”聖地”と呼ばれる場所

今年は7月の中頃に有給を使って6連休を錬成することができました。
せっかくなので少し遠出しよう! ということでレンタカー借りて3泊4日の採集遠征に行きました。
宿泊を伴う単独での遠征採集、実は今回が初めてです。
なのであんまり無理はせず、本州でずっと行けてなかった場所へ向かうことにしました。


2022.07.14
まず初日に目指すは久々の長野県(東信)です。
かなり遠いかと思ってましたが、高速を使えば自宅から3時間半ほどで行くことができました。
(奥秩父に行くのとあんま変わらなかった……)
目的地である某村の看板が目に入ると、なんだか感慨深いような気持ちになりました。
私はタマムシの採集を本格的に初めて10年近くになります。
その最初期から、いろいろなサイトの採集記で登場するこの場所のことはずっと気になっていました。
“聖地”と呼ばれることもある、特別な場所です。
やっと。
やっと、ここまで来れたんだ……
運転していると、窓の外に広がる景色が目に入ります。
高原地帯ならでは少し明るい色の空の下には、広大なレタス畑が広がっています。
ちょうど今が収穫のシーズンだったようで、あちこちで大きな箱形の荷台を背負ったトラクターが走っています。
荷台には大量のレタスが積み込まれ、時折道路脇に転がり落ちたレタスも見つかりました……
分かりやすく異界に来たことを感じられた瞬間でした(笑)
程なくして最初の目標地点に到着。

この付近にはハルニレにつく珍しいタマムシが生息する事が知られています。
「で……どこら辺なんだっけ?」
急に決めた有給。また天気の都合で行く場所も前日に変更したため事前の情報収集をする時間も十分に取れず、近くに行ってみれば分かるか! の気持ちでそれっぽい所まで来てみましたが……初見だと普通に分かりませんでした(笑)
現地で少し調べて何となくの場所はわかったものの、どこからアクセスするのが正しいのか分からず、この後しばらく奔走する事になります。
まあドンピシャで有名ポイントに行って、そこだけの採集で1日終わっても勿体ないし……
ハルニレは道中でも何度か見かけているため、まずは有名ポイントでなくても気になる場所を巡りつつ、余裕があればポイントを見に行く位の気持ちでいました。

日当たりの良いハルニレ
ハルニレを寄主とするタマムシはキンヘリタマムシの仲間とキタドウイロチビタマムシが代表的なところです。
このハルニレからは思いがけずナガタマムシの仲間が採れました。

???????
なんだこれ?
パッと思い当たるものがありませんでした。
場所が場所なので、初見の種の可能性もある……
(正体は後ほど)

網がもう少し高く伸ばせれば何か採れたかもしれない

左: ツノヒゲボソゾウムシ
Phyllobius (Diallobius) incomptus Sharp, 1896
右: アカタマゾウムシ
Stereonychus thoracicus Faust, 1887
この付近のハルニレスウィーピングでは、普段あまり見かけないタイプのクチブトゾウムシ(左)がよく採れました。
→カシワクチブト系かと思ったらツノヒゲボソゾウムシでした。
本来トネリコの仲間から採れるアカタマゾウムシも何故か複数採れました。身構えるだろうが……

軽く伐採されている場所もあった
ここでは数頭のナガタマムシが歩いていた他、よくみるヒメクロトラカミキリなどがいたのみ。
ナガタマはウグイスかな? と思ったのですがよく見たら別種でした。

ミドリツヤナガタマムシ
Agrilus sibiricus fukushimensis Jendek, 1994
ミドリツヤナガタマムシをスウィーピング以外で得たのは初めてでした。
本種が来ているということはカエデ類の材だったのでしょう。
少し移動すると、結構な規模の伐採地がありました。

アカマツやコナラ、シラカンバなどが主のよう
結構最近伐採された場所のようで、ホソアシナガタマムシは至る所にみられました。
(一応気にしていたがニセらしい個体は見つけられなかった)
カミキリムシの姿もちらほらと。

