氷点下、雪の上を歩く虫たちに会いに行きました。

昆虫綱

雪上昆虫とは

雪上昆虫というのは、読んで字の如く雪の上で活動することができる昆虫であり、雪が積もったタイミングでなければ簡単には出会えない冬限定の昆虫でもあります。
中でもユキクロカワゲラ(セッケイカワゲラ)クモガタガガンボの仲間は翅を持たず、雪の上を歩いて移動することがよく知られた虫です。

どちらも雪が積もりやすい高標高地を中心に分布する虫ですが、幸いなことに長野県の下宿先では少し山に行くだけでみられるようでした。

特殊な生き方をする彼らを是非一度見てみたいと思った私は、中信にいた頃にも一度この手の虫を求めて山に向かいましたが……翅の生えたカワゲラとか翅の生えたガガンボダマシ? がいたのみで敗北。

南信に移ってからは暖冬続きで積雪の時期や量、なにより採集に出るタイミングが合わせられず……出会えないまま最後の冬を迎えてしまいました。


2020年 年末

新型コロナの影響もあって、この年末年始は実家に帰る事もなく長野で過ごすことになりました。
卒論が忙しいとはいえ、年末年始は若干休む余裕がある。バイトも無いし。

「年末年始は強い寒波が到来し、雪が降って冷え込み……」
みたいな話を聞いて、これはいよいよ例の虫たちと決着をつける時が来たのではないかと思いました。

この年末はもはや糖蜜採集をやっても何も来ないほどの寒さ(氷点下)の日が続き、雪もチラチラと降り……

全然積もってないじゃん (2021年 年始)

結局まともに採集に行けぬまま年が明け、バイト休みも明けてしまいました。
それからも何度か雪は降るものの、全然積もらないまま10日ほど経った頃。山の方に雪が少し積もっているのが確認できたので、痺れを切らして出かけることにしました。

本当は下宿先周辺までがっつり雪が積もるのを待ってから出かけたかったけど、卒論もあるしタイミングを逃すといよいよ出会えずに卒業してしまいそうだったので……賭けに出る。


2021.01.11

昼頃から出かけて、雪を目指して山道を登っていきます。
今回向かったポイントでは2020年の11月頃に一度、目的の虫の一つであるクモガタガガンボの生息を確認しています。(その時は林床を歩いている個体に偶然出会ったが、普通に逃げられた……)標高は900mくらい。

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勢いよく流れる水路の水飛沫が凍り、芸術的な物体が完成している。

現地に着いてみると、一応期待していた通り山の方には雪が積もっていましたが、900m地点では北側斜面にごく僅かに残っている程度だったのでさらに登って標高を上げました。

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1000mを超えた辺りでは3センチ位の積雪がみられました。雪質はサラサラしていていい感じ(?)
この日の天気は曇り。現地の気温は-3℃くらいでした。

多くはないですが、ちょくちょく生き物が見つかりました。

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アブラムシの仲間(ワタムシ?) ユキユスリカの仲間?

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以前も雪の上で見たような気がするクモ類

ただし林内を通る道の上だと、雪の上にはあまり生き物が見られませんでした。日当たりが悪いからだろうか。
しばらくして、少し開けた河原に出ました。

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凍ってるじゃん……滑れるかな?

流れの緩やかな場所は凍っていて、天然スケートリンクと化していました。周囲に人はいない。
上流に向かって登るつもりでしたが、ちょっと河原を覗いていこう(クソバカ大学生)。

過去に積雪の中で採集し、悲惨な目に遭いまくっているのでさすがに今回は対策をしてきました。
長靴持ってきたし、特に冷えやすい爪先を覆うやつも持ってきた。けどやっぱ爪先は寒かった。靴下もう一枚重ねるか、カイロとか仕込むべきだった……

長靴に履き替え、明るく開けた場所に出ると途端にトビムシやユスリカが雪上でよく見つかるようになりました。

そんな中……

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「これは……!!!!    
             ……何だこれ」

なんだかよく分からない昆虫がいました。周りにも何頭か同じ虫が見つかりました。
一瞬クモガタガガンボの仲間かと思ったけど、ちゃんと翅はある。しかし翅は随分小さい……

はっきりとは分かりませんが、多分これはユスリカの仲間でちょうどこの時羽化したばかりだったのかもしれません。ユスリカにしては脚が太く感じたけど……

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この虫の多さなら期待してもいいはず。
凍った水の上を慎重に歩きながら、時々薄氷を踏み抜きながら……林縁部に積もった雪を見ていく___

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「!!!!!!!!」

クモガタガガンボ
ニッポンクモガタガガンボ(たぶん)
Chionea nipponica Alexander, 1932

いたあああああぁぁぁぁぁ!!!!

