退化していて、飛ぶことができません。
「ゾウムシ界のコブヤハズカミキリ」なんて呼ばれるほどで、種によっては亜種や地理的な変異があります。
(参考:コシロコブゾウとは何か)
紹介する6種
国内で知られている(和名のある)種は以下の通りです。
シロコブゾウムシとヒメシロコブゾウムシは別々の族に分けられていて、それぞれの族に近縁種がいます。
シロコブゾウムシ(基亜種) Episomus turritus turritus (Gyllenhal, 1833)
シロコブゾウムシは基亜種が本州から九州、種子島にかけて分布し、対馬には対馬亜種が分布します。

クズの生える林縁部にいた(埼玉県:2024.05.19)。

背面が濃い褐色のタイプ(福島県:2023.06.17)。
本種は初夏の林縁でときおり見かけるゾウムシ、という印象です。
クズやフジ、ハリエンジュなどマメ科の植物につくようで、それらが生育する林縁の下草や低木に止まっている所を見つけることが多いです。
珍しいというほどではありませんが、一度に多数の個体を見ることはあまりないと思います。

大型でがっしりした体で、ゆったりと動く。
触れ合いやすい甲虫ですよね(福島県:2021.07.12)。
シロコブゾウムシの食べ物はマメ科植物の葉っぱです。
クズやフジの葉っぱを摘んできて与えることで、飼育することもできるでしょう。
成虫は葉っぱを折りたたんでその中に産卵し、幼虫は土中に潜ってマメ科植物の根を食べているのだそうです。
(参考:シロコブゾウムシの産付卵 – 自然となかよしおじさんの “ごった煮記”)
コブの発達度合いは個体により違う。この個体は大きめ。
背面の色の濃さに個体変異がありますが、とがった1対のコブを確認できれば自信をもって同定できます。
後述するクワゾウムシにはコブがありません。
クワゾウムシ Episomus mundus Sharp, 1896
クワゾウムシは本州から九州、屋久島にかけて分布します。

マグワについていたクワゾウムシ(静岡県:2023.06.23)。
名前の通りマグワやヤマグワ、イヌビワといったクワ科の葉を食べるゾウムシで、大発生して害虫となることもあるとされます。

クワの葉を外側から不規則に食べ、食痕がよく目立ちます(静岡県:2018.05.05)。
クワ畑の衰退とともに姿を消しているのか、どちらかといえば珍しい種のようです。
クワゾウムシとシロコブゾウムシの比較
大きさや色合いはシロコブゾウムシとよく似ていますが、クワゾウムシにはコブがありません。
背中が滑らかであることが確認できれば、自信を持てます。
体長が12mm以上ある大型のゾウムシであることも重要です。
(小型種には他のグループで似るものが多い)
本州におけるクワゾウムシの分布は疑問視されていましたが、岡山県で60年以上前に採集された標本が残されていることが最近になって判明しています。

静岡県で見つかった発生地。個体数は多そう。
さらに、2018年には静岡県で生体が複数発見され、現在も本州に生息していることが明らかになりました。
(永井・伊達(2024)クワゾウムシの本州における記録の再検討と静岡県からの追加記録. 月刊むし(638):48–49.)
本種が発見された場所の付近はリゾート地なので、九州などから植栽木についてきた移入個体の疑いもあります。
ただし静岡県にも50年ほど前に採集された標本があり、在来個体群の可能性も否定できません。
同定には使わないけど交尾器の写真も撮っておきました(静岡県産)
今後、本州で新産地が見つかるかどうかに注目したい虫ですね……!
暖地性っぽいので、西日本や太平洋沿岸部に可能性がある感じがします。
オキナワクワゾウムシ Episomus mori Kôno, 1928
オキナワクワゾウムシは南西諸島(トカラ列島の中之島以南)に分布するゾウムシで、クワゾウムシと分布が重複しない独立した種です。
標本は買った(石垣島産)
形態はクワゾウムシと非常に似ていますが、前胸背の溝に差が出ます。
手前オキナワクワゾウムシ、奥クワゾウムシ
前胸背中央部の溝は、クワゾウムシでは浅めで部分的に不明瞭になりますが、オキナワクワゾウムシでは全長にわたって深くなります。
口吻の比較
また、オキナワクワゾウムシは口吻が吻葉(どこ?)で両側に広がるとされます。
口吻の写真を撮って並べてみたところ、オキナワクワで幅が広い部分があることが分かりました。
ここのことを言っているのかな……?
触角の比較
さらに、オキナワクワゾウムシでは触角の第7中間節で幅と長さが等しいとされます。
ここだけはどうしても納得がいきませんでした。
1節目の長さで比べたらしっくりくるような気がします。
まさか、1と7を見間違えたなんてことは……
(オキナワクワゾウムシの交尾器抜きを失敗したため交尾器の比較はなし……)
そもそも2種の分布域は重複しないので、移入を疑うような状況でなければ分布から判断してよいでしょう。
ここまでの3種がシロコブゾウムシ族です。
ヒメシロコブゾウムシ Dermatoxenus caesicollis (Gyllenhal, 1833)
ここからの3種はヒメシロコブゾウムシ族です。
ヒメシロコブゾウムシは北海道から南西諸島まで広く分布するゾウムシです。

