オサムシの仲間には後翅の退化により飛翔能力を失った種が多く存在します。
したがって高山や河川などの地理的隔離を受けることで狭い地域内でも様々な亜種に分かれることがあります。
長野県の伊那谷はその一つの例といえる場所ではないかと思います。
伊那谷の中央を流れる天竜川と、それに合流する複数の河川はオサムシ類の種分化を促す上で重要な障壁になっているようで……この地域のオサムシはまあ、めちゃくちゃなことになっているのです(汗)
イナオサムシ、という虫をご存知ですか?
伊那谷には北方面にアオオサムシの信濃亜種(シナノアオオサムシ)が、
南方面にはミカワオサムシの天竜川中流域亜種(テンリュウオサムシ)がそれぞれ生息しているのですが、伊那谷の中央地域では両者の分布域が重なり、交雑が起こっています。その交雑の結果生まれたのがイナオサムシ/Carabus (Ohomopterus) insulicola pseudinslicola (Ishikawa, 1966) 、と呼ばれているものです。
現在、イナオサムシは一つの種ではなく上述した2種のオサムシの交雑個体群という位置づけになっています。
したがって、今はこの虫にCarabus (Ohomopterus) insulicola pseudinslicola (Ishikawa, 1966)という学名を使うことができません……
ミヤママイマイカブリなんかも同じ流れを辿った虫ですが、こういう時の同定ラベルの表記ってどうしたら良いんでしょう?
両者の学名を並べて×で結ぶ
Carabus (Ohomopterus) arrowianus × insulicola とか?
ラベルの地名見て伝われば良いかな……?
2019.06.02
この日はそのイナオサムシを真剣に探しに行くことに。
2018年の冬期採集でも狙ってはみたのですが、掘れる環境が少なくやはり活動期に狙った方が良さそうだと思われ……探索の中で見つけた良さそうなポイントへ今回改めて訪れてみました。

こんな場所です。
雑木林の中を通る道があり、街灯もいくつか設置されています。
夜回りポイントのシナノアオオサムシは街灯の周りで特によく見つかるので、同じ要領で見つけられるはず。
まず、1つめの街灯……
イナオサムシ
「もういたわ」
難なく見つかってくれて一安心です。
ちゃんと生息地に含まれる所を突いたので、紛れもなくイナオサムシに該当する個体だろうと思います。
(イナオサムシの生息範囲には、シナノアオオサムシやテンリュウオサムシが見られないといいます)
しかし、正直見た目は近場でよく見かけるアオオサムシ信濃亜種と何ら変わりはなく、「本当にこれ?」という疑いが消えませんでした。
参考までに……
近所にいるシナノアオオサムシがこちら↓
アオオサムシ信濃亜種
Carabus (Ohomopterus) insulicola shinano Ishikawa & Ujiie, 2000
私、ミカワオサムシが未見なので……イナオサムシのどの辺にミカワオサムシの要素が入ってるのか分からないという問題……

街灯の下を歩くイナオサムシはその後もポツポツと見つかりました。
どうにか♂も得ることができたので、交尾器を抜いて比較してみました。
左: アオオサムシ信濃亜種
右: イナオサムシ
左のアオオサムシは下宿先のすぐ近くで得られた個体ですが……両者の交尾器の間にははっきりとした違いが見られました。
かぎ状になっている黒褐色の部分、指状片(交尾片)と呼ばれるものの形が両者で異なっており、イナオサムシの方が強く曲がっているのが分かります。
この曲がり方はミカワオサムシ天竜川中流域亜種に近いもののようで、確かに両者の特徴を兼ね備えているのが伺えました。(ミカワ採ったことないけど)
クロナガオサムシ基亜種
Carabus (Leptocarabus) procerulus procerulus Chaudoir, 1862
クロオサムシ山梨長野亜種(マルバネオサムシ)
Carabus (Ohomopterus) albrechti okumurai (Ishikawa, 1996)
イナオサムシの他にはクロナガオサムシや、マルバネオサムシも見られました。
この辺りではオオクロナガオサムシが採集された記録もあるようなのですが……本当にいるんだろうか?(それらしい個体にこの日出会うことは出来ませんでした)
そんな感じで、簡素ですが書きかけで上げてなかった、イナオサムシを探しに行った時の記事を上げておきます。
地域に縁のある虫が採れるとやっぱり特別な感じがして嬉しいですよね。
だからと言って戸台にオオズナガゴミムシを掘りに行ったりはしないけど……(笑)

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