「よかった……バカ大学生でよかった(笑)」

時刻14:24。寄り道の甲斐あってここでクモガタガガンボに出会えました。
本個体は雌。雄の脚はもう少し太く立派に発達します。
現地ではまだ知らなかったことですが、クモガタガガンボの仲間は基本的にササ群落で生活しており、笹の葉が作る雪の下の空間と雪上を出入りしているようです。
(言われてみれば近くにササ群落、あったような無かったような)

そして移動のために雪上に現れるのは天気の良い日の正午前後であることが多いとか。
(という傾向はあるが、夜間に見つかる事も結構あるみたい)

天気がいいといっても、気温が10℃近くまで上がってしまうと逆に出てこれなくて、この日みたいに氷点下の方がむしろ観察のチャンスがあるようです。まさしく寒さに適応した冬の虫ですね。

とはいえこの日はクモガタガガンボが元気に歩きまわれるほどいいコンディションではなかったようで、突っついたらそのままの姿勢で倒れてしまうほどでした……
とはいえ、しっかりと雪上に立つクモガタガガンボの姿をようやく拝むことができて本当にうれしかったです。

2020年11月に出会った個体とどうやら同じ種に思えるので、リベンジも無事に果たしたということで。
しかし2018年に別ポイントで出会ったクモガタガガンボ(↓)と比較すると今回のは遥かに小型で、別の種類のようです。

クモガタガガンボの仲間は北海道では平地にもいるようですが、本州では雪が積もる山地帯〜高山帯を中心に分布しています。ただし西日本では標高100m無いような低山帯で採れている種がいるので、まだまだ未知の種がどこかの低標高域に眠っているかもしれません……

とりあえず無事にクモガタガガンボが得られたところで、沢沿いの道をさらに登っていきます。

もう一つの目標であるユキクロカワゲラを含むカワゲラの仲間は名前の通り渓流沿いにみられる種が多い。林縁とかより川沿いを意識して探した方が見つかりやすいのかな……?

____そんな考えが頭をよぎった、その直後でした。

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これだ!!!  これだ、これだわ!!!!

それは中信で出会って間違えそうになった翅のあるカワゲラよりもずっと小さく、翅はなく真っ黒な身体。紛れもなく探していたユキクロカワゲラの仲間でした。

セッケイカワゲラ
ユキクロカワゲラ(セッケイカワゲラ)
Eocapnia nivalis (Uéno, 1929)
(たぶん)

たぶん真の『ユキクロカワゲラ』であってると思うのですが、この仲間もまた外見のよく似た複数の種が存在しているようで……断定はしないでおきます。
地域毎、地域内レベルでもかなり複雑に分かれているようなので、見た目同じに思えても各地で出会う度にちゃんと採集して標本を作っておくと良いかもしれません(ただし液浸にしないとしわくちゃになります……なりました)

幼少期にお世話になった図鑑には『セッケイカワゲラ』の名で掲載されていて、雪の上を歩く特殊な生態が紹介されていたのが強く印象に残っていました。

また一つ、憧れの虫に出会えて嬉しかったです。
思えば今年度はこういう採集全然できてなかったから、この感じが凄い久しぶりに思えた。

よかったな自分、よかったなあ…… おめでとう。
こんな言葉を思わず言いたくなる……というか言ってしまう気持ちになっていました。

2020年は自身の卒業研究の調査でもたくさん昆虫採集をして、もちろんその中でうれしい出会いも数多くあったけれど……自力で探しに行き見つけ出すこの形がやはり一番うれしいものだと改めて思いました。

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ちなみに見つけた場所はあんまり日当たりも良くない場所でしたが、沢がすぐ下を流れている道でした。

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少し登るだけでもだいぶ積もり方が変わってきて、最初からこの辺りを探しておけば良かったかなと思うほど。

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雪山は寒くて殺風景ですが時折、水の流れが作り出したこういうオブジェクトを見つけることがあります。
ちょっとテンションあがるよね(あがらないか……)

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少し登って、また開けた場所に出ました。
ここも河原ですが、さっきよりさらにしっかりと雪が積もっています。

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ここではユキクロカワゲラを更に3個体見つけることができました。先ほどの個体は元気に歩き回っていましたが、この場所の個体は落ち着いていたので気が済むまで写真を撮らせてもらいました。
(クモガタガガンボは見つからなかった、時間の問題か?)

のんびりしていたら16時を過ぎ、日が暮れ始めたので来た道を引き返して山を降りていきます。

道中、これまでいろいろな虫と出会った場所を通り……その時の事を一つ一つ思い返しながら。

____大学生のうちにこの場所に来るのは、今日が本当に最後になるだろうか。

あっ、ならないか。
まだやり残した事があった。

いない事を確かめる回をやらなければならない。

それはもう少し、暖かくなってから……


なお、この採集の翌日……
がっつり雪降りました。
(この冬一番だった。下宿先周辺までしっかり積もった……)

このタイミングで採集に出ていれば、もっと簡単に多くの雪上昆虫たちに出会えたかもしれない(汗)

でも自転車で行くなら現地まで雪が積もってない状態の方が安全に行けるし、これはこれでよかったと思いたい。
ちゃんと目的も果たせたし!

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