前回↓

”聖地”と呼ばれる場所
今年は7月の中頃に有給を使って6連休を錬成することができました。せっかくなので少し遠出しよう! ということでレンタカー借りて3泊4日の採集遠征に行きました。宿泊を伴う単独での遠征採集、実は今回が初めてです…
本記事はこの記事の続きです。
2022.07.12
ゴオオオオ……という凄まじい音で目を覚ますと、まだ朝の5時でした。
音の正体は雨。外は大荒れの天気です。
4日間の中で今日は最も天気が悪く逃げられそうになかったため、網を振るのは諦めて”雨でもやれる採集”をします。
やってきたのは久々の中信地域。大学時代の最初の1年を過ごした場所です。
この地域にはナワシロイチゴを寄主とする珍しいタマムシの記録が知られます。
学生時代にも1度狙いに来たものの敗北↓。今回はそのリベンジでもあります。

中信採集遠征 1日目: 疑惑は確信へ。
2018.06.166/16,17の二日間は、いくつかのタマムシを目標にして、私が去年1年を過ごした場所… 中信の方で採集を行いました。直前になって天気が心配され、雨の中頑張る覚悟も決めていましたが…
運がいいことに雨は8時頃に上がり、時折日が差し込むほどに天気が良くなりました。
学生時代も含めてこれまであまり訪れてこなかったエリアを攻めていきます。
そうやって探索を始めて数時間後の事でした。
一塊のクサボケがありました。久しぶりに見たかも。
春にこんな花を咲かせます
クサボケはバラ科の落葉低木で、長野県では河川敷などの草地に生えていることがあります。
本種はズミチビタマムシ(未採集)の寄主植物の一つとされているため、これまで見つけたら極力スウィーピングするようにしてきました。
チビタマ食痕のようなものがあるような気がしなくもない
今まで見てきたクサボケにこんな思わせぶりな食痕あっただろうか、と思いつつも内心本当はクサボケが寄主かどうかまだ疑っている私は深く気にせず、いつものようにビーティングをします。
叩くというか、もはや蹴って流し込むような形
お、チビタマが落ちてる。
このシチュエーションは……いや騙されねえ、近くにクズがあるはず___ない!!
そんな、まさか……
よく見たら全然クズノチビタマじゃない
体型はたしかにクズノチビタマと同じ”くさび形”ですが、胸の黄色毛も少ない。
上翅も青味ががったような色でむしろソーンダーズに近いような印象です。
クズノチビタマムシであれば通常胸部に黄色毛が目立つし、ソーンダーズチビタマムシの体形はこんなにくさび形ではない。
相当なイレギュラー個体でなければ、ズミチビタマムシと思うけど自身が持てませんでした。
この1区画だけで発生しているものではないはず。他にも発生木が見つからないだろうか……
しばらく付近を歩き回っていると、
こんなところにズミが___
あ!!!!!!
嘘だろ___ズミを、食べてる!!!
(撮影の瞬間に感づかれて転がり落ちそうになったので慌てている写真)
ブレブレ写真しか撮れませんでしたが、まさしくズミの葉をかじっているチビタマムシの姿がそこにありました。
ここでようやく、先ほどの個体もズミチビタマムシであると確信出来ました。
これがズミチビタマムシの食痕だ!
というかお前、ほんとにズミ食べるのかよ!!
名前に”ズミ”ってついてる割に最近目にした採集事例はナナカマドとかアズキナシとか、クサイチゴの葉上にいたとかですし、学生時代は長野県内各地でズミを見つければスウィーピングしていたのに一度も出会うことはなかったためズミにつくというのは嘘なんじゃないかと思ってました(笑)
ズミチビタマムシ
Trachys toringoi Y. Kurosawa, 1951
タマムシ大図鑑での珍品度は★★★★(少ない)。落ち着いて撮影など出来る余裕はなかった……
しばらく周辺を探してクサボケやズミを見つけるも追加はなく、最初の個体が見つかったクサボケを丁寧にルッキングして葉上にいる個体や葉を食べる個体を少数確認できました。
確かズミチビタマムシの古い記録はこの地域にもあって、しかもかなり街中の記録だったので内心疑っていたのですが……こういう形でちょっとしたクサボケやズミを利用することもあるのですね……!
ナナカマドなどがある山地帯上部~亜高山帯を主な生息域にしているようなイメージがあったのですが、やっぱりどこでも注意する習慣がないとダメですね。
ズミチビタマムシと近縁2種の比較
Googleで「ズミチビタマムシ」と画像検索をかけるといくつかの結果↓が表示されますが……
その実態はこのようなもので、この中にズミチビタマムシの写真は1枚もありません。
(誤同定サイトとして名高い荒川昆〇記の存在が戦犯では……?)
ズミチビタマムシ Trachys toringoi Y. Kurosawa, 1951

