タマムシ類の生息環境と採集方法などに関するまとめ ~ナガタマムシ・チビタマムシなど(ヤマトタマムシも)~

タマムシ類とは

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タマムシ
Chrysochroa fulgidissima fulgidissima (Schoenherr, 1817)

タマムシ、といえば玉虫厨子に用いられた本種(ヤマトタマムシともいう)はご存じな方もいると思います。
本種に代表される『タマムシ科』の甲虫類は日本に200種類以上が生息しています。
トオヤマシラホシナガタマムシ
そしてその大部分を占めているのが『ナガタマムシ亜科』
この亜科はナガタマムシやナカボソタマムシ、チビタマムシなど小型種のほとんどを含んでいます。
中でもAgrilus属(ナガタマムシ属)は全世界に約3000種が確認されており、単一の『属』に含まれる種数としては動物界で最大とされています。
日本におけるAgrilus属は170種程度で、日本産タマムシ科の8割近くを占めます。
つまりタマムシの仲間は大部分が小型種で構成されていることになります。
豊富な種を含むAgrilus属を主体としたナガタマムシ亜科はまさしく日本のタマムシ科の主幹とも言える存在……しかしながら、その注目度はヤマトタマムシやアオタマムシ、キンヘリタマムシなど目立つ大型種と比べると明らかに低いように思えます。
その原因として聞く言葉(実際に私が言われたこと)は
・同定ができない
・探し方がよく分からない

などです。
実際、小型のタマムシ類は姿形の似たものが多く、パッと見て分かるものばかりではありません……
探す上でも各種の寄主植物や好む環境、発生時期など知っておくべきことは多いです。

2013年には日本のタマムシ科を網羅した『日本産タマムシ大図鑑』(大桃・福富, 2013)がむし社から発売され、各種の同定が出来るようになりました。
こちらの図鑑では各種の寄主植物や生息環境についての解説もなされており、タマムシ類を採集する上でも重要な情報が詳しくまとめられています(再販未定)。
インターネット上にはまだまだ情報は少なく、普通種であっても図鑑サイトに載っていなかったり、写真が不鮮明である事も多いです。(本ブログに上げてる写真も大概……)
採集記もまだまだ多くはない……
そんな状況なので、
「タマムシ類(特に小型種)の採集をやってみようかな」と思った人はいきなり2万円の図鑑を買う所からのスタートを求められるのが現状……でしたが2022年、タマムシハンドブックの発売によりこの問題はほぼ解消したと言えます。

タマムシハンドブック

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森の宝石、タマムシの識別図鑑!
観察・同定・飼育方法など、この1冊に凝縮! 森の宝石と称される美しい色模様が特徴の日本産タマムシ131種の識別図鑑。
1cm未満の小さな種も、深度合成による標本写真で紹介。見わけるためのポイントはもちろん、分布や見られる時期、生態、発見難易度を掲載。タマムシの生活史や見つけ方、飼育方法のほか、コラムも充実。

新発売の「タマムシハンドブック」を駆使してタマムシの仲間を探しに行こう!

新発売の「タマムシハンドブック」を駆使してタマムシの仲間を探しに行こう!

絶版になっていたタマムシ大図鑑2013年にむし社から発売された『日本産タマムシ大図鑑』は、タマムシ類の同定を行う上で欠かせない図鑑でした。(むし社HPより)しかし、いつの間にか絶版になり、しばらくの時が経ちました…

偶然にもタマムシ大図鑑の発売年である2013年からタマムシ類の採集を始めた筆者は、いろいろな分類群と共にタマムシ類の採集を楽しみながら今年で8年が経ちます。
そんなに日本各地を飛び回って熱心に採集したわけではないし、離島にも行ってない……
ので偉そうに語れる立場ではなく、関東地方以西の本州で普通にみられる種の採り方と小型タマムシ類の基本的な生息環境について簡単に述べる程度が精一杯……。
ということで本記事では、ナガタマムシ亜科を始めとするタマムシ類の採集、観察について私が知る限りの全てをまとめて記します。
『タマムシ類の採集に興味がある』という方が少しでも参考にしていただければうれしいです。

