
トオヤマシラホシナガタマムシ
Agrilus ventricosus Fairmaire, 1888
彼らは、7月から8月の真夏の暑い日に寄主植物であるエゾエノキの樹幹部に現れます。
日本のナガタマムシの中でも大型で屈指の美麗種です。日本産タマムシ大図鑑での珍品度は★★★(やや少ない)。
本州のみに分布し、生息地は限られているようです。幸いにも私の住む長野県では、他県と比較しても本種の生息地は多いのではと思われます。
私は行ったことないですが、有名な産地があるみたいです。
私は長野県に来て一年目だった2017年、中信において幸運にも発生木を見つけることができ、無事に出会うことができました。(エゾエノキという樹木の特徴についてはこちらに書いてます)
大学生になってから最初の夏休みを迎えるにあたって、長野にいるうちに採りたい虫の候補として挙がった虫の1つが「トオヤマシラホシナガタマムシ」でした。トオヤマシラホシナガタマムシはエノキによく似たエゾエノキにつき、シラホシナガタマムシによく似たタマムシです。…
エゾエノキと発生木
南信に移った2018年。
もちろんこちらでもトオヤマシラホシに出会いたいという思いはあり、まずは寄主植物のエゾエノキを探すことにしたのですが……
思いの外普通に生えていた。
なんなら普通のエノキよりもエゾエノキの方が圧倒的に多く、本来エノキがよく生えるような川沿いの林においても見つかるのはエゾエノキばかりでした。
中信は普通のエノキばかりだったけどなあ……
とりあえず無事にエゾエノキを見つけることができたので次のステップへ。
トオヤマシラホシナガタマムシが生息しているかどうかは、エゾエノキの生木樹幹部を見ることで簡単に判断することができます。
発生木は写真(中信 2017年)のように樹皮がひび割れて荒れており、ナガタマムシ特有である半円形の脱出孔が多数空いていることが多いです。
太さにはこだわりはないようですが、樹皮が滑らかな場所には基本的に脱出孔が見られないので、樹皮が荒れているかどうかがポイントのように思います。
(ナガタマムシが入ってから荒れるのか、アリなど他の要因で荒れた樹皮にナガタマムシが好んで産卵しているのか、その辺の順番はよく分からない)
発生木かどうか確認するため、各地でエゾエノキを見つける度に樹皮をぐるりと見て回っていました。
しかし、それらしい発生木は全然見当たりませんでした。
1年目は脱出孔のようなものを一つだけ見つけるだけで終了。
1つだけしかないのは不自然だし、周囲の環境を見てもナガタマムシが好みそうな場所ではなかったので、偶々似たような形に穴が空いていただけと考えるのが自然に思われた……のですが。
それを発見した場所周辺には立派なエゾエノキの高木が多数みられ、ちゃんと探せばもっといいエゾエノキが見つかるのではないかという希望は感じられました。
そして……2019年5月。
採集のついでに上述したポイントの未探索部を見ていくことにしました。
そこで通りかかった場所にも、やはりエゾエノキが生えていました。
何気なく通り過ぎそうになりましたが、荒れた樹皮が気になった私は自転車を降り、木に近づいてよく見てみました。
「____これだ!!」
まさしく探していた通りのエゾエノキがそこに。
1年前に脱出孔らしき痕跡を見つけた場所からほんの少ししか離れていない場所でした。あの時点で結構惜しい所まで行っていたのだ……
脱出孔がある木は林縁部に3本程確認できましたが、それ以外の発生木は周辺でも未だに確認できていません。発生地はごく狭い範囲内だけでした。
ここまで情報がそろえば後は発生時期に合わせてもう一度ここを訪れるだけです。
____夏に、必ず会いに来ます。
トオヤマシラホシとの再会
2019.07.17
時は満ちた。いざ勝負。
いや勝負も何も、発生時期を外していない限りほぼ確実に採れるはずなので、私が特別スウィーピングとか頑張ることはないのですが……
既に発生が絶えた後という可能性もあるので、そうでないことだけをひたすら祈りつつ、現地へ。
「ハァ…ハァ…敗北者……!?」
頑張ってチャリ漕いできて、汗だくになった私は、エゾエノキの前で息を切らしながら敗北を悟ったのでした。
時期的にはもう全然出てると思ったんだけどな……
記憶が正しければこの日は午前中しか時間が取れず、1限後(10:30)に出発して11:30までには現地から引き上げるという超ハードスケジュールだった気が。
天気は悪くなかったけど時間帯を外したのではないか、という感覚はありました。
本命は外したもののムネアカナガタマムシとネムノキナガタマムシは採れました。(写真の個体)
ムネアカナガは大量には見かけないですが、いろんな場所でポツポツ得られています。
ということでまたリベンジせねばならなくなった。ここ来るのは結構疲れるけど、それだけするに値する虫だから、喜んで!何度でも参りましょう……!!
