写真も立派な「観察データ」
野外に出て動植物の採集や観察を行う方々は、明確な目的がない場合でも何らかの観察記録を取ることが多いと思います。
フィールドノートを書くとか、採集して標本を作るとかありますが……その中でもお手軽なのは「写真撮影」ですよね。
写真には撮影日時が自動で記録されますし、必要な形質がしっかり写せていれば標本がなくとも同定できる場合があります。
カメラによっては撮影時にGPSで位置情報を取得できるものがあり、それらを組み合わせれば「①いつ ②どこで ③何を」観察したのかが最低1枚の写真によって説明できる観察データとなり得ます。
このような観察データは、特定の場所、時点での生物の存在を示すデータです。
動植物の写真を日々たくさん撮っているけどSNSやブログ等に上げた後は放置してスマホやPCに溜め込んでいる、
あるいはフォルダ分けしたりファイルに名前つけたりして整理するものの……「役に立つ機会が今後あるのだろうか」などと思うことはありませんか?
どんな普通種であれ存在する以上、生物多様性の上で必要とされる力があります。
せっかく収集した観察データを手元で腐らせるのは何だか勿体ないと思いませんか?
写真は生物標本のように、ダイレクトに生物の命を代償にして得られているものではないので、「活用する責任がある」とかそこまでは思いませんが……私は昆虫採集から生き物趣味に入った人間なので、趣味で野鳥の写真を撮り始めてからそういう部分が少し気になっていました。
生物観察データのうち、画像はインターネットを介して多くの人と共有できる特性があります。
以前は私も上手く撮れた生き物写真を単純にSNS、ブログ等でシェアして終わり! くらいにしか思っていませんでしたが……。
(ブログでフリー素材として流そうかと試みたこともあったが、容量極大記事になるのでやめた)
最近は生体や標本の画像データに観察時の年月日や位置情報を付したデータを投稿して共有するサービスがいくつかあり、これを利用する事で自分の観察記録を簡単に確認・整理できますし、データを必要とする方へ共有することができます。
データを共有することで、たとえ個人の趣味的な観察記録であっても生物多様性に関連する研究等へ活用できる可能性を生み出せるのです。(絶対に役に立つわけではない)
ということで、本記事ではそういった写真データを主とする個人趣味の観察記録を整理し、自分自身も振り返りやすくすると共に、何らかの活用にも繋げる手段として代表的なものである、「iNaturalist」というアプリ(webサイト)を利用してみて私が感じた事などを紹介します。
「iNaturalist」とは