タマムシ類の生活史と生息環境

※地域は本州(関東地方以西)の平地〜山地を想定したものです。
その他の地域については、分かりません……

比較的広い地域で出会える可能性が高い種を多く取り上げて紹介するつもりですが、お住まいの地域によっては観察できる種が異なっていたり、限られたりする場合があります。ご了承ください。
国内におけるタマムシ科の全体的な分布についての話を軽くしておくと、暖かい地域(西南日本)に行くほど多様化する傾向があります。
東北地方や北海道などの寒冷な地域が分布域の北限となる種やそもそも分布しない種が多く、反対に南西諸島には多くの固有種が存在します(確認されている種数が最も多いのは現時点では本州)。
しかし、寒冷地に多い種や北日本の固有種(フタオタマムシとか、スギウラナガタマムシとか)も存在するので、地域的に全く楽しめないってことは無い、と思う……
ここからはタマムシ類各種に出会うための基本的な情報について述べていきます。(この辺りの話は科全体でおよそ共通する)
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ムネアカナガタマムシの幼虫。エノキの枯れ枝に入り材部で成長します。
タマムシ科の幼虫、成虫は共に植物食で、特に木本植物(広葉樹)を食べる種が多いです。
幼虫は植物の内部(材部or潜葉)を、成虫は葉を食べるパターンが一般的です。
そのためタマムシ類を探すのであれば、まずは広葉樹林がある環境(公園などの雑木林、河畔林など)に行きましょう。

大抵のタマムシ類は林縁部や樹林内に存在するギャップ(倒木や伐採により林冠が開いた場所)などの植物に日光のよく当たる明るい環境を好みます(超超超超超重要)
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林縁環境の例
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伐採地の例

また、新鮮な伐採木が積まれている土場や刈られたばかりの枝が積んであるような粗朶があれば、多くのタマムシ類が産卵や交尾のためにやってきます。
ナガタマムシやナカボソタマムシなどは、各種の落葉広葉樹の葉が開く4〜5月頃から羽化して活動を始めます。7月頃になると多くの種は姿を消しますが、この時期から出現する種も複数います。

ウグイスナガタマムシ(★)
関東地方以西では春から初夏に最もよく出会う代表的なナガタマムシの一つ。スウィーピングでも伐採木のルッキングでもよくみられる普通種。
北海道では非常に珍しいという。
※和名の隣に併記する★は『日本産タマムシ大図鑑』における珍品度(=遭遇のしやすさ)です。

ホソアシナガタマムシ(★)
クリやコナラなどブナ科の伐採木に来ている青くて小さいナガタマムシのほとんどが本種。
衰弱木やひこばえの葉にもよく集まる。

シロオビナカボソタマムシ(★)
丘陵地や里山の林縁部に生えているキイチゴ類(クマイチゴ、モミジイチゴ)によくみられる種。
ナガタマムシより幅広な体形で、体の真ん中あたりがくびれているので「中細」です。
めっちゃ名前間違えられるタマムシ。
私も昔はナガボソタマムシって呼んでました。
すみませんでした……

カラカネチビナカボソタマムシ(★★★)
7月頃からよく見かけるタマムシ類の一つ。
基本は山地のオニグルミにみられるが、大きな河川沿いなら低地にもいるらしい。
いずれにせよ8月いっぱいくらいで彼らは活動を終え、次世代に向けて幼虫が育ちます。
じゃあ4月〜8月でタマムシ類のシーズンが終わるのかというと、
終わりません。

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8月頃からはチビタマムシ類が羽化し、植物の葉が落ちる晩秋までの間、姿をみせてくれます。
秋を中心に活動するチビタマムシ類は(おそらく全ての種が)成虫のまま色々な場所で越冬し、翌春〜夏にかけてもみられます。
この時期に繁殖し、夏から秋に新成虫が羽化するという流れです。

クズノチビタマムシ(★)
クズ(葛)という植物につくチビタマムシ。
平野部から山地まで広範囲でみられ、タマムシ科の中では最も身近な種だと思います(小さいため注目されないけど……)。
ということで、タマムシ類は彼らの寄主植物の葉が出ている春から秋にかけて活動個体を観察できます(常緑樹食種もおよそ同様)。
後ほど述べますが、一部の種は冬に出会う方法もあります。