シロオビトラカミキリ
Clytus raddensis Pic, 1904
こちらは普通にみられるシラケトラカミキリかと思いましたが、模様に違和感を覚え採集。
帰宅後の同定で初見のシロオビトラカミキリと判明しました。

こっちがシラケトラカミキリ。写真こんなのしかなかった……
シラケトラカミキリと比較すると、本種は前胸(背面)は光沢がなく太く丸いことなどで区別されます。
寄主はケヤキやエノキなど普通にある樹木ですが本種の方がずっと少なく、本州の山地で稀に得られる程度のようです。
(ここではシラケトラカミキリは見つかりませんでした。)

黄色みが強かったため初見種かと思ったウスイロトラカミキリ Xylotrechus cuneipennis (Kraatz, 1879)。
シロオビトラカミキリを除けば、他はエグリトラカミキリやオオマルクビヒラタカミキリなど、よく見る伐採地のメンツでした。
もう少し何か見つかると思うけどな……と思いつつ伐採地をうろうろしていると、中型のタマムシが足元から飛び立つ。
これはムツボシタマムシの仲間……!

ヤマムツボシタマムシ
Chrysobothris igai Y. Kurosawa, 1948
数年ぶりのヤマムツボシタマムシでした。
松につくタマムシです。確かにアカマツの伐採木も多かったので納得。

マダラヒゲナガゾウムシ Opanthribus tessellatus (Boheman, 1829)。これは多数いました。
伐採地で1日潰しそうな勢いだったため程々で引き上げ、さらに移動。

沢に近い場所にはハルニレもありました。
この木のスウィーピングではブドウナガタマムシが入りました。
そうか、ブドウナガはハルニレでも採れるんだったな……
ん?
ということは……?

ブドウナガタマムシ
Agrilus marginicollis E. Saunders, 1873
今日最初にハルニレで採った個体も見直したらブドウナガタマムシでした。
初採集の可能性は消滅してしまった……いや嬉しいけど、ブドウナガでも。(生涯5頭目くらいか?)

ヒゲナガシラホシカミキリ Eumecocera argyrosticta (Bates, 1884)の♂。
さらにこの近辺ではヒゲナガシラホシカミキリやクロニセリンゴカミキリなどのカミキリムシも何頭か得られました。
谷底に大きめの倒木があったのでそれを見に行こうと斜面を下っていた時、大きめの甲虫が丁度吹き上がってきました。
お? アオジョウカイか?

フタコブルリハナカミキリ
Stenocorus caeruleipennis (Bates, 1873)
こっちか!
2年ぶりのフタコブルリハナカミキリでした。
ミズキなどに産卵し、孵化した幼虫は土中に潜って根部(皮)を食べることが知られます。
何回か出会ってますが、自分的には狙って見れる虫ではないのでうれしいです。
埼玉県ではまだ縁がなく出会えていません(リョウブやノリウツギなどの花期を大概外してしまう)。
その後も近くでハルニレのスウィーピングを続けていた時、悲劇が。

あ、終わった……
手荒なスウィーピングによって負荷がかかり過ぎたのか、枠が壊れてしまいました。
(強靭な4折枠のノリで樹脂フレームぶん回してたらそりゃすぐ壊れるか……)

幸い「抜けた部分を刺し直したら元に戻る」くらいの壊れ方だったので(そんな単純な構造だったんだ……)、その場で修復できました。
当然ながら、強いスウィーピングを行うと再び抜けてしまうのでこの後も何度か修復を繰り返しながら“壊れない力加減”を学んでいきました。