iNaturalist(webサイト)
iNaturalistはナチュラリストのためのソーシャルネットワークです!
植物や動物の観察を記録し、友人と研究者に共有し、自然についてもっと知りましょう!
端的には市民科学のプロジェクトと表現されます。
誰でも無料で参加可能で、科学研究に貢献できるシステムです。世界中で広く利用され、ユーザーは2023年3月時点で600万人を超えています。
ニホンアマガエルで投稿検索かけてみた。全国的に観察されているのが分かります。
iNaturalistのユーザーは生物の観察記録を投稿し(写真or音声 無くても投稿できる)し、別のユーザーがその同定を補助することで記録の正確性を高めています。
そうして「研究用」となった記録が地球規模生物多様性情報機構(GBIF)のような研究に使用されるオンラインデータベースにも取り入れられ、活用されています。
同様な仕組みを持つアプリとして、株式会社バイオームが運営するスマホアプリ「Biome」や、環境省の「いきものログ」などがあります。Biomeは日本ではiNaturalistよりも人気で、私も元々はBiomeユーザーでした。
(いきものログは昔少しだけやったけど、使いづらくアプリの挙動も怪しくてすぐにやめてしまった……今は改善しただろうか)
本記事を作成する過程で知ったのですが、同系統のサービスで日本野鳥の会が運営する「eBird Japan」というのもあるのですね。
こちらは使ったことありませんが、見た感じ野鳥に特化した機能(出現種と個体数を現場でカウントして野帳を書くようなノリで使える感じ?)がありそうです。
私がBiomeアプリ使ってて「あったらいいのに」と思う機能はほぼiNaturalistにあったため、現在はほぼiNaturalistに移行しています。
参考までに以降はBiomeとの違いも交えながらiNaturalistの紹介をします。
iNaturalistに投稿する
投稿の閲覧のみであればアカウントがなくてもできますが、アカウント登録(無料)すると、観察記録を投稿できるようになります。
投稿はスマホアプリ又はwebサイトで行えます。スマホアプリよりwebサイトの方が投稿時に出来ることが多くてやりやすい印象です。
webサイトでの投稿
写真を追加(最大4枚まで)し、種名を入力します。画像を認識し、自動的に候補が表示されます。(Biomeよりは遥かにちゃんと提案される印象)
ここから選ぶか自分で検索して、iNaturalistの方で用意されている種名データと合致するものを選択し、登録します。
昆虫類などは和名で検索しても出ない場合があり、その場合は学名で検索すると出ることもありますが……ないこともあります。
種までの同定に不安がある場合は科sp. 属sp.などでも投稿することが出来ます。
位置情報が付随しない写真であっても、投稿時に場所を指定することができます。
ピンポイントで指定もできますが、場所が思い出せない場合は円を大きくして誤差範囲で指定できます。
Biomeでは住所を検索して移動することが出来ず(現在地から確認地点まで毎回画面スクロールする)、マップも航空写真の表示ができない(細い道とか表示されない)など、正確な位置情報を落とす/たくさん投稿をする上での障害が多いです。アプリ内カメラでの現地撮影+記録を主軸にさせるためにわざとそういう仕様にしているのかも……?(私はこれが原因で投稿が進まず挫折しました)
写真で十分に同定できるような生物の場合、投稿後に他のユーザーが種名の提案をしてくれることが多いです。
自分を含めて2件以上の種名提案があり、尚且つそれが同一種の場合には投稿に「研究用」のタグがつきます。
投稿を研究用データにするには他者からの提案が絶対に必要なので、積極的に提案を飛ばしてくれる方の存在は心強いですね(自分も得意な分類群はちょっとずつ協力していきたい)。
スマホアプリでの投稿(野外で)
webサイト版では複数の写真をまとめて投稿したり、よく使う場所を保存したりできるので、基本的にはwebサイトで投稿した方が楽です。
しかし野外で観察し、現地で記録を取る場合(鳴き声録音orスマホでの写真撮影)はスマホアプリでの投稿の方がお手軽かも知れません。
やり方はweb版と同様
自分の観察記録を見る
iNaturalistではユーザーは自分で投稿した記録を分類群や和名、期間など様々な条件でフィルターを設定し簡単に抽出、表示できます。
「鳥類」でフィルターをかけた。自分が撮影した鳥の種数は115種、とここで分かる。
(表示されている写真は私が撮ったものではありません)
特定の種の観察記録を表示すると、過去に撮った写真を一目で振り返れる。
(こっちは私が撮った写真です)