タマムシ類の採集方法

覚えておきたい植物

タマムシ類のように植食性で、尚且つ寄主植物からあまり移動しない昆虫類を探す場合は各種の餌となる植物種を知っておくことが必要になります。
もちろん適当に歩いたり、やみくもに網振って植物掬ったりするだけでも採れることはありますが、『どういう植物から採れたか』という情報はタマムシ類を同定する上でも大事なので、積極的に植物を覚えていった方がよいです。
ここではタマムシ類を探すなら『これは絶対に覚えた方がいい』と個人的に思う、タマムシ類採集に役立つ代表的な樹種を3つ紹介します。
(植物の写真は近いうちにちゃんとしたのに差し替えます)
・エノキ(アサ科)

樹皮はザラついていて白っぽく、葉の鋸歯(縁のギザギザ)が途中までしかないことが特徴です。
河川沿いの林に多く、神社や公園にも多く植えられています。

左:ヒシモンナガタマムシ(★)  右:ベニナガタマムシ(★★)
エノキはタマムシ(ヤマトタマムシ)の寄主植物であり、他にもヒシモンナガタマムシやシラホシナガタマムシ、ムネアカナガタマムシ、ベニナガタマムシといった複数種のナガタマムシが利用します。
地域によってはエゾエノキがみられますが、エノキにみられる種の多くはエゾエノキも同様に利用するので、基本的に同じものと思って大丈夫です。
・ケヤキ(ニレ科)

ケヤキは樹皮の剥がれ方が特徴的であり、樹皮下は一部のタマムシ類の越冬場所としてもよく利用されます。

葉の基部は左右で非対称な形をしています。これはニレ科に共通する特徴で、元々ニレ科だったエノキやムクノキでも同様です。
ケヤキの鋸歯は粗く、先端が尖るが側縁部は丸い独特の形をしています。

左:アオグロナガタマムシ(★)  右:ヤノナミガタチビタマムシ(★)
ケヤキはエノキを利用するタマムシ類の一部に加えて、アオグロナガタマムシやケヤキナガタマムシ、ヤノナミガタチビタマムシなどが利用する樹種です。
ケヤキは街路樹としてよく利用され、神社や公園にあることも多いです。
山間部(中間温帯、里山的な環境)では所によりケヤキ林がみられる場所があります。
・クヌギ(ブナ科)

樹液を出し、クワガタムシ等が集まる木の一つ。
細長い葉は両面が緑色で、樹皮の裂け目がオレンジ色を帯びるのが特徴です。ドングリの形状も特徴的。

左:オオウグイスナガタマムシ(★★)  右:ダンダラチビタマムシ(★★★)
クヌギはアサギナガタマムシやオオウグイスナガタマムシ、ダンダラチビタマムシなど多くの種が利用します。
クヌギやコナラ、クリ、ミズナラ、シイ・カシ類などのブナ科を利用するタマムシは多く、樹種によって採れやすい種が変わるので、いろいろなブナ科を覚えておくと有利です。
クヌギは人為的に植えられていることがほとんどで、里山林や公園で多くみられる樹種です。
この他にも、マメ科(クズ、フジ)、バラ科(ウメ、キイチゴ類など)、アジサイ科(ウツギ類)などさまざまな植物を利用する種がいます。
タマムシ類各種の寄主植物は特定の植物種、もしくは科レベルまでに限定されていることがほとんどで、草本と木本の両方を幅広く食べるような多食性種は国内では確認されていません(いないはず)。
だからこそタマムシ類各種の寄主となる植物種を覚えておけば、いろいろなタマムシ類と出会い、より同定しやすくなります。

スウィーピング

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タマムシ類を始めとする植物につく昆虫を採集するためによく用いられる採集方法として、スウィーピングが挙げられます。
スウィーピングというのは、草木の枝先をなでるように捕虫網を振り抜く(すくう)採集方法です。
動詞のsweep(=掃く)に由来する言葉で、文字通り「ほうきで掃く」ように植物上の昆虫をまとめて捕獲する事ができます。
タマムシ類は気配や振動に対して敏感で、網を近づけたり近くを掬っているだけでもどんどん逃げていってしまう(と思われる)ので、最初はなかなか思うように採れなかったりします。
(そんなことない、そう思うあなたはスウィーピングがうまい)
しかし『タマムシがいそうな枝先』をピンポイントで狙って掬う技術を身につけるにつれて成果が出るようになっていきます。
(私も成長の途上ですが、初期と比べて本当に成果が出るようになっているのを感じています)
また、スウィーピングで成果が出やすい条件の一つとして、樹木が衰弱していることが挙げられます。
小型のナガタマムシ類などは枯れ枝を、中型のナカボソタマムシ類などは樹幹の枯死部などを産卵場所としてよく利用するので、衰弱した木の周囲で多くのタマムシ類が発生している事があります。

例①:ケヤマハンノキ。二又に分かれた幹の半分が枯れており、スウィーピングではルイスナカボソタマムシがまとまって得られました。

ルイスナカボソタマムシ基亜種(★★)
ヤマハンノキやヤシャブシ類を寄主とする中型種。
発生に適した衰弱木や枯れ枝の周辺でなければ全くと言っていいほど採れない。
採れないのは私のセンスがないからですか……?

