昆虫採集を行っていれば、必ず言われるのが
「標本を集めて、なんの意味がある?」
という類の言葉です。
これに対する従来の私がやりがちな回答は、
「誰かが何らかの研究とかの役に立ててくれるはず」
という非常に漠然としたものでした。
この「何らかの研究とか」の部分を具体的に説明できる知識がほしい、と常々思っています。
もっと本とか読んで、知識をつけなければならない……と感じるのです。
最近こんな本を買ってみました。
『自然史博物館の資料と保存』(高野・三橋, 2024)
この本の前半では、自然史博物館で扱う資料の種類や標本作成・整理の方法が述べられています。
後半では、資料の公開にまつわる手法や資料の利用事例が紹介されています。
自然史博物館に働き始めた方やそこでの仕事を目指している方にオススメできる教科書のような本です。
私は別に学芸員になりたいわけじゃないのですが、標本の作り方とか利用方法に関する新しい情報が得られればという気持ちで買いました。
昆虫以外のパートはほぼ読み飛ばしましたが、なんか感想文的なものを書いてみようと思います。
標本の作製・整理について
昆虫標本の作製に関しては特に新しい情報はなく、基本事項のおさらい的な感じでした。
整理のところで述べられていた文を引用します。
標本とは、自然物に手を加えて保存可能な状態にした資料もしくはその一部であり、基本的な自然史情報とともに、良好な状態で保管されていることが基本である。
タトウや三角紙に包まれたままの未標本の状態の資料や、未整理の標本をきちんと整理していくことは博物館にとっては大きな負担です。
われわれ採集者は中途半端な資料を押し付けることにならないよう、自身でしっかり標本を整理しておく必要があります。
私は資料の整理をするのが好きな方で、自身の標本整理もすっかり追い付いて暇になっているほどです(笑)
標本整理ボランティアとかやりたくなってきました。そういう募集はどこに出ているのかなあ……?
本の中で紹介されていて驚いたのは、標本のラベル画像を読み取って文字起こしを行い、データベースの作成までを自動化する手法が植物標本で行われていることでした。
データベースを作成する上でそういうOCR技術とかAI技術を活用できたらスゴい革命ですよね。
データベース化の作業も博物館に全任せにするのではなく、作りやすいようにわれわれが現場でデータを取っておいて、自力でデータベースを作っておく(データベースと共に標本を博物館に寄贈する)というのが標準化されることが望ましいですね。
過去に本ブログではデータベース化を簡略化するための手法を紹介しています。
これは本当にオススメのやり方ですので、まだ何もしていないという方はぜひ。

