挑むことに意味がある

休職から復帰して3カ月ほどたちました。
当初は週に2、3日は調子が悪くて休んでいましたが、最近は会社に出れる日が多くなりました。
先月はようやく欠勤ゼロを達成。中で仕事する分には問題なくやれています。
調子が良い日も多くなり、週末も半日ほどなら近所に採集に行ったり出かけたりできるようになってきました。
そんな中でまだ出来ていないのが、遠方での一日採集。
近所の採集なら疲れた段階で帰宅できますが、遠方だとそうもいかないので……遠くの山での採集が実現しないまま8月になってしまいました。
低地では時期的に出来ることがほぼなく、しかも猛暑で活動が危険な日々が続いています。
各種のタマムシが楽しい季節にほとんど何もできなった2024年。最後に(暑くない)山で何か……したい。
このあいだの「昆虫MANIAC」でモチベーションが上がったので、もう成果とか関係なくいろいろな虫が見られればいいだろう。
場所にこだわらず、無理なくいける山に行こう__


2024.08.10
ということで、群馬県の山まで来ました。
電車で来たので、帰りの運転とかは心配せずやれそうです。
(先週、車で遠方に出ようとしたが体調が悪く、敗北している)

まだ若そうに見えたホオジロ。さえずりの練習をしていました。
山の麓にはススキ草地がそこそこあって、たくさんのヒガシキリギリスが鳴いていました。
エンマコオロギやハラオカメコオロギ(たぶん)、クサヒバリの声も多く、すっかり秋らしくなりました。
少しだけ湿地もありました。

ハラビロトンボ
Lyriothemis pachygastra (Selys, 1878)
湿地の近くにはハラビロトンボがいました。
浅い水域で発生するトンボで、成虫も湿地に多くみられます。
シオカラトンボと比べると小型で腹が広く、頭胸部が黒いことで見分けられます。
今年は仕事でハッチョウトンボの多産地に行くことがあったのですが、そこにはハラビロトンボも大量にいました。
もちろんハッチョウトンボも信じられないくらい大量にいて、楽園のような場所でした。
あれ以来、ハラビロトンボを見るとハッチョウトンボもいるんじゃないかという気がしてしまいます……(笑)
山に入ったところで、網を展開して採集を始めます。

樹種はコナラが多く、イヌシデもある。
時期的にイヌシデなどシデ類を徹底的にすくえばいいタマムシが採れる可能性がありますが、今日はあんまり成果に縛られずに行きたいので自由にやっていきます。

ラミーカミキリ
Paraglenea fortunei (Saunders, 1853)
足元のカラムシにラミーカミキリがいました。
本種は中国大陸由来の外来種で、現在は東北以南の本州~奄美大島あたりまで分布しているようです。
(もともと北限は関東地方でしたが、2019年に秋田県で発見されたそう。)
今のところ生態系に悪影響を及ぼしている感じはないですが、園芸植物のムクゲ(アオイ科)を食害することで問題視されます。
水が染み出た日陰にはアゲハチョウの姿もありました。

カラスアゲハ本土亜種
Papilio dehaanii dehaanii C. Felder et R. Felder, 1864
きれいなカラスアゲハでした。
写真だけ撮らせてもらってリリース。
前翅にビロード状の長毛(性標)があるので♂ですね。♀はいまだに見たことがありません。
花に来る個体をもっとちゃんと見ないといけなそうです。
見慣れない樹木がありました。
なんだっけこれ……?
P8104906.jpg
これは……カラスザンショウかも!
よくみると枯れ枝が目立つし、葉っぱもボロボロのものがある。
こんな木からはあのタマムシが採れるのではないか……!
そんな思いで枝先をすくってみます。

コクロナガタマムシ
Agrilus yamawakii Y. Kurosawa, 1957

予想通り、網の中にはコクロナガタマムシが3頭入っていました。
ナガタマムシの中では遅くまでいてくれる種で、少なくともお盆頃まではみられます。
今日はタマムシは一切採れない覚悟で来ていたので、これはうれしかったです。
関東地方では2021年に埼玉で偶然1頭を得ただけで、久々に採集しました。