例②:部分的に枝が枯れているオニグルミ。
カラカネチビナカボソタマムシはこのような木で採れることがかなり多い。
自然に衰弱した木の他には、人為的な影響(枝の切り落としなど)を受けて再生途中にある木も狙い目。

例③:耕作地の近くにあったマグワ。それぞれ別の場所で、どちらも道にせり出した枝が落とされている。
切られた枝の周囲で多数のクワナガタマムシが発生しており、枝葉上を歩く個体がみられた。

クワナガタマムシ(★★)
唐金色の小さなナガタマムシ。平野部のマグワに多い。

例④:幹が折れ、葉がかたまって生えているコナラ。
葉を掬うとクロナガタマムシやホソアシナガタマムシがよく採れたほか、折れた幹にはムツボシタマムシが飛来した。

クロナガタマムシ(★)
クリやコナラなどの伐採木や切り株の樹幹部に飛来する。太い幹からまとまって生えるひこばえを掬うと採れることがある。

例⑤:枝が落とされたエノキ
樹幹部にはシラホシナガタマムシが多く、葉のスウィーピングではムネアカナガタマムシやヒシモンナガタマムシが多数得られた。

シラホシナガタマムシ(★★)
ナガタマムシの中では大型で、美しい種。
エノキの衰弱木の幹や倒木に飛来するが、健全な木のスウィーピングで採れることはほとんどないと思う。
また、ひこばえよりも多少成長した『若木』を好む種も一定数いるようです。

クヌギの若木。樹高は2m程度。
こんな弱々しい木でもアサギナガタマムシやフチトリヒメヒラタタマムシが採れます。

アサギナガタマムシ(★★)
ホソアシナガタマムシとよく似ていて間違えられやすいが、本種は複眼が小さく雄は胸部の縁に金色部がある。
高木から全く採れないわけではないが、アサギナガタマムシは圧倒的に若い木から採れることが多い。

フチトリヒメヒラタタマムシ(★★★)
クリなどの花にも一応来るらしいが、クヌギの葉を掬って得られることが多いという。
健全そうに見える樹木であっても、日のよく当たる枝先をスウィーピングしているとタマムシ類が得られることはよくあるので、一年枝のような比較的柔らかくて新鮮な葉を好んでいる種がいるような気がしています。

また、森林ではなく草地にみられるタマムシ類としてはホソツツタマムシやクロケシタマムシが挙げられます。
どちらも河川敷や二次草原などそこそこしっかりした草原環境でなければ中々みられない種ですが、そういった草地でイネ科植物をスウィーピングすることでこれらの種が得られるかもしれません。

クロケシタマムシ(★★★)
草地環境に生息するタマムシで、外来草本のシナダレスズメガヤなど一部のイネ科植物を利用します。
チビタマムシ類と同様に晩夏に成虫が出現し、冬季は石下などで成虫越冬します。
ホソツツタマムシ
ホソツツタマムシ(★★)
イネ科のカモジグサ、ススキ、シナダレスズメガヤなどの葉を食べる。
出現は初夏。河川敷などでこれらが生えている草本をスウィーピングすると、本種が得られるかも……
また、葉っぱ以外を掬うことでナガタマムシやチビタマムシ以外のタマムシ類を採集できることがあります。

ムツボシタマムシ(★)
伐採木や衰弱木の枯れ枝に来ている個体を見つけることが多いですが、クリやコナラの枯れ枝を掬っていると稀に採れることがあります。
ムツボシタマムシ類の成虫は葉っぱを食べず、樹皮を齧っているようです。

ヒメヒラタタマムシ(★)
アカマツなどのマツ類を寄主植物とする種で、日本産タマムシとしては例外的に花に盛んに来ることが知られている種です。
本種はマツ類が生える環境でクリやミズキなどの花を掬うと大量に採れることがあります。