スマホアプリを活用した生物標本データの現地記録と、記録データの整理・出力
データをどうやって取り、標本につなぐのか?生物標本にはラベルをつけますが、ラベルには「採集地の情報」や「採集日」などを必ず記さなければいけません。昆虫採集・標本作成を行っている方、「データラベルに記載する情報」ってどのように記録、整理(管理)されていますか…
標本が果たす役割とは
本の後半、展示や活用の部分が私が最も関心のある分野でした。
展示といえば、私も学生時代のサークル標本展示に自分の標本を持って行ったり、会社の研修会で自分の活動紹介として標本箱を出させてもらったりしています。
基本的には「見せる」ために作っていないので、整形が甘かったり箱の中にぎゅうぎゅう詰めだったりするのですが……それでも十分関心をもってもらえているような感触を受けています。
ただ……「すごいね」で終わってしまっていてそれ以上の教育的な活用には至れない感じというか……個人レベルの限界を感じているのも確かです。
自分が習得した標本の作り方や整理の手法は、まあブログで発信はしているのですが、対面で何か伝えたいと思ってても何もできていないんですよね。
会社の研修会で今後も毎年標本は出すと思うので、今年はなんか教育的な工夫をこらせたら……いいなあ。
ここからは標本の利用の話に移りますが、本書では標本の利用例として13個が紹介されていました。
- DNA解析を用いて生物の歴史を調べる
- 生物の分布とフェノロジー:その変化を探る
- 収蔵庫から新種を発見する
- 進化の要因を探る
- 古環境を復元する
- 人獣共通感染症のルーツを探る
- 魚類の寄生虫を調べる
- 過去の水質汚染を明らかにする
- 気候変動に対する植物の反応を調べる
- 生物多様性の減少を地球レベルで明らかにする
- 植物標本デジタル画像からAIで種自動判別システムを構築
- 保全に関するシンクタンク
- レッドデータブックの編纂
昆虫標本が関連しそうなところを太字にしてみました。
生物の標本というのはある時点・ある場所の自然環境の状態を反映するものです。
つまり標本を紐解くことでかつての自然がどのような姿であったかが再現できますし、連続した時間の標本を分析すれば生物や環境の変化をたどることができます。
そうですよね。
それはそうなんですが……過去のことが今さら分かったとして何の役に立つのか、的な指摘を受けるとつらいところでした。
しかしそこで重要になってくるのが12. 保全に関するシンクタンクです。
シンクタンクというのは社会的な課題に対して解決策を提案する研究機関のことで、標本を使えば現在の課題への解決策を提案できます。
本の中で言われていて一番しっくり来たのが、自然再生の目標にするという考え方でした。
たとえば、ある川には大昔にゲンジボタルが生息していて、その時代の標本が残されているとします。
そうなれば当地の自然再生では「ゲンジボタルが住める川づくり」を目標にできますよね。
残されている文献記録や標本、その数が……ある場所の自然の過去の(あるべき理想の)姿を映し出してくれます。
時代はネイチャーポジティブ。最近新しくできた地域生物多様性増進法で、生物多様性の回復や創出を目指す場所が自然共生サイトとして認められるようになりました。
(現時点で生物多様性が豊かでない場所でも登録できるようになった)
つまり、これからは生物多様性の回復や創出に向けた動きがますます活発化していくものと見込まれます。
そこで必ず、地域の文献や標本によって「取り戻したい・作りたい自然像」というのがイメージされるはずです。
標本たちはそこで活躍するわけですね。
今現在、生物多様性が豊かでない場所で標本を収集していく行為≒普通種の採集も、これから回復していく過程を記録していくことにつながる可能性だってあります。
さらに、環境省は自然共生サイトをモニタリングしていく手法として特定の昆虫類を指標とした手法を提案しています。
出典:昆虫20選 一覧(環境省) https://policies.env.go.jp/nature/biodiversity/30by30alliance/documents/lowBio/30by30siteIndicaterInsectsheetlistAll.pdf
見つけやすく同定しやすい、かつ特定の環境を反映する昆虫類が選ばれており、これらに限定した調査であれば素人でも十分行うことができます。
モニタリングの記録はいきものログに報告することになっており、各地の昆虫の記録が収集される仕組みになっています。
これにより、ある場所では指標昆虫の種数が増加傾向にあるだとか、場所同士を比較してこんな違いがあるだとかの分析につなげることもできます。
証拠となる標本が残されていれば、もっと深い解析ができる可能性も……またちょっと漠然とした話になって来たかな。
とにかく、昆虫を記録していくことは自然環境の評価手法として有効でオススメできる、ということを国が言っている訳なので……昆虫採集をして標本を残すことの意義がより強固になったのではないでしょうか。
なったかな?
自分にあうやり方を模索中です
以前休職して時間ができたことがきっかけになって、大嫌いな読書を少しずつやり始めています。
しかし、記憶力がカスなので読んだ本の内容もすっかり抜けている気がします。
アウトプットすれば記憶にも残るかな、という考えのもとで試しに読書感想文的な記事を書いてみました。
後半かなり脱線しましたが本の内容が頭の中で整理されてとても良かったかなと思っています。
文字に起こしながら本を読むのも面白いなと思いました。
こういう記事も今後は書いていこうかと思います。
↓紹介した書籍

自然史博物館の資料と保存
◆自然史博物館員である執筆者たちが、収蔵資料(標本)について、取り扱いから作製法、保存の仕方まで丁寧に解説。
◆令和4年の博物館法改正によって努力義務化され、注目を集めている各種標本のデジタル化や、データベースの活用方法、アウトリーチについてもくわしく説明する。

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