これが正しいズミチビタマムシです。
本州から九州に分布し、ズミやクサボケを始めとするバラ科木本(ナシ亜連Pyrinae)を利用します。
前胸に黄色い毛は少ない点で(この個体は多い方かも)クズノチビタマムシとは異なり、程度に差はあれ上翅が青味を帯びることが多いのも本種の特徴なのかなと思っています。
私も現地で実際迷いましたし、パッと見で同定するのは危険に思いました。
サイズ感や色味が似ていて特に誤認されやすいかなと思う2種について、ここで紹介しておきます。
クズノチビタマムシ Trachys auricollis E. Saunders, 1873
北海道南部から九州にかけて、平地~山地までごく普通にみられるチビタマムシで名前の通りクズを寄主とします。
東北など寒冷地では少ないようで、関東や中部でも標高を上げるにつれて遭遇頻度ががくっと下がる印象があります。
体形はくさび型でズミチビと似ますが胸部に黄色の毛が多く、明らかに胸が黄色く見えます。
また上翅の色は黒色で青味を帯びることは基本ありません。
(標本写真なかった……そのうち追加します)
ソーンダーズチビタマムシ Trachys saundersi Lewis, 1893
本州~九州(?)の分布で、ウツギやヒメウツギを寄主とする関係で丘陵地~山地でよくみる印象です。
本種は標高を上げてもみかけますが、同じくウツギ類を寄主とするアカガネチビタマムシよりは低標高で出やすい印象があります。
体型は長卵形。クズノチビやズミチビよりも一見して“長い”印象があります。
上翅もふつう黒色ですが、たまに青味のある個体もいます。
それと、詳しく紹介はしませんが上述の3種に非常によく似たクサビチビタマムシという種もいます。
タマムシ大図鑑珍品度★★★★★(稀)、記録は僅かで実在するのかも不明な伝説上の生き物です。
↓中国語ですが、上述4種が写真付きで解説された論文が見れます。
楔形潜吉丁的重描述及近似种的形态学比较(鞘翅目:吉丁科:潜吉丁族)
摘要:由于楔形潜吉丁Trachys cuneiferus Kurosawa,1959的原始描述过于简单,且缺少鉴别特征图…
(これみると、普通にクズノチビタマと見分けがつかない……)
まずは基本的な3種の形態を押さえつつ、現場の環境や採れた植物(最重要)から判断していくのがよいと思います。
とは言え、現時点でズミチビタマムシに関する私の印象としては、「適当に野山を歩いていて出会えるような生き物ではない」です……
近縁種との見分けが難しく感じるかもしれませんが、平地や低山帯で出会うものはまず本種ではないという認識を持っていいと思います!出会えたら超ラッキーだ!!
ちなみに、2022年に発売されたばかりの「タマムシハンドブック」にはここで紹介した3種の鮮明な標本写真がしっかり掲載されていますので、そちらを見て頂ければ各種の違いがよりよく分かるかなと思います。
ここからはズミチビタマムシの観察を終えたあと。
(これ採集記なんですよ、思い出しました?)
広大なナワシロイチゴ群落に行き着いたので、ひたすら頑張ってました。
午後からは雨も降ってきましたが、合羽着て可能な限りは続行。
(数年使い続けてきたビーティング傘は、この日の採集で完全に壊れてしまいました)
キオビクビボソハムシ
Lema delicatula Baly, 1873
1頭だけキオビクビボソハムシが採れました。有毒なアオバアリガタハネカクシ擬態の虫です。
ツユクサにつく虫ですが、基本的にあまり多くないので出会えるとうれしいです。
ヒラタチビタマムシ
Habroloma subbicorne (Motschulsky, 1860)
狙いのタマムシと同じくナワシロイチゴ食のタマムシであるヒラタチビタマムシは頻繁に採れるものの、本命にはやはり届かず。
なんとなく環境もこういうのではない気はするけど、なかなかいい感じの場所を見つけられず今回も敗北でした。
15時頃からは雨が本降りになってきたため採集は切り上げ。
道中で学生時代(1年目に)にお世話になった伐採地を通りかかりました。樹木も随分成長して、当時の面影はもう、残っていない……
採集後は高速に乗り長野県を出て、次の目的地へ移動です。
ここまで来たなら伊那まで行くのもあり、と思ったけどどうせ10月くらいに行くからいいやなどと思いスルーしました……(結局行けなかった、あれは何だったのだろうか)
移動の高速道中はとてつもない大雨で、確か埼玉でも記録的な豪雨を観測した日だったと思います。
(雨が激しすぎて、ほとんど先が見えないような状態でした)
なんとか豪雨地帯を抜けると日本海が見えました。
残り2日は日本海側に居ましたが、遠征中に海を見たのはこの1回だけでした。
3時間半ほどで目的地付近の街に到着。今日はちゃんと(?)宿をとりました。
ライトトラップのバッテリー類を充電しつつ、翌朝の出撃に備えて寝ます……
↓続く

気づきを得た日
前回↓ズミチビタマムシとの邂逅2022.07.12ゴオオオオ……という凄まじい音で目を覚ますと、まだ朝の5時でした。音の正体は雨。外は大荒れの天気です。4日間の中で今…kontyuki.blog.fc2.com本記事はこの記事の続きです。2022.07.13泊まったホテルに門限があり、朝6時まで出られなかったので6:00ジャストを狙ってチェックアウト。目的の山へ向かいます。3日目になる今日からは新潟県での採集となります。目標は現在までに新潟県でし…

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