日当たりの良いイヌシデもありました
若干の期待を込めてスウィーピングしてみると、カメムシが入りました。

ミヤマカメムシ
Hermolaus amurensis Horvath, 1903
平地のイヌシデからも同じようなカメムシを得ていますが、あちらは別種でこれが本家ミヤマカメムシです。
両者の違いは腹部腹面にあり、真のミヤマカメムシは黒斑が目立ちます。
ミヤマカメムシとミヤマカメムシの一種の比較
ミヤマカメムシ類の腹部腹面の比較
ちなみに「ミヤマカメムシの一種」にはまだ名前がついていないようです。
その後、歩いていると低い位置にセミが止まっているのが見えたので、網の中に落としてみました。

ミンミンゼミ
Hyalessa maculaticollis (Motschulsky, 1866)
ミンミンゼミの♀でした。
今年はセミの標本ちゃんと作ろうとか思っていたのですが、今のところニイニイゼミしか採っていません。
ここでミンミンゼミを採っていこうか……? とも思いましたが、せっかくなら地元ラベルの個体を標本にした方がいいか(?)と思って、この個体はリリース。
近いうちに近所でセミ採りする機会を設ける予定です。
ミンミンゼミをその辺の林で気軽に採れるのは関東民の強みですね。
私はかつて奈良県に住んでいましたが、あっちはマジで平地にミンミンゼミがいないので、ありがたさが全く違います。

ネムノキがありました。若干枯れ枝があり良さげ。
ネムノキにもナガタマムシがつきます。
あの種も遅い時期までみられるタマムシなので、もしかしたら……

ネムノキナガタマムシ
Agrilus subrobustus E. Saunders, 1873
いました、ネムノキナガタマムシ!
本種は夏を通り越して秋まで見られるイレギュラーなナガタマムシで、11月上旬に確認されたり、成虫越冬が確認されたりした事例があります。
少し進むと、山の中で見ることは意外と少ないクワの木がありました。
葉っぱに歪な線状の食痕あり。たぶんキボシカミキリですね。

これは家の近所で見つけたキボシカミキリの食痕。主は葉裏にいます。
山地だとイッシキキモンカミキリの可能性もゼロではないので一応、すくってみました。
オグマブチミャクヨコバイ
オグマブチミャクヨコバイ
Drabescus ogumae Matsumura, 1912
ここで採れたのが写真の格好いいヨコバイでした。
まさしくクワにつく種で、お隣の栃木県では準絶滅危惧種に指定されています。あまり多くない種のようです。
木をすくうと同時に大型のカミキリが複数飛び立つ姿もみられ、1頭は足元に落ちました。

クワカミキリ
Apriona rugicollis Chevrolat, 1852
正体はキボシカミキリ……ではなく、クワカミキリでした。
クワカミキリは葉っぱをかじらず枝をかじるだけだったと思うので、葉っぱにあった食痕はやはりキボシカミキリでしょう。
大型のカミキリは触角の長さもあって標本箱の中でスペースを食うので、避けてしまう傾向にあります。今回も採集は見送り……
名前の通りクワでよくみられるカミキリムシですが、ケヤキやミカン類、カエデなどいろいろ食べて害虫になることもあるようです。
この林道はコナラが多いので、クリタマムシでも入らないかと時折すくっています。
クリタマムシはさすがに無理でしたが、代わりにちょっとうれしい虫が。

ベニモンマキバサシガメ
Gorpis japonicus Kerzhner, 1968
ベニモンマキバサシガメです。埼玉県だと準絶滅危惧(NT2)ですが、まだ群馬県でしか採ったことがありません(これが2回目でした)。
オニグルミによくいる虫のようで、前回はまさしくオニグルミのスウィーピングで採っています。
スウィーピングしていると網の中にはクモもよく入ってきます。
今年はクモの同定を(仕事で)やる機会があって、自主的にクモのお勉強を始めています。

これは分かりそう、と思って写真だけ撮りました
パッと見トリノフンダマシの仲間にも見えるこのクモはハラビロミドリオニグモだそうです。
山地性で、渓流沿いの樹間に網を張るとのことで、まさしくな環境でした。
スウィーピングでは他に、ハエトリグモの仲間が結構な頻度で入ってきました。
彼らは写真を撮ろうとするとジャンプして逃げてしまうので、しっかり観察するには一度確保する必要がありますね。
あるいは採集して標本を作るか……
知ってますよ、ハエトリグモは液浸標本にすると毛がぬれて真っ黒な見た目になるんですよね……
見栄えが悪い標本しか作れなくとも、しっかり観察して解像度を上げるためには覚悟を決める必要があるかもしれません。
(近いうちになんか採ってきてみます……みました。この話はまた後日)
クモつながりで、既に知ってるクモもみられました。