観察記録はマップ表示もできる。今までにどこでその生物に出会ったかが一目で分かる。
ライフリスト(=出会った生物種のリスト)も確認できる。リストはCSV形式で出力してExcelなどで表化できる。
科レベルでの確認種数も見られる(赤丸)。
※Biomeはこの辺りの機能が不十分でした。
Biomeで現在できるのは鳥類、昆虫類みたいな大きなくくりでの抽出と、投稿に付けたタグを検索することくらいです。和名で抽出をかけることが出来ず、それをやるには自分で投稿に予め和名タグをつけておく必要がある。
「コレクション」機能で整理することはできますが、ユーザーが自分で1個ずつ選んで投稿を追加する必要がある。しかも投稿時に設定できないので投稿後にちまちま……ダメだ、こんな調子で書いてるとBiomeアンチブログみたいになってしまう(笑)
Biomeは時折覗きに行くたびに機能が増えているので、今後の進化に期待したい……。
写真整理としての活用?
PC上の生物写真データを整理する時にiNaturalistに投稿することで、詳細な観察内容と共に保存することができる、というのはここまでの流れで分かっていただけたかと思います。
iNaturalistに投稿した画像はwebサイトからダウンロードして再度自分で使うこともできますが、画質が落ちるので元データと併せた管理をしたい場合もあるでしょう。
私は種名別にフォルダ作って分けていますが、それ以上のことは特にしていません。
(しばらくファイルごとに地名とか入れる作業やって、あほらしくなっていいやり方を調べるうちにiNaturalistに行き着きました。)
観察記録を辿りたいときはiNaturalistから辿れるようになりましたし、元画像が必要な時(そんなのないけど)は種名で検索した上で記録と日時を照らせばすぐたどり着けます。
何なら投稿時に写真のファイル名を備考欄に書くようにでもすれば、フォルダ分けすらせずとも自由に写真を扱えるようになるのではないでしょうか。(めっちゃ私的な使い方でどうかと思うけど)。
coolpixP950買ってからの1年半分は無事投稿し終えたので、次はGoogle Photoに眠る古の虫写真たちも整理して、容量を確保したいところです。(あと2GBくらいしか残ってない)
利用上の注意点と課題
iNaturalist等のサービスに興味があり今後利用しようと考える方に向けて、私が今まで使用して感じた課題などについて書いておこうと思います。
かくいう私も最近使い始めたばかりで機能も全ては把握できてはいないので、解決策は既にあるかも知れません。
①位置情報の公開はユーザー次第
iNaturalistでは投稿時に位置情報を他のユーザーに対してどのように公開するかを以下から選択できます。
・不明瞭 :座標は曖昧にされる。市町村までの地名は公開。
・非公開 :完全に非公開。
地域で絶滅が危惧される種や、観察者・採集者の集中、盗掘などが懸念される種については情報が不明瞭、非公開にされることが望ましいと思います。しかしその判断は投稿者に委ねられており、「これ公開してて大丈夫なのか……?」みたいに思う投稿も見受けられました。
じゃあ一律に不明瞭、非公開にするのが良いのか、とも思いましたが……
↓投稿時の位置情報公開に対する考えは以下で議論されている