ルッキング

主に低木や草本植物を利用するチビタマムシ類などは、スウィーピングよりも目で見て探す『ルッキング』の方が手軽に多くの個体に出会える場合が多いです。

マメチビタマムシ(★)
ツル性草本のヤブマメやクズにつく。チビタマムシの仲間は葉っぱを外側から不規則な形に食べるので、特徴的な食痕が残ります。

ヤブマメ(丸みをおびた三角形の葉)にみられる食痕がマメチビタマムシのもの。

ヒラタチビタマムシ(★)
ツル性低木のナワシロイチゴやキイチゴ類に多い種。
ナワシロイチゴが地表付近に生えることが多いため、スウィーピングよりルッキングの方が圧倒的に見つけやすい種です。

クロヒメヒラタタマムシ本州中部亜種(★★★)
また、山梨県や長野県など本州中部地域の山間部では春先にアカマツ林やカラマツ林の周辺で、タンポポやヤマブキなどの花にクロヒメヒラタタマムシが訪れます。

ルッキングにおいて最も成果が上がりやすいのが、新鮮な『倒木』や伐採木が積まれている『土場』、刈られたばかりの枝が積んであるような『粗朶』を見ていくことです。
こういった場所にある新鮮な材には多くのナガタマムシ類やムツボシタマムシ類、クロホシタマムシなどが産卵や交尾のためにやってきます。
松林の伐採地の場合は、ウバタマムシやクロタマムシといった大型種に出会える事も多いです。

ケヤキナガタマムシ(★)
ケヤキの新鮮な伐採木があるとかなりの確率で見られますが、スウィーピングで得られることはほとんどありません。

ヤマムツボシタマムシ(★★)
山地でマツ類の伐採木や倒木に飛来する種。個人的にはカラマツの倒木で出会うことが多いです。

クロホシタマムシ(★★)
ミズナラのあるような山地でみられる事が多い美麗種。コナラやミズナラの伐採木、衰弱木に飛来します。

材採集

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初心者向けではないと思いますが、手軽に多くのタマムシ類を得る方法としては材採集も有効です。
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ナガタマムシ類の脱出孔は半月型で分かりやすい。

大型種の脱出孔はこんな感じで、楕円形に近いが上下が若干非対称になるのが特徴だと思っています。
※寄生蜂や一部カミキリムシのように丸い形にはならず、コメツキムシはより対照的できれいな楕円形になりがち。
木の木目に対して垂直な向きに空くことが多く、平行になっている脱出孔は大抵コメツキだったりする。
もちろん脱出孔の形は種類によると思うのでこの基準が正しいかは分からないが……
このような脱出孔のある材を参考にして、より新しめの材を持ち帰り、保管すると各種のシーズンに合わせて羽化してきます。
(すでに脱出孔が開いた材からも複数年に渡って出ることがある)
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ムネアカナガタマムシ / Agrilus imitans Lewis, 1893
ムネアカナガタマムシ(★★)
拾ってきた数本のエノキの材から20頭以上が羽化した。
スウィーピングでも得られるが伐採木に来ている個体を見つけることが多い。
 
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アオマダラタマムシ(★★)
アオハダ材から羽化した個体。ソヨゴやイヌツゲなどのモチノキ科の衰弱木や太めの枯れ枝で発生する。
筆者は採集も材の管理も苦手なので全然やってませんが、スウィーピングやルッキングでは多数得るのが難しいムツボシタマムシ類や、アオマダラタマムシなど一部のタマムシには有効な方法に思えます。
(その他のグループについては基本的に活動期に探した方が出会いやすい……はず)

樹皮めくり

チビタマムシ族の全てとヒシモンナガタマムシなど一部のタマムシ類は成虫で野外越冬するとされ、これらは冬季にケヤキやムクノキ、スギやヒノキなどの木のめくれ上がった樹皮の下で見つけられます。

マルガタチビタマムシ(★★★)とナミガタチビタマムシ(★★)
ムクノキの樹皮下で越冬中。左の一頭のみマルガタ。
ナミガタチビタマムシは一応エノキにもつくようですが、ムクノキの無い場所で出会ったことはない。