トゲグモ
Gasteracantha kuhli C.L.Koch, 1837
腹部のトゲが格好いいトゲグモです。「昆虫MANIAC」でも紹介がありましたね。
山地のスウィーピングで時折みかけるクモ、という印象で、低いところで網を張ってる個体はむしろ新鮮な感じがしました。
(今まで見えてなかっただけだとは思う)
東京都のレッドリストにかかる種と言うことは知っていたのですが、埼玉県でも絶滅危惧II類(VU)、群馬県でも情報不足(DD)でかかってました。
(知らなかった)
ちょっと開けた場所に出ました。

これはイヌシデ
イヌシデはこの辺りには多くありました。
伐採されている場所もあり、よくみるとアサダも生えていました。

6~7月くらいに来たい
イヌシデをすくってみるとナナフシが落ちました。
シラキトビナナフシ
シラキトビナナフシ
Micadina conifera Chen & He, 1997
盛夏の山地でスウィーピングするとよくみられるシラキトビナナフシでした。
記憶が確かなら2頭一緒に落ちてきたのですが、もう片方は♂とかじゃなかったよな……?
(本種の♂はいまだに見つかっていないそうで、もし♂だったら……とてもすごい)
ナナフシの仲間はふつう単為生殖を行うため♂がまれにしか出現せず、珍しい種が多いです。
しかし「ニホントビナナフシは♂も比較的見つかる種」という認識があったのであんまりちゃんと気にしませんでした……
ヤスマツトビナナフシ
よく似るヤスマツトビナナフシ(過去写真より)。本種は前胸背に目立つラインが入らない。
シラキトビナナフシとヤスマツトビナナフシはともに♂が未知の種のようです。
なおシラキトビナナフシはここ群馬県で情報不足(DD)に指定されています。
群馬レッドにかかっているとは知らず、同じくDDの埼玉県で出会ったら採ればいいやなどと考えてスルーしてしまいました。
トゲグモといい本種といい、地域のレッドリストにかかるものくらいは(記録のために)しっかり採集するように努めたいと思っているんですけど、そもそも知らなかったら何の意味もないよねぇ!
事前の準備が足らんかった……!!
ここはシデも多いしもっとスウィーピング! と行きたいところですが……この段階で体力はほとんど限界を迎えていました。
時刻はまだ10:30。まだまだこれからというのに……ここまでの林道歩きとスウィーピングで体は悲鳴を上げていました。そう、まだこういう採集をするのは早かったのです。
ほんとは今朝、家を出た時点で不調を感じていた……けど採集に没頭することで何とかなることを願っていました。
しかしこれが現実、既に飲み物の残量も不安がある状態で「いつ引き返すか」を常に考えなければなりませんでした。
ほんの10分おきくらいに林道に座り込んで休息を取りながら、その度に引き返すかまだ頑張るかを考えていました。
せっかく来たのだから……という気持ちだけで前に進みます。
気づくと林道は薄暗い森の中に入っており、網を振る機会も減りました。
今日は山での採集なので、大きい方のコンデジ(COOLPIX P950)も持ってきていました。
役立つ機会はここまでなくお荷物と化していましたが……ここでようやく撮れそうな野鳥を発見。
オオルリのメス
オオルリ♀
Cyanoptila cyanomelana (Temminck, 1829)
これはオオルリの♀で良さそうです。
キビタキの♀も似た雰囲気ですが、オオルリの方が喉~胸にかけて褐色がかるのが特徴です。
(キビタキの♀はまだ見たことがない)

林道の日陰で何度目か分からない休憩をしていると、こんな岩陰で飛んでいる虫が目に留まりました。

クロベッコウハナアブ
Volucella nigricans Coquillett, 1898
初見のクロベッコウハナアブでした。
このグループのハナアブはスズメバチなどのハチの巣に産卵し、幼虫は巣から落ちてくるハチの食べカスなどを食べるそうです。時には幼虫や蛹を捕食することもあるとか。
クロベッコウハナアブはクロスズメバチの巣に寄生するみたいで、あんな妙な岩陰にいたのは寄主の巣を探していたからかもしれませんね。

