春を感じる虫ってなんですか?
例年大体2月の中~下旬頃でしょうか。
日中の気温が10℃を超えるようになると、名前や写真をネット上で目にする機会が増える虫がいます。
それがこの虫…….フッチーことフチグロトゲエダシャクです。
彼らの発生時期は年により変動はあるものの、関東平野部では2月中旬~3月中旬頃にかけて(という印象)で、日中暖かくなり春を感じるようになる時期に出現し、本格的な春を待たずに姿を消します。
雌の翅が退化する『冬尺蛾』の仲間にして、晴れて気温の高い日に活動するとされる昼行性の美しい虫です。
千葉県の生息地環境
そんな本種の生息環境は「草地」で、河川敷の堤防草地から山間部の草原まで様々な草地環境で確認されるようです。
幼虫はヨモギやシロツメクサ、ヤハズエンドウ、ノイバラなど双子葉の一般草本や低木の葉を幅広く食べるとされていますが、どこでも普通にいるものではないようで……
埼玉県RDB(2018)では準絶滅危惧(1型)=生息地が限られる種とされています。
埼玉の実家近くの河川敷でも過去何度か探しに行ったものの、見つけられていません。
2017年(敗北)
2018年(敗北)
寄主植物があまりにも広範で平凡だと、かえって環境が絞れなくて困ってしまいます。
局地的な虫であるなら、やっぱり多少”いい草地”である必要があるのでしょうか?
例えば、同所で草原性の希少な虫が見られるとか……?
2021年(敗北)
いや、そんなことはない。
長野県南部(下宿先周辺)ではいくつか良さげな草地をピックアップして狙いに行ったりしました。
・ウスバカマキリやキバネツノトンボがいた堤防草地
・シロヘリツチカメムシやベニモンマダラがいたススキ草原
……最後の春に全部行きましたが、全部ダメでした。
(中信には私がよく訪れていた場所にもちゃんと生息地あったようなのですが、当時あまりちゃんと蛾をやっていなかったため採り損ねてしまった……。)
私的には狙うと空振るばかりの相手なのですが、2018年春にちゃっかり遭遇&採集を果たしています。
(トップの写真はこの時の採集個体)
2018.03.12_05:31 a.m.「あ。(寝坊した)」珍しく失敗したので、今日はやる気がない。正直気乗りしないけど… 今回の採集は避けては通れません。30分程度の遅れなら問題なかったので、急いで準備して出発しました…
全然その気がなかった時にたまたま発生地を引き当てたようで複数頭見ることができましたが……ちゃんと採った気になれていないのが現状。
どうして自主的に探しても見つけられないのか?
理由は分かる……彼らのいる環境といない環境の違いが分かってないからです。
観察者や採集者は蛾類の中でも非常に多く人気の種、情報も多いにもかかわらず生息の鍵が何なのか未だ掴めない……
現状自分に出来ることは、短い発生期、限られた活動時間の中でいそうな環境を一つずつ見てまわることくらいしかありません。
今年も春の陽気を感じ始めた2月末から、堤防流しを始めました。
2022.02.20
最高気温は確か13℃くらいだったのですが、風は強く晴れ間も短く……さすがに気が早かったですね。(敗北)
2022.02.27
最高気温は16℃くらい。暖かくコンディションは悪くないように思えましたが……(敗北)
モンキチョウは既に飛び始めていました。
ウスミミモンキリガ
Eupsilia contracta (Butler, 1878)
ただこの日の糖蜜はかなり当たって、冬の間フラれ続けていたウスミミモンキリガがようやく来てくれました。
春冬夜蛾も出て、ようやく春の糖蜜シーズンに入った感じでしょうか(当時はそう思っていた)。
この次の週(3/5)は気温も高く今年のフチグロトゲエダシャク発生ピークだった感じで、ここで採集に出なければならなかったが……何も考えず午前中に予定入れてしまいました(敗北)。
2022.03.13
2週間ぶりに同じエリアに来ました。堤防では菜の花が満開に近い状態です。
最高気温は20℃くらいで、風もさほど強くない……今日ダメなら諦めもつく。
既にモンシロチョウも発生していて、季節の進行を感じます。
(モンシロチョウが出るとフッチーシーズンは終わりという話があったような…….)
