セボシジョウカイとよく似た別種オカベセボシジョウカイの比較

それ、セボシジョウカイですか?

こんな虫を見たことはありますか?
セボシジョウカイ類
春から初夏に草地や林縁部でよく見かける、オレンジ色のこの虫は……セボシジョウカイ Lycocerus vitellinus (Kiesenwetter, 1874) かもしれません。
セボシジョウカイはジョウカイボン科に属する甲虫の仲間で、北海道から九州までの各地に広く分布しています。
多くの個体で背中に黒い点があることが特徴で、これが名前の由来(背星)です。
人家の庭にもあらわれる虫ですが、セボシジョウカイは小さな昆虫などを主な食べ物にしていて、作物や園芸植物にとっての害虫になることはありません。
さて、そんなセボシジョウカイには……極めてよく似た別の種がいます。
その名を「オカベセボシジョウカイ」といいます。
セボシジョウカイを解説しているウェブサイトでもオカベセボシジョウカイの存在には全く触れられておらず、ネット上では「どう違うのか」という情報が得られませんでした。
保育社の原色日本甲虫図鑑 III(黒澤・久松・佐々治,1985)にはセボシジョウカイしか載っていません。
この時はまだ、オカベセボシジョウカイの存在が発覚していなかったためです。
また、最新の昆虫図鑑である昆虫(学研の図鑑LIVE)には逆にオカベセボシジョウカイのみが掲載されていて、こちらでもセボシジョウカイについての言及はありませんでした。
ということで私は、2種の違いについてくわしく記されている文献を入手しました。
そして実際に今年の春、近所でこの仲間の採集と同定を繰り返し行いました。
その結果、2種の違いをおおむね理解することができたように思います。
本記事では、私の採集個体を用いて、セボシジョウカイとオカベセボシジョウカイの違いを解説していきます。


セボシジョウカイとオカベセボシジョウカイ
セボシジョウカイ(左)とオカベセボシジョウカイ(右)
結論から言うと、両種を背面からの写真のみで同定することは不可能です。
2種の分布域が重複する関東地方~静岡県あたりで撮影・採集された個体は、混同されている可能性が高いです。
正確に見分けるには、採集して交尾器や腹部の形質を確認する必要があります。

オカベセボシジョウカイは関東南部から伊豆に分布

比較に入る前に、オカベセボシジョウカイについて簡単に説明します。
もともと1種として扱われていたセボシジョウカイの中から見いだされ、よく似た別種として記載されたのがオカベセボシジョウカイ Lycocerus okabei (Takahashi, 1992)です。
セボシジョウカイとは分布の仕方がまず大きく異なります。
セボシジョウカイとオカベセボシジョウカイの分布域
奥島(1996)を元に作成。今は少し変わってるかもしれません。
オカベセボシジョウカイは伊豆諸島を中心に関東地方南部(千葉県、埼玉県、東京都、神奈川県)と静岡県(伊豆半島周辺)に分布する、日本固有種です。
セボシジョウカイが分布していない伊豆諸島ではオカベセボシジョウカイのみが見つかりますが、本土部の関東周辺では混生しているようで、全く同じ場所でみられることも珍しくありません。
逆に東北地方や西日本においては、今のところセボシジョウカイのみが分布していると考えて良さそうです。
ちなみに伊豆大島のオカベセボシジョウカイは伊豆大島亜種(subsp. oshimanus Okushima, 2005)で、それ以外は基亜種(subsp. okabei (Takahashi, 1992))になるようです。
セボシジョウカイが平地から山地まで広くみられるのに対して、オカベセボシジョウカイは平地に生息し、林縁に接した草地などでみつかるとされます。

セボシジョウカイとオカベセボシジョウカイの比較

2種を正確に見分けるためには、採集して交尾器や腹部の形状を比較する必要があります。
これが困難であれば、同定は諦めて「セボシジョウカイの仲間」とするのが無難でしょう。
(関東地方民は特に)
なお、雌雄の違いは腹端を見れば分かります。
ジョウカイボンの雌雄判別
左がオス、右がメスです
メスの方が腹部に厚みがあり、大きく発達した第8腹板(赤矢印)が目立ちます。
オスの腹部は先細り気味で、第8腹板は目立ちません。

オスの場合は交尾器で見分ける

オスの場合は、交尾器を取り出して確認すれば確実に同定できます。
セボシジョウカイとオカベセボシジョウカイのオス交尾器の比較
この、2つの突起(背板)が並んで見える向きが分かりやすいかと思います
セボシジョウカイの場合、背板は先端がとがって互いに近づきます。
一方でオカベセボシジョウカイでは、背板の先端がとがらず平らになる傾向があります。

こういう微妙なものもありましたが、他の部分の形状を見て「セボシジョウカイ」と判断できました。

メスの場合は腹部の第8腹板を見る

メスの場合は腹部の先端付近、大きく発達した第8腹板の形状を見ます。
第8腹板の先端は2種とも「コブ状」ですが、その「コブ」の形が違うのです。
セボシジョウカイとオカベセボシジョウカイのメス腹部第8板の比較
先端のフタコブと両側の山に注目
セボシジョウカイでは先端がゆるやかなフタコブ状に突き出し、同じくらいの山が4つ並んだ形になっています。
一方でオカベセボシジョウカイは先端がするどいフタコブ状に突き出し、両側はゆるやかでより大きい山状に突き出します。
コブの形と大きさのバランスを見れば、問題なく同定できる……はずです。

全ての山がとがって見える個体。
セボシジョウカイにおける個体変異の範囲内だと思います。

まとめ

ということで、特に関東南部や伊豆周辺でセボシジョウカイを撮っているor採っている方は、オカベセボシジョウカイが混じっていないか確認してみることをオススメします。
セボシジョウカイの腹端や交尾器の形状は、オリンパスTGシリーズなどのマクロ撮影ができるカメラか、顕微鏡(私はこれ使ってます)があれば問題なく確認できます。
ジョウカイボン科は同定資料が集めづらく難易度の高い分類群ですが、中村(2023)で同定資料の集め方や採集法、標本の作り方が詳しく書かれています。
キンイロジョウカイ
美しいキンイロジョウカイ
深いジョウカイボン沼に入りたい方は上記の文献を読んでみることをオススメします。
(埼玉昆虫談話会の会誌、寄せ蛾記の189号です)
私はもうちょい、分かりやすそうなやつからやっていこうかな……(笑)

参考

奥島雄一,1996.セボシジョウカイとオカベセボシジョウカイ(コウチュウ目,ジョウカイボン科)の分布と色彩変異.倉敷市立自然史博物館研究報告 = Bulletin of the Kurashiki Museum of Natural History (11):1-13
高橋和弘,1992.神奈川県のジョウカイボン科.神奈川虫報(100):71-124.
中村 涼,2023.〈解説〉ジョウカイボンのすゝめ.寄せ蛾記(189):1-11.

コメント

  1. タコノアシ より:

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    PASS: ec361ed65c571308e3e4aa33785ac176
    はじめまして。
    「セボシジョウカイ」を検索していてお邪魔しました。
    大変参考になり有難うございました。
    貴ブログを今後も拝見したく、リンクさせていただきました。

  2. 執虫 より:

    SECRET: 0
    PASS: c2d6779891af30736e4a55227e1c3fdb
    はじめまして。
    参考にしていただけて良かったです。
    私の方からもリンクつなげさせていただきますね。
    今後ともよろしくお願いいたします。

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