ウドの若葉についていた(長野県:2019.05.22)。
シロコブゾウムシとの違いは記事冒頭に書いた通りです。
本種の方が小型で、寄主植物はウドやタラノキ、ヤツデなどのウコギ科の植物です。
ヒメシロコブゾウムシの標本(埼玉県:2021.05.08)。
白っぽい体表の真ん中に黒色部がある見た目は鳥の糞に擬態したものと思われます。
2021年には埼玉の河畔林で、クヌギの樹幹に生えるキヅタ(ウコギ科)をすくったら1頭だけ採れました。
意外と低地にもいるようです。

長野に住んでいた頃は、田畑の畔や林縁に生えるウドやタラノキの葉上でよく見かけました。
ただし、これらの栽培地では新芽を食害し生育を遅らせる害虫となり、駆除されます。
(参考:ヒメシロコブゾウムシ成虫のタラノキにおける生息部位と卵巣発育およびMEP乳剤による殺虫効果)
一方でシロコブゾウムシと同じように触れ合いやすい大型甲虫のため、飼育を試みる方もいるようです。
生態もシロコブゾウムシと似た感じで、葉っぱを折って隙間に産卵するみたいですね。
(参考:ヒメシロコブゾウムシの貴重な産卵シーン – ひよこまめ雑貨店)
↑園芸植物でウコギ科のオカメヅタ(アイビー)を食べるなら庭先で出会うことも有り得ますね……!
キヅタとか園芸ウコギ科がいけるなら、餌の調達も困らないで飼育できそうです。
コシロコブゾウムシ Dermatoxenus montanus Morimoto, 2015
コシロコブゾウムシは本州から九州まで分布するゾウムシです。
ヒメシロコブゾウムシとよく似ていますが、コブの数や配置が異なるほか、より濃い色で背中の黒色部もあまり発達しないようです。
(参考:コシロコブゾウとは何か)
↑標本写真や詳しい解説が書かれています。
保育社の『原色日本甲虫図鑑(IV)』のヒメシロコブゾウムシの項に書かれている「本州にはよく似た別種がいる」の別種=コシロコブゾウムシです。
以前から存在は知られていましたが、学名が定まったのはわりと最近でした(2015年)。
成虫はセリ科のシシウドについているようです。
基本は褐色のゾウムシですが、場所によっては全身緑色になるタイプも出るみたい。
そんなコシロコブゾウムシですが……私はまだ見たことがありません。
(なのでここで写真は紹介できません)
今年、探しに行きたいなと思っています。
関東よりは東北か日本海側、山奥の虫って印象がありますが……どこに探しに行くのがいいかなあ。
(採れたらもう少し追記します)
ウスヒョウタンゾウムシ Dermatoxenus clathratus (Roelofs, 1873)
最後にウスヒョウタンゾウムシを紹介します。
本種はここまで紹介してきたゾウムシと比較すると全体が濃い褐色で見た目も特徴的なゾウムシです。

ハナウド?の葉上にいた(長野県:2020.06.02)。
成虫はシシウドやハナウドなどのセリ科植物によくみられます。
ヒメシロコブ、コシロコブを合わせた本属の中では分布域がいちばん南に偏っている種かもしれません。
長野県には幸い本種が生息していたため、学生時代に出会うことができていました。
ウスヒョウタンゾウムシの標本(長野県:2020.06.02)。
上翅にコブがなく、点刻は大きくハッキリしていてまだら状に見えます。
緑灰色~銅褐色まで色彩変異があるようです。緑味のある個体は見たことがないですね。
本記事で紹介したゾウムシの中では迷いにくいと思いますが、他のグループのゾウムシには見た目や名前がよく似た種が多くいます。
植食性の甲虫類は野外でついていた植物が同定のヒントになることが多いため、植物と合わせて写真を撮っておけるといいですね(自戒を込めて)。
まとめ
今回はシロコブゾウムシとヒメシロコブゾウムシ、ほか4種を紹介しました。
「コブ」の有無と形をよく観察すれば、間違えずに同定できるゾウムシです。

私はこの中でもクワゾウムシとのご縁に恵まれたことで、彼らについて調べる機会をもらいました。
そんな中で、彼らが昔からけっこう誤同定されていることを知り、こんな記事を書いてみました。
私も初見では誤同定していた者の一人だったので、そんなことも思い出しながら……
このグループは日本でふつうに見られるゾウムシとしてはオオゾウムシやマダラアシゾウムシに並ぶ大型種です。
各種の違いを比べながら、親しみを持って見てもらえたらうれしく思います。
私は今後コシロコブゾウムシを探しつつ、この仲間の地域変異とか気にして標本を集めようという気になりました。
こうなると、九州のクワゾウムシも気になってくる……!!
(最近の調子:あと1カ月で復職できなかったらクビ
危機感と戦いながら復帰修行編へ突入…)

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