いずれにせよ菜の花で埋め尽くされた堤防なんとなく”違う”ような気がして、そうでない場所を探して歩きます。
菜の花が少ない場所も探せば確かにあるが……だからといって何か手がかりが得られるわけでもない。
フチグロトゲエダシャク(♂)の活動条件については以下のような事が知られます。
・飛翔開始は午前10時頃から
・12時頃にピークとなり午後はしだいに減少
<参考>
フチグロトゲエダシャク
http://www.jpmoth.org/~moth-love/fuyusyauzukan/fuchiguro/fuchiguro.html
日本の冬尺蛾(中島・小林,2017)
ここが生息地であれば飛んでいるはずの条件ですが、その姿は確認できません。
ダメかな……これは。
幸いなことに、県内にはよく知られたフチグロトゲエダシャクの産地があります。
一度その界隈に出向いてみて、環境をしっかり勉強してから再挑戦した方が良いかもしれない……
しかし今日も自転車で採集に来てるので、今から大きく場所変更をしても活動時間に間に合わず手遅れです。
時刻は10:30となり……次第に自信がなくなりますが、
・発生後期or終了している
・個体数が少ない
・飛んでいるけど見えていない
など、考えればいろいろな可能性があり……一度通過しただけで”いない”と見切りをつけられない気もしました。
前回(2022.02.27)は11:30くらいまで見て帰ってしまいましたが、今日は午後までちゃんと頑張ろうと思います。
10:33。
足元からモンキチョウに混じって薄黄色の何かが舞い上がり、天空に消えた。
あっ___!! これだ!!!!
横目にしか見えなかったが、明らかに見覚えのある色、飛び方、サイズ感でした。
千葉県での採集時の記憶が一気に蘇りました。彼らが飛んでいるときはほとんど模様は見えず薄黄色の蛾に見えるのです。
少なくとも蛾ではあるが、夜行性の何かがたまたま飛んだだけかもしれないので……採集できなければ証明できません。
確認地点の堤防下側はこんな感じ。
それから1時間ほど付近の堤防を行ったり来たりするうちに、2回程度同様の飛翔体を目撃しました。
しかしいずれも素早く天空へ舞い上がり消えていくので、全く太刀打ちできません(笑)
自分的に一番いそうな環境だなと思っていた場所。
去年の4月に初めてこの場所を訪れた時『それっぽいなぁ』と思って今シーズンはこの周辺を見て回っていたのです。
ここでしばらく待ってみると、この場所でも地際を飛翔する個体が確認できました。
急いで駆け寄ったのですが、目の前にいたはずのソレはやはり”消えて”いて……
そんなことが2、3回続きました。どうも同じ個体が付近で飛んだり止まったりを繰り返している気がします。
11:34。
近くの地際で飛び立ったソレに反応して駆け寄ると、草地に消えずに少し高度を上げた。
よし___今ならはっきり見える!
予測できない不規則な飛び方で、また空を目指そうとする蛾。
しっかり狙いを定める余裕はなかったが、網が届きそうな距離だったので運に任せて思い切り振り抜いてみます。
振り抜いた網の先に、その姿はなし___
「入っててくれ…….頼む!!」
ああ___やっぱりそうだった!
ほら……ちゃんといるじゃねえか!!
前回はもっと待つべきだったんだ……。

フチグロトゲエダシャク
Nyssiodes lefuarius (Erschoff, 1872)
4年ぶりの遭遇となりました。美しいなあ……。
今度はちゃんと自分で見つけ出せたこともあり、うれしさもより大きいです。
やはり発生後期なのか、かなり擦れた個体でしたが……採集してちゃんと姿を確かめられたので満足です。
この後も13時頃まで粘りましたが、飛翔個体を目撃することもなく終わりました。
この時期としては異例の20℃近くまで上がってたし、暑すぎたのかも?
先週ここに来れていたらもっとたくさん見れたのだろうか……?
ここは堤防の中でもチガヤの枯れ草が目立つ場所でした。
(そんな場所はいくらでもあるが、中でもここは日当たりがいい)
千葉で採集した時は堤防だけでなく、その下に広がる草丈の高いイネ科(オギだったかな?)の草原もよく飛んでいる印象がありました。
彼らの寄主植物にイネ科は含まれていない(と思う)のですが、全国各地の生息環境の写真を見るとシナダレスズメガヤが繁茂した河原だったり、畔のススキ草地だったり、チガヤの多い堤防だったり……イネ科の枯れ草が目立つ環境であることが多いように思います。
(千葉の環境はまさしくイネ科の草地でした)
フチグロトゲエダシャクの色彩はどう考えても枯れ草に溶け込むための色に見えるので、活動の拠点も枯れ草の多い草地になりやすいのかもしれませんね。
未見の雌も探したいので、また来年も会いに来ます!