そういえばちゃんと紹介してませんでしたが、今回使っている網は今シーズンから新しく使い始めた「樹脂フレーム」と呼ばれるものです。
六本脚の商品ページ↓

メッシュネット付 樹脂フレーム
http://kawamo.co.jp/roppon-ashi/sub605.htm#juicy

リンク先のページには以下のような4点の特徴が挙げられています。
従来無い樹脂製なので、軽くて丈夫
→同径のウルトラフレームの方がより軽くてより丈夫ですが、樹脂フレームには枠径が70cmや80cmのものもあります。私は80cmを買いました。
今まで使ってきた60cmとは数字では20cmの差ですが、掬える範囲は格段に広がり60cm枠が頼りなく感じてしまうほどです(笑)
柄に付けたまま畳める
→背負って自転車で走る場合はロッドケース等が必須です(固定しないと網が垂れたり広がったりする)。
80cm枠では畳んだ状態の寸法(125mm)がプロックス(PROX) 磯玉の柄剛剣シリーズ(111mm)よりも長いため、畳んだ枠が少し柄からはみ出す形になります。
組み立て時間が短い
→ネジがしまった状態からスタートできるので、慣れれば展開も素早く行えます。
長竿に装着時、竿への負担が少ない
→大きさの割には少なく感じました。
長竿との接続部でネジが緩むこともなく安定感があります。
耐久力に不安はあるものの、それを補って余りあるデカさと使い心地の良さで気に入っています。
(樹上スウィーピングをメインでやらない回はウルトラフレーム60cmを利用することで使い分けています)
柄は昔から使ってるプロックス(PROX) 磯玉の柄剛剣 900です。

これが完全にダメになったら、いよいよ10m超えの柄に手を出そうと考えていますが……折れても既存の柄とパーツ交換したりして結構粘っています。
ただ柄の底部が定期的に外れるようになってしまって、かなり使い辛さを感じています。
その後も2時間ほどスウィーピングを続け、見たい場所は一通り見終えましたが……特に成果はなし。
16時頃からちょうど天気が崩れる予報で、今15時くらい。もう切り上げても良いが……
最後に有名な場所を見に行くことに。

既にかなり天候が怪しく、今にも降り出しそう(若干降って、止んだ)な感じです。
行ったところで大したことはできないでしょうが……足を踏み入れて自分の目で環境を見ておくことにもきっと意味があるはず。
合羽着て、洪水等でめちゃくちゃになっている道をしばらく歩きます。
以前は車でこの道を通れたようですが今は歩いていくしかありません。

ああ___こんな感じなんだ……!
大河川の源流域である当地はカラマツを主体とする樹林に囲まれ、その中に大きなハルニレが点在していました。
現在の装備では、日当たりのいい樹冠部に網は到底届きそうにありません。
ほんとに今日来るまでこの地域のこと何にも知らなかったので、もっと開放的な高原みたいな空間があって、その近辺にハルニレの大木があるのかと思ってました……
源流域といっても川幅も広く、流路もかなり荒れている様子が各所から見て取れました。

こんな衰弱木も。特に何も採れませんでした……


この木はもしかして……?
見慣れない低木が少しずつ増えてきました。
クロウメモドキ科のクロツバラです。当地周辺はクロツバラの低木が多くみられる場所で、本種に依存する希少なカミキリムシの産地でもあります。
時期的にもしかしたら狙えたのかもしれないけど……ゆっくり探す時間は取れませんでした。
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あ、これ進研ゼミとかでみたやつだ!!
ようやく”正しい場所”に来たと分かる景観に行き着きました。ちょっとだけ天気も回復した。
ここに来るのは初めてですが、いくつもの採集記で見てきた場所なので全然初めての気がしませんでした(笑)
例年おそらく多くの虫屋で賑わい、他の地域ではなかなか見られないような希少な昆虫を数多く産出する神聖な場所……相応しい昆虫には今日全く出会えなかったけど、この場所の環境は目に焼きつけました。
平日だしこんな時間なので、さすがに人の姿はなし。