これ以上進んでも意味がなさそうだ
来年またここに来た時のために下見したい、と思っていた範囲は歩ききりました。
この時点でまだお昼くらいだったので、昼食を取ってから引き返すことにしました。
帰りはとにかく足が痛く、スウィーピングはほとんどしませんでした。
登山靴のインソールが擦れて薄くなっていたのか、足の裏が超痛い。
水分も1リットル持ってきてましたが普通に足りず、沢水を飲む段階に突入してしまいました。
携帯浄水器を買うことにしました。災害時にも使えるし、持っておいた方がいいですよね。
(どこまで効果があるのか分かんないけど……)
いろいろヤバい状態になってきたので、帰りはほとんどスウィーピングせずに歩き続けました。

キイロスズメバチの巣
かなり目立つところにキイロスズメバチの巣がありました。
スズメバチの巣って冬とか樹木の葉が落ちた時に(古巣を)見つけることが多くて、アクティブで剥き出しな巣をじっくり観察できる機会はなかなかないですよね。
ちなみにこの写真はP950で遠方から撮っています(さすがに)。
山を降りると麓の自販機で水分を補給できました。
あとはもう帰るだけ。
麓のススキ草地は良い感じでヒョウモンチョウ類も何頭か飛んでいましたが、どれもツマグロヒョウモンでした……
ツマグロヒョウモンに混じって飛び方のおかしい鱗翅目がいたので追いかけてみると、格好いいトモエガの仲間でした。
このガは胸部の毛が剥げやすいので取り込みは慎重に……

やっぱりムネハゲトモエになりました(敗北)
オスグロトモエのメスですね。今回はかなりきれいな個体だったのですが、取り込みが下手で結局このようになりました。
この手のガには特大の毒瓶を使うか、網の外から注射器をひと刺しする技を習得する必要があります。
毒瓶の準備がなく、刺し技もまだ使えない私には大型ヤガの採集=負けイベントですね……
結局〆るところまでいってしまったので、この個体はちゃんと標本にしました。
(オスグロトモエの♀は初採集でした。いままではちゃんとハグルマトモエを引き続けていたみたい)
ハグルマトモエとオスグロトモエの♀はそっくりなのですが、違いは知っていますか?
私は今回初めて知りました。
オスグロトモエとハグルマトモエの違い
オスグロトモエとハグルマトモエの違い
2種とも持っている特徴的な「巴紋」の外側、2本の黒線に注目します。
オスグロトモエでは上端付近でも平行であるのに対し、ハグルマトモエでは広がります。
巴紋もハグルマの方が大きいです。
ただ、虫ナビのハグルマトモエをみると黒線の特徴も例外があるのかもという気がしてきます。
(あれ巴紋がバカでかいオスグロってことはない……か?)
このあとは特に採集するものはなく、無事に駅までたどり着きました。
採集終了です。帰りは電車でゆったり帰りました。
この日の採集で左足にはしっかりマメが出来てしまいました。
翌日すぐにインソールを買いに、ワークマンに駆け込んだのでした……


もともと採集成果には期待していなかったとはいえ、後半は疲労などで採集すらままならないという惨状でした。
それでも、行った意味はあったと思っています。
なぜなら、もしこの日何もせず家で過ごしてしまったら後になって「あの時、山行けたんじゃないの?」ってなって悔やみそうだったからです。
今日ちゃんと挑めたことに意味があったということで今回は納得しました。
チャレンジした、という実績を作れたことは精神的にはかなり良かったと思います。
これからも体の様子をうかがいながら、無理のない範囲での採集に挑み続けます。
成果的にはいつもなら採集記は書かないような内容でした。
しかし、今回は限られた素材から何かを産み出す練習をする回として書いてみました。
成果イマイチだから書かない、じゃなくて……面白くというか意味のある記事にするために努力をしよう! と思うことにしたのです。
自分ではありきたりでパッとしない成果だと思っていても、読者全員がそう思うわけではないですよね。
採集成果をつまらないものにしているのは、知識の引き出しが少ない自分自身なのだとやっと気がつきました。
「昆虫MANIAC」でやっていたように、個々の虫に対する掘り下げがもっと上手にできるようになれば、採集記ももっと良いものになるのではないかと思います。
そういう路線を、目指したい。
(前もこんなこと言ってませんでした……?)
なので、今後は採集記をもうちょっとマメに書くようにしていこうと思います。
自分の備忘録的な意味が大きい採集記ですが、そこから違う何かも産み出せたら、いいな!
新しい記事のアイデアは浮かびました……!

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