一度帰宅し、日没後から糖蜜採集へ。
気温は日没後でも17℃ほどある超暖かい夜でした。
ミヤマオビキリガ
Conistra grisescens Draudt, 1950
糖蜜にはごくわずかなカシワオビとミヤマオビ、ホシオビ以外飛来しませんでした。
クチバ類も来るようになって、冬夜蛾狙いの春の糖蜜シーズンの終焉を感じました。
(春の冬夜蛾糖蜜シーズン、短すぎて泣いた)
ウスミミモンキリガ回が最初で最後だった感……。
長野以外で糖蜜をほとんどやってこなかったので、この冬は実家周辺の冬夜蛾相を知るため糖蜜をたくさんやりました。
その中で常に優占種だったのはカシワオビキリガですが、一方全く出会わなかったのがミヤマオビキリガでした。
『平野部の雑木林に多産する』とか絶対嘘だろと思うくらいには出会わなかった……。
この冬の近所における冬夜蛾採集の成果は全部まとめて1本(か2本)の記事にしようと思っています。
全部で何種になっただろう……いや、まだ春に出るOrthosia属が全然採れていないのでもう少し頑張らねば。
今日の糖蜜は諦め、近くで咲いていた梅の花を見に行く。
思ったほど集まりは良くないが、糖蜜には来ていない春の冬夜蛾の姿もありました。
ブナキリガ
Orthosia paromoea (Hampson, 1905)
一番多い(といっても2、3頭)のはブナキリガでした。
長野県では(常にいろいろいたから)それほど感じなかったのですが、関東平野だとこの属の中では圧倒的に個体数が多い普通種な感じです。
灯りに最も多く来ているのも本種、変異幅が大きいので個体毎のちょっとした違いを楽しめます。
ヨモギキリガ
Orthosia ella (Butler, 1878)
今期初見、ヨモギキリガも来ていました。チラ見えする後翅が白く美しい。
農耕地や河川敷周辺の梅の花では結構みる種の印象です。
灯りには虫が来てそうなコンディションだったので、21時頃から近所の公園で街灯巡りもやりました。
野生ニホンヤモリの活動開始も確認。
去年の晩秋までここにはほとんど来ていなかったので、今回街灯の実力をようやく知ることになった……。
スモモキリガ
Anorthoa munda (Denis & Schiffermüller, 1775)
街灯周辺の木や柵にはこんな感じで冬夜蛾が止まっています(1枚目はブナキリガ)。
街灯も明るく集まりも悪くなさそう。学部2~3年の頃を思い出すような夜回りがちゃんとできる場所でした。
(ただし街灯の本数は少ない)
カバキリガ
Orthosia evanida (Butler, 1879)
カバキリガは何頭か見られました。
埼玉では過去に一度出会った際逃げられてしまいましたが、今回は無事に採集出来ました。
個人的に好きな冬夜蛾です。関東平野部でも普通に出会える種のようでうれしい。
シロトゲエダシャク
Phigalia verecundaria (Leech, 1897)
この公園の良いところは道沿いに木柵があって、街灯巡りしつつ冬尺蛾を観察できるところです。
初見の大きな冬尺蛾♀……シロトゲエダシャクのようでした。
チャバネフユエダシャク♀に今期も出会えなかった私にとっては、過去最大のフユシャク♀でテンションが上がりました。
(こちらが♂ 灯りに時折来ています)
アトジロエダシャク
Pachyligia dolosa Butler, 1878
公園内の梅の花も咲いていて、ここにもアトジロエダシャクやマエアカスカシノメイガに混じって数頭の冬夜蛾が来ていました。
21:30とかでもまだ残ってる個体がいるのが梅の花の強みです。
クロテンキリガ
Orthosia fausta Leech, [1889]
この梅の花でクロテンキリガをようやく初採集。
照葉樹のある環境では超普通種枠のようですが、長野の下宿先周辺では出会えない種でした。
この間同所で糖蜜した時採れなかったので、今年採れないんじゃないかと思ったわ……よかった。
(ここにもヨモギキリガが来ていた)
左:アカバキリガ
Orthosia carnipennis (Butler, 1878)
右:シロヘリキリガ
Orthosia limbata limbata (Butler, 1879)
さらに街灯でアカバキリガとシロヘリキリガを採集。
いずれも埼玉では初めての遭遇でした。
平野部でもみられる普通種のようですが、シロヘリキリガは長野では二回しか出会えていなかったのでうれしい。
(この夜で3頭得られた)
こんな感じで、糖蜜はダメだったものの梅の花と街灯のアシストで春らしいOrthosia属の冬夜蛾をいくつも見ることができました。
まだ採れそうな種もいるので、街灯巡りも定期的にやっていきます。
この日の採集で明確に春の訪れを感じられたような気がします。
もう1ヶ月後には関東平野でもナガタマムシが取れ始める時期ですよ……社会人の1年はあっという間に過ぎますね。
改めて冒頭の質問に戻りますが、春を感じる虫って何でしょう?
大抵は毎年必ず出会うような虫、または必ず会いに行く虫が該当すると思います。
でもそれって各自どんな虫を中心にみているかで変わると思うんですよね。
かつての私はクビキリギスの初鳴きとかモンシロチョウの初見が春を感じる瞬間でした。
市街地にいても彼らの存在は毎年必ず確認しますし、実際それくらいの時期にならないと昆虫は動かないと思っていました。
しかし実際、モンキチョウとかキタテハとかはもっと早くから飛び始めているし、ゴミムシ類は越冬明けするし、春の枝尺として扱われるオカモトトゲエダシャクなんかは更に早くから既に出ています。
また、視野を広げたり住んでいる場所が変わったりすると基準となる虫も変わってゆくものです。
これからの私は今回挙げたようなフチグロトゲエダシャクとかOrthosia属辺りが春を感じるメンツになっていくのかなと今回思いました。
人によってはフチグロトゲエダシャクは冬尺蛾だから冬の虫、とも言われるかもしれませんが(笑)


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