ムクノキの樹皮下で越冬していたヒシモンナガタマムシ。
冬季に出会える唯一のナガタマムシと言っていい。
※ネムノキナガタマムシの越冬例もありますが、報告者の他に確認した人間はいないっぽい……

トゲフタオタマムシ(★★★)
寄主植物であるモミの生える山地帯に生息し、秋に羽化した新成虫は近くにあるスギなどの樹皮下で成虫越冬します。
冬場に得られるタマムシとしては大型で、秋や春より冬の樹皮めくりで手軽に観察できる(ただし多産地に限る)ので人気です。
(秋や春の活動期にはモミなどの伐採木や刈られた枝の上を歩いていたり、周囲を飛んでいたりするとか)
その他、私は未確認ですが河川敷にみられるクロケシタマムシは冬は河原の石下で見つかり、カンスゲを食べるヤスマツケシタマムシは生息地で倒木下のリターから得られており、どちらも成虫越冬する事が知られています。

コナラの立枯れに生えたキノコの間で越冬していたヤノナミガタチビタマムシ。
チビタマムシ類の越冬場所としては樹皮下以外にもいろいろ確認されているようで……枯れ木の割れ目、ススキなどの越冬株の中、コケの中、石の下などが知られ、他にも倒木の下や生木樹皮の割れ目の間などで確認されているとか。
(樹皮下ほど安定して見つかる環境はない……確認されていない?)
さらに、ヒラタチビタマムシ類(常緑樹食)の一部の種では常緑樹の葉裏で越冬する姿が確認されているほか、スミレにつくクロチビタマムシのように暖かい地域では冬の間も活動し続けている種もいるようです……
また、大型種であるウバタマムシも成虫で野外越冬することが知られ、生木の大きな樹皮下や枯れ木の樹皮下に入るほか、クロマツの枝先にしがみついて葉に潜り込むような形で越冬する姿も確認されています。
このようにタマムシ類の越冬体制は種やグループ毎に様々ですが、探し方が分かれば冬でもいくつものタマムシに出会うことができます。

灯火

タマムシ類は全てが昼行性であるとされ、夜間は樹上などに止まって休んでいると思われます。
タマムシ類の採集にライトトラップは有効な方法とは言い難いので軽く紹介するに留めます。
灯りに全く飛んでこないということもなく、夜間に休んでいる場所のすぐそばに街灯があったり直近でライトトラップをすると飛来することもあるようで……街灯に飛来したアオタマムシやコガネナガタマムシが時折拾われているようです。
私自身も2020年に長野県の林縁部で行ったライトトラップにダイミョウナガタマムシが飛来した事が一度だけありました。
(写真あったのに消してしまった……)

黄色衝突板

ナガタマムシ類に特に有効なトラップとして、黄色い板と容器を用いた衝突板トラップ(イエローFITトラップ)があります。
このようなトラップを伐採地のようなナガタマムシが飛び交う環境に長期的に設置することで一定の成果が望めるかもしれません。
ミカンの木を食害するミカンナガタマムシの駆除に用いられる衝突版トラップには誘引剤としてベンジルアセテートを用いると良いとされます。
ただ、このようなトラップを用いてタマムシ類の採集をしている人は多分ほとんどいません。
普通に採集するのと比較して効率などの面でメリットがあるかは微妙な所だと思われます。

緑ネットによる誘引

タマムシの中には緑色の物体に強く反応し、飛び移ってくるものがいます。(キンヘリタマムシ類やクロホシタマムシ、シロオビナカボソタマムシなど)
この習性を利用したタマムシネットと呼ばれるものが一時むし社から販売されていました。
(現在は廃版)

このような緑色の網を用いることで、高所にいるキンヘリタマムシ類を引き寄せて、より手軽に採集する事ができます(たのしい)
また、木々の葉と同じ緑色の網を用いることはスウィーピングの際にタマムシ類に警戒されにくくするためにも若干の効果はあると思われます。

タマムシ(ヤマトタマムシ)Chrysochroa fulgidissimaの採集


ここまでは全般的なタマムシ(科)の探し方を解説してきましたが、おそらくこの記事を読みに来た人の多くが一番知りたいのは狭義のタマムシ(ヤマトタマムシ)の見つけ方や採り方ですよね。
私の採集経験から述べられることをここに記しておこうと思います。
まずはヤマトタマムシ(以下タマムシ)を探すにあたって知っておきたい基本的な情報をまとめます。