空の様子を見ながらギリギリまで悪あがきをして、可能な範囲で周囲のハルニレをスウィーピングしてみました。
何も採れませんでした。

左:クロボシツツハムシの斑紋拡大個体(旧ニセクロボシツツハムシ) 右:スジボソヤマキチョウ
結局このポイントで得たのは上記2種だけでした。
クロツバラが沢山あるこの場所ならヤマキチョウ(クロツバラ専食)かも……!と思いましたが、ちゃんと見慣れたスジボソヤマキでした(笑)
スジボソヤマキチョウはクロツバラに限らずクロウメモドキ科の数種の植物を食べます。
年一回、初夏(6-7月)の羽化で成虫越冬しますが春先以外はあまり活発に動かないようで綺麗な個体はあまり見ない印象です。
17:00頃には流石に撤退。
なんとか暗くなる前には車まで戻って来れました。
初見の虫はいくつかあったものの、素晴らしい環境に来たのにあまり成果が出せず残念感がありました。
今回は成果を出すに足る努力も十分に出来てないので、当たり前の結果かも……
普段あまり採集者の多い場所行かないから分からずに済んでるけど、こういう時はやっぱ「弱いなぁ」って感じてしまいます。
私が有名採集地を避けてしまうのは、そうやって誰かと比べて情けない気持ちになるの辛いからというのもあるなあと思いました。
(一番は、既に多数の標本が蓄積されているであろう場所の標本を増やす意味あるのかとか考えてしまうからですが)
とは言え、ここに来たことでハビロキンヘリタマムシの生息環境を知ることができたので良かったです。
長野県内なら似たような環境に心当たりがある。いずれにせよ普通の方法ではなかなか採集出来ないだろうけど……
ハビロキンヘリタマムシは私が死ぬまでに出会いたい昆虫の1つです。
いつかこの日の経験を活かして、埼玉県内……はキツそうなので日本のどこかへ会いに行きます。


しばらく車を走らせて街まで出て、給油と夜飯を済ませた所で気がつく。
雨が降っていない
ということで。

ここからは適当な所でライトトラップをやりました。
(雨は夜遅くから降る予報に変わってました)
近くに見晴らしの良さそうな場所があったのでそこへ行き、ライトを点灯。
この夜はかなりガスってて、周りの植生などはほとんど見えませんでした。一応広葉樹林?

ライトトラップには都合の良い条件だったようで、小さい虫中心に多数の飛来がありました。

アオアカガネヨトウ
Karana laetevirens (Oberthür, 1884)
20:30頃、アオアカガネヨトウが飛来。
金緑色に輝く鱗粉を持つ美しい種で好きです。寄主は不明ですが山地でみられます。
過去に何度か出会ってますが、この個体はそれらよりも擦れがなく綺麗でした。

モンキヤガ
Diarsia dewitzi (Graeser, 1889)
模様の美しいモンキヤガも数頭来てくれました。
寄主は不明なものの標高の高い山でよく得られる虫のようで、初見でした。
(Diarsia: オオバコヤガやアカフヤガ、ミヤマアカヤガと同属)
この日一番嬉しかったのはこれ。

キシタギンウワバ
Syngrapha ain (Hochenwarth, 1785)
キシタギンウワバです。数頭来てくれました。
高原などにみられるイメージでしたが、そんなに山奥に来たつもりもなかったので意外でした。
(標高確認したら1500以上あった。十分か。)

後翅は鮮やかな黄色で、ダークな銀色の上翅とのコントラストが美しく映えます。
日中も活動して各種の花を訪れ、幼虫はカラマツなどを食べるようです(木本食なのか……)

上段左: ミヤマアカヤガ Diarsia brunnea urupina Bryk, 1942
上段右: カドモンヨトウ Apamea crenata (Hufnagel, 1766)
下段左: タンポヤガ Xestia ditrapezium (Denis & Schiffermüller, 1775)
下段右: ハイモンキシタバ Catocala mabella mabella Holland, 1889

その他も格好いいヤガがいくつも来てくれて賑やかなライトトラップとなりました。
バッテリーが完全に切れるまで粘るつもりでしたが、23時頃にいきなり豪雨となり切り上げました。

それから2時間ほどかけて翌日の採集地へ向けて移動。
日を跨ぎ夜中1時ごろ。今晩は道の駅で車中泊します。
荷物が多すぎたせいで座席が全然倒せず、たいへん寝苦しい夜になりました……(笑)
翌日↓

ズミチビタマムシとの邂逅

ズミチビタマムシとの邂逅

2022.07.12ゴオオオオ……という凄まじい音で目を覚ますと、まだ朝の5時でした。音の正体は雨。外は大荒れの天気です。4日間の中で今…

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