絶滅危惧種の保全状況の登録について
iNaturalistでは、IUCNレッドリストのほか、北米を中心に国・州レベルで絶滅危惧種の保全状況が登録されています。これまで日本では環境省レッドリストの掲載状況は登録されてきませんでしたが…
投稿者が位置情報を非公開にしても、研究等で必要な場合は確認して利用できる状態ってことでいいんだろうか?
投稿者のプライバシー設定等によって変わるのだろうか?
その辺のいいやり方が分からなくて、今は一部を不明瞭にしています。
(位置情報を非公開にしても投稿者自身は位置を確認できます。)
Biomeでは環境省レッドリストにかかる種はアプリ側で自動的に非公開にしてくれるので、慣れない人間が使った場合を想定しても希少種の保全とかそういう意味では安心度が少し高いですね。しかしBiomeは地名を非公開にすると自分も見れなくなるというデメリットがあります。
②未登録の分類群(ほぼ解決?)
先述している通り、iNaturalistでは未登録な種名やグループが結構あります。
属sp.として投稿し、備考欄にとりあえず種名を書いておけば後々種名でフィルタして観察記録を確認することはできます。
しかし確認種数のカウントとかライフリストの種数に反映されないのが少し残念ですね。
これについて対処法を教えていただきました。
◆学名で既に登録されているが、和名がない場合
個別の種のページの下部にある「+名前を追加」という所から和名を入力して追加することができるようです。
和名は誰でも追加でき、変更もできます。
◆種として登録がない場合
種の追加は一般ユーザーにはできないので、権限を持つ人にやってもらう形になります。
登録したい種が含まれる属などのページに行き、「キュレーター管理」という所からフラグを立ててコメントを残すことで、権限を持つ方に種の追加をお願いすることができます(多分、英文で書いた方がいい)。
あるいは、属sp. で投稿して備考欄に種名を書いておくと、気づいた方が追加してくれる場合もあります。
まあ写真同定が難しいような微小な虫を、都度登録してもらってまで無理に投稿する必要あるか? とは思いますけどね……
そういう写真で難しい虫の記録を残すために、標本という選択肢が残るわけですから。
おわりに
iNaturalist始めてから、日ごろの採集時に(これ別に標本作る(ころす)必要ないんじゃないの?)と思わされることが増えました。
元々よく分からず曖昧にし続けている「必要最小限の採集(って何?)」という概念が揺さぶられ、迷った時「写真で事足りると思うかどうか」が私の採集の一つの基準になってきています。
また、写真を撮ったところで絶対同定できないような微小な虫こそスルーせずに採集すべきなのだと思うようになりました。
(何でも全部採るぞっていう風にはなれないけど)
採集する個体数についても、「たくさんいた根拠」としてわざわざ多数の標本を残さなくたって、1枚の写真とちゃんとカウントした個体数のデータが残っていれば事足りますよね。
標本作成や維持管理の手間を考えると、本記事で紹介したような記録の手法は標本を作るよりよっぽどお手軽で、かつ扱いやすいデータを蓄積できるものでしたね。見ればわかるような同種の標本をいくつも持つことが、何か馬鹿みたいに思えてしまって……
しかしある種が写真での同定で事足りるのは”現在は”そうであるだけで、将来ずっとそうとも限らないので、「趣味的な標本作りを極力すべきでない」という所には落ちないだろうと思います。
新しい手法に触れる中で自分が今まで当然のようにやってきた昆虫採集・標本作成の必要性や強みについて、より深く考えるきっかけになったと思います。
その辺りに何か思うところのある虫屋さんにも是非やってみてほしいな、と思い紹介してみました。
それと、こういったサービスの利用で自分自身も観察記録をとる習慣がつきます。
ほんとは採集品以外にもその日見た生き物をしっかり記録しておくのが望ましい、とは前々から思っていたもののそこまで手が回っていませんでした。記録取る目的も形式も曖昧でしたし。
しかし「投稿する」という目的ができたことでライトトラップに来た蛾の写真を積極的に撮るようになったり、道端のきれいな花の写真撮って同定を試みたり、「出てきた鳥は全種写真撮ってやるぞ」とカメラを持って歩くようになったり……そういう記録の意欲向上には確実につながりますし、それによってより自然に対する解像度を上げられる気がしています。
私がこの手のアプリ等を使う最大のメリットは実際ここにあると思っています。
あと、結局iNaturalistとBiomeどっちがいいのという話。
(個人の趣味利用として)
本記事ではiNaturalistを推してましたが、こちらはある程度の生物知識があり、自主的に観察や記録を行う……いわゆる生き物屋向けかと思います。「データの提供とか面倒くさいわ」と思う場合であっても、自身の観察記録の閲覧や整理ができるという点で、趣味的な利用価値はかなり高いと思います。
一方でBiomeは、「少し生き物に興味がある」というくらいの人や小中学生等(非生き物屋)が自然に親しみを持ち、野外で自然観察を楽しむきっかけづくりとして、利用してもらう形が理想的なのかなという印象を持っています。データの蓄積とか活用とかは顕著な種や注目される外来種に限定して行われていけばよいだろう(というか、現状そうならざるを得ないだろう)と思うので、一般種の記録の蓄積みたいな利用をするなら別の方法を考えるか、Biomeが進化するのを待つか……ですか?
何を偉そうなこと言ってんですかね……
以下に今回紹介できなかったものも含めて諸々のリンクをまとめました。
興味がある方は自分に合うサービスがどれなのか、いろいろなwebサイトやアプリを覗いて考えてみてはいかがでしょうか?
iNaturalist

iNaturalist(webサイト)
iNaturalistはナチュラリストのためのソーシャルネットワークです!
植物や動物の観察を記録し、友人と研究者に共有し、自然についてもっと知りましょう!
Biome

いきものコレクションアプリBiome(バイオーム)で、いきもの探しの冒険に出よう! – 株式会社バイオーム
無料スマホアプリBiome・いきものコレクションアプリ「Biome(バイオーム)」 現実世界(リアル)はゲームよりも面白い!出会った”いきもの”を集めて世界を冒険しよう! Biomeは最新の生物名前判定AIを搭載。いきもの図鑑、いきものマップ、いきものコレクションなど、いきものを楽しむコンテンツが盛りだくさん。
いきものログ

いきものログ:環境省
いきものログは、全国的な生物情報を収集・提供するインターネット上のシステムです。このシステムに集められたデータは、いきものログのデータベースに蓄積され、だれでも利用することが出来ます。
eBird Japan

eBird Japan
eBird Japanは公益財団法人 日本野鳥の会が運営しています。


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