タマムシの分布

タマムシはどちらかと言えば暖地性の昆虫で、分布は本州以南となり北海道にはいません。

iNaturalistにおけるタマムシの確認記録は関東以西に偏っています。
本州においても東北地方ではあまり多くない虫のようで自然の多い宮城県・山形県でも絶滅危惧種に指定されているほどです。
岩手県の野生生物目録に本種の名前がなく、Twitter上でも「秋田にはいない」という投稿が見受けられるため、やはり宮城ー山形あたりが分布の北限になっているのだろうと思います。
↓Yahoo!知恵袋にもあったタマムシ分布の話題

タマムシの生息地の北限は? Yahoo!知恵袋
https://detail.chiebukuro.yahoo.co.jp/qa/question_detail/q1072363275

ちなみに私が学生時代を過ごした長野県の松本や伊那では一度もこの虫に出会えませんでした。生息し得る環境は沢山あったんですが、やっぱり寒冷地では繁栄しづらい虫なのかも。(北信にいるらしい……?)
一方で実家周辺の埼玉県の低地や、都区部でも場所によっては普通に見ることができます。
※なお奄美大島~沖縄島、対馬、男女群島のタマムシは別亜種になります。本記事では本州に分布する原名亜種Chrysochroa fulgidissima fulgidissimaについてのみ、お話します。

タマムシと出会うには ~発生時期と寄主植物~

関東辺りでは早いと6月の上旬ごろから見つかり始めますが、多くなるのは7月以降ですね。
発生ピークは7~8月ですが、9月中頃くらいまでなら少しはみられます。
タマムシの成虫は先述しているエノキやケヤキの葉っぱを好んで食べるため、必然的にこれらの木がある場所で見られます。
そういえば私はケヤキを与えて飼育したことが無かったのですが、飼育下ではエノキの葉をより好むという話を聞いたことがあります。

幼虫こんな写真しかなかった
幼虫は枯れた樹木の内部を食べて育ちます。成虫も好むエノキやケヤキは勿論、クヌギやカシ類などのブナ科やサクラ類など様々な広葉樹を利用することが知られます。
食べるのが内部(心材部)であるため、枯れてから時間が経った古めの枯死木でも産卵に来る個体を見ることがあります。樹皮下食いのナガタマムシは鮮度にわりと厳しいですが、タマムシは樹皮が丸禿げの立ち枯れでも来てくれます。
よくある誤解として、成虫もサクラを食べるというものがあります。確かに衰弱したサクラ類に産卵のためにタマムシが飛来することはありますが、成虫にサクラの葉を与えても食べることはありません。
そういえば昔、昆虫ゼリーを与えて飼育していた人がいた気がする……(本当か分からないが)
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これはナラ枯れではないが、タマムシがよく来たクヌギの立ち枯れ@埼玉県_2016年

ここ最近はナラ枯れの影響でクヌギやコナラの太い枯れ木が発生しやすくなっていて、それらの立ち枯れに産卵に訪れる個体を見ることが多くなりました。

タマムシの探し方 ~生息環境と活動時間~

タマムシは虫自体がかなり大きいので、太い枯れ木や枯れ枝(枯死部)、伐採木、切り株などがある環境が必要です。
山奥にいくよりも人の手が入る低山~平地くらいの方が出会いやすかったりします。
主要な寄主植物のエノキがそもそも山奥より低地に多い樹木なので、探す上でも簡単だと思います。
エノキは少し湿った環境に多い樹木で、大きな川沿いに発達する樹林には大抵生えています。

河川堤防沿いにある日当たりのいいエノキ高木は良好なポイント
タマムシを探すなら河川敷の林に行くか、広葉樹の多い公園に行くことをオススメします。
公園にはケヤキと一緒にエノキが植えられていることも多く、風通しのいい立地に立つエノキやケヤキには多数のタマムシが飛ぶ姿を見ることもあります。

エノキ大木枝先を飛び回る個体が多数みられた@奈良県_2017/08/09

特徴的なT字型のシルエットが見える@埼玉県_2019/08/16
タマムシの成虫は夏の晴天時、特に暑い時間(11時~15時くらい)にエノキやケヤキの周辺を盛んに飛び回ります。
高いところを飛んでいることが多いですが、時折低い位置に降りてくることもあります。
(立っている人間を枯れ木と勘違いして? 向かって飛んでくることもあります)