2019.07.23
前回の反省を踏まえて、今度はちゃんと午後から時間を取れる日を選んでリベンジへ。
現地着は13時過ぎごろ。早速エゾエノキの樹幹をルッキングしていく……
「あれだ!(確信)」
少し高い位置の幹を這っている1頭のナガタマムシを見つけました。はっきりと姿は見えませんが、他のナガタマムシに無い色と重厚なオーラ、そして何よりこのシチュエーションが全てを物語っていました。
2.2mの網でも届く高さだったので、網を伸ばして捕獲を試みる。
この手の樹幹にいる虫は、網を虫のギリギリ下に持ってきて樹皮に当て、ひねりながら上にスライド、枠の布が軽く虫に被ったところで一気に下に引き摺ると巻き込まれて虫も落ちてきます。
(アオタマや冬夜蛾の採集で良くやる戦法、かなり安定して網に落とせる)
今回も無事に確保に成功しました……
「美しすぎるでしょ……」
紛れもなくトオヤマシラホシナガタマムシでした。陽の光に照らされて強烈な金属光沢を放っています。この重量感と美しさはシラホシナガタマムシにはありません。
エゾエノキが簡単に見つかった割に発生木の発見までかなり時間がかかったので、一時は本当に近場にはいないのかと思って諦めていましたが……こうしてまた、自分で見つけた場所で出会うことができて本当に嬉しいです。
前回(2017年)は1頭のみで終わりましたが今回はこれで終わるはずがなく……
この後も続々と樹幹を這っている個体を発見できました。彼らは絶えず歩き続けている上に極めて警戒心が強いので撮影が難しい……けどこの虫なら何時間でも見ていられる。
縁が赤い左の個体は産卵場所を探す♀で、青みの強い右の個体は♂です。
♂が青くなるのはアオタマムシと似ていますね。
♂は♀に比べて少なく、樹幹で1頭とスウィーピングで1頭得られたのみでした。
(2.2m網なのですくえる枝に限界があったが、運良くペアが網に落ちた)
発生木はこんな感じ。
トオヤマシラホシが見られたのはこの写真の1本(根元で二又に分かれている)のみでした。
しかし、脱出孔自体は近くの別の木でもちゃんと確認しています。(こちらからはスウィーピングで落ちた)
この場所がそもそも日当たりが微妙な林縁で、活動のピークだった昼の時間でも前の写真の樹幹の一部(丁度、写真のあたり)にしか日が当たらないという条件だったので、余計に日が当たらない木ではほとんど見られなかったのかもしれません。
15時頃には活動個体も見られなくなりましたが、それまでに満足できる数を採集することができました。
一番濃いと感じた時間帯は14時前後でした。撮影中に次から次へと現れるので幸せに溺れて死にそうだった。
前回に比べれば遥かにちゃんとした生態写真(この記事のトップに持ってきた写真)も撮れたし、非常に幸せな時間を過ごすことができました。
今年もまた観察に訪れられたらいいなと思っています。まだ新たなポイントも見つかりそうな気がしています……!


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