飛んでるのは見えるのに……という場面は結構ある。
確実に捕獲したいのであれば出来るだけ長い(5mくらいは欲しい)捕虫網があると良いですが、多数発生している場所では低い位置に降りてくる個体と出会うチャンスも多く、飛ぶスピードは遅いのでなんなら素手でいけてしまうこともあります(笑)
観察だけなら飛んでいる個体を双眼鏡で覗くだけでも、その美しさをしっかり感じられるはずです。

クヌギの枯れ木に産卵に来た♀@埼玉県_2023/07/17
一番楽に観察できるのは産卵に訪れる♀個体を探すことだと思います。
先述の通りナラ枯れで枯れたクヌギやコナラには来るのでナラ枯れを目印に探すか、氾濫の多い河川敷などで倒れた木を探してみるのもオススメ。いい場所が見つかれば目の前でタマムシをじっくり観察できるでしょう。
もちろん日当たりが良い場所の方が望ましいですが、意外と林内の枯れ木や木陰の枯死部にも飛んでくるので注意が必要です。

産卵行動中の個体はゆっくり近づけばほとんど逃げない@埼玉県_2016/08/14



持ち帰ったタマムシはエノキやケヤキの葉を与えて飼育することができます。
狭い虫かごは熱気がこもりやすいためなるべく大きな容器で、風通しのいい場所においてあげてください。
以下、本ブログのタマムシの採集記のリンクです。参考になるだろうか……

奈良 帰省採集2017夏_1日目: タマムシ採集の正攻法

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2017.08.09今日からは、なんやかんやで恒例になっている奈良への帰省です。長野から直接なので、採集道具を一式持っていくことになりました…

【8月編】月1河川敷採集記 〜2016年最後のタマムシ!〜

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2016.08.14河川敷で今年狙うべき最後のタマムシに決着をつけたい。あとは、ヤマトタマムシの追加を少し期待して…色々考え始めたら行きたくなってしまった

タマムシ類の同定

ヤマトタマムシのような顕著なものならともかく、小型のタマムシ類を観察・採集する上での最大のネックは種同定の難しさかもしれません。
冒頭で述べたような『日本産タマムシ大図鑑』を持っていれば……持っていても難しく悩む事が多いかもしれません。
なるべく鮮明な写真(背面からが良い)を撮って、ネット上の虫屋さんに聞いてみるのも手です。
掲示板とか、TwitterなどのSNSとかに質問を投稿してみると、案外あっさり答えが出るかも。
ちなみに本ブログのメールフォームとか、Twitterの方(@syutyu_064)とかで聞いてくだされば私に分かるものは無限にお答えしますし、こちらから勝手に探して教えに行くかも知れません。
最も、TwitterやFacebookには私とは比べものにならない位に凄いタマムシ屋さんが何名もいらっしゃって、皆さん積極的に未同定タマムシ警察をやられている(気がする)ので私が出しゃばる必要もないですが……
永遠に他人に同定を頼り続けるのは問題かもしれません(最低限のマナーや情報の不足した同定依頼は相手次第ではウザがられるかも)が、回数を重ねれば何となく自分でも分かるようになるものです。
そして真剣に極めたいって思うことができたら、その段階で初めてしっかりした図鑑を買ったら良いのです。(タマムシ大図鑑は5万くらいで古書が出回ることがある……)

おわりに

書けるだけ書きました。
タマムシ採集、やってみたいと思っていただけたでしょうか……。
私は初心者の方向けに同定の難しい近似種の見分け方についての記事とかも、今後ちょっとずつ書いていって、敷居を下げられるように尽力します。
この記事も新たな知見を得る度に更新して、より多くの人がタマムシ類に興味を持ってもらえるように育てていきます。
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届かせたい人に、この記事が届くように……!!

参考

・馬場 金太郎, 平嶋 義宏(2000)昆虫採集学. 九州大学出版会, 福岡
・福富 宏和(2015)タマムシ屋における長竿の使い方 ~長竿屋のススメ~. 月刊むし, 537:33-37
・大桃 定洋 (2016) タマムシの魅力. むし社, 東京
・大桃 定洋, 福富 宏和 (2013) 日本産タマムシ大図鑑. むし社, 東京
・山田 航, 福富 宏和(2018)タマムシ科甲虫の採集法. 昆虫と自然, 53(7):22-26
ほか 

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