
キアゲハ
チョウ類は、生き物の中でも環境の変化に敏感であることが分かっており、環境を評価する指標生物として適しています。
そのため、チョウを対象に継続的な調査を行い、その変化を調べること(モニタリング調査)で、自然環境がどのように変化しているのかを知ることができます。
チョウ類のモニタリング調査は世界中で行われており、とくにヨーロッパではeBMS(European Butterfly Monitoring Scheme)というプロジェクトが立ちあげられ調査が盛んにおこなわれてきました。
このeBMSの手法にならう形で、日本国内では環境省の「モニタリングサイト1000里地調査」においてチョウ類の調査が行われており、里地については全国的に調べられています。

キタテハ
しかし、里地のように自然がまだ残っている場所だけでなく都市部の公園や身近な緑地などのチョウ類を調べることも、地域の生物多様性を評価する上では重要です。
そこで、日本チョウ類保全協会ではeBMSプロジェクトに参加し、さまざまな地域の、より多くの場所でチョウ類調査が行えるように体制を整えています。
あなたの住んでいる身近な場所にチョウ類の調査地点を作り、誰でもこの調査プロジェクトに参加することができます。
(会員でなくてもできます。私も非会員です。)
本記事ではこのチョウのモニタリング調査とはどのようなもので、どうやって参加するのかということについて紹介していきます。
モニタリング調査の目的
チョウ類のモニタリング調査を行う目的は、大きく下記の3つがあります。
- チョウ類の生息状況の動向を把握する
- 生物多様性の変化を把握する
- 地域ごとに自然を見る輪を広げる
チョウ類そのもののや生息環境の保全へつなげることはもちろん、チョウ類を指標として身近な地域レベル~地球レベルでの生物多様性の変化を測ることもできます。
また、チョウを出発点として地域の自然に関心を持ち調査・保全を行う担い手育成も目的としています。
集まったデータは地域の自然を守るための基礎的なデータとしても活用できます。
調査の方法(トランセクト調査法)と条件
モニタリングを全国各地で行うにあたって、調査方法を統一することが非常に重要です。
このモニタリングでは、「トランセクト調査法」を用いて定量的にチョウ類を調べます。
トランセクト(transect)の意味は横断する、調査地を横断するように固定した調査ルートを設定して調査を行うというものです。
調査ルートの例
調査ルートは30分から60分くらいで歩けるルートが理想です。
このトランセクト調査法を最低月2回の頻度で行うことが必須の条件です。
さらに、調査ルートは環境タイプや地形などが変化する点で区切り、セクションに分割します。
この例では12セクションに分割しています
実際の調査では設定したルートを歩きながら、このセクションごとにチョウ類の種名と個体数を記録していきます。
記録を取る範囲は、調査者の両側5m ずつと上方5m までの範囲内です。
調査範囲のイメージ(モニタリングマニュアルより引用)
記録を取る範囲を一定にすることで定量的な調査が行え、セクション間や地域間での比較解析も可能になります。
チョウの種名が分からなかった場合も、分かった範囲で記録できます(「黒色アゲハ類」とか)。
最終的にeBMSのwebサイトに調査結果を入力しますが、「キタキチョウ・モンキチョウ」とか「イチモンジセセリ類」とかアバウトな種名も入力できるようになっているため、現地同定が出来ていなくてもデータとしては使えます。
調査を行うにあたって、気象コンディションと時刻も可能な範囲で気にする必要があります。
基本的にはチョウがちゃんと活動するような天気のいい日に調査を実施することが望ましく、時刻はチョウが活発に動く午前中(10:00~12:00頃)が適しています。
具体的には、気温は18℃以上で、これ以下の場合は少なくとも13℃以上かつ雲量が50%以下の条件の日にのみ調査を実施します(関東平野ではだいたい3月~11月くらいだと思います)。
気温は温度計を買って現地で測るか、スマホアプリ(Yahoo天気など)で確認します。
現地での記録作業
現地で実際に調査を行う際の記録例などを紹介しておきます。
調査票と記入例(モニタリングマニュアルより引用)
モニタリングマニュアルに調査票の例があります。
記録は後述のスマホアプリでも行えますが、記録作業に慣れるまでは紙で記録した方がいいです。
(たぶん最初のうちは紙で記録するように指示される)
開始時には時刻と気温などを記録し、調査をスタートします。
各セクションの最初に雲量を記録し、出現したチョウの種名と個体数を書いていきます。
調査終了時は時刻と気温を再び記録し、全体的な風力と風向も記録します。
気温と雲量は平均値を出します(平均をeBMSの入力データにする)。
基本的にこの用紙をしっかり埋めていればデータ提出時に必要な項目は拾えるようになっています。
アプリでのやり方もご紹介します。
こちらの「Butterfly Count」というアプリで記録を行えます。
アプリを立ち上げて+ボタンを押すと、入力画面に移ります。
(eBMSのwebサイトでアカウントを作成し、調査ルートの設定を済ませていないと使えません)
天候等の入力画面
セクションの入力画面。「カウント」部分をタップすると数を増やせます。
「種の追加」から種名を入力します。アバウトなものも選択肢に出ます。
調査時に必要な項目を入力したら、終了しアップロードボタンを押すだけでeBMSにデータの提出が完了します。
慣れればこっちの方が圧倒的に楽です。
モニタリング調査の始め方
ここからは実際に調査を始める場合、どういう流れになるかをご紹介します。
最初に決めるのは調査地ですね。
家や職場から近く、頻繁に通うのが苦ではない場所を選んでください。
昼休みや散歩のついでに行えるくらいの距離感であることが理想です。
少し遠い場所を調査地にしたい場合は、複数人で同じ場所を調査することで調査負担を減らすこともできます。
場所をある程度決めたら、調査ルートを考えていきましょう。
調査ルートはチョウ類保全協会の方と打ち合わせを行いながら確定していくので、最初はアバウトでいいです。
スタートとゴール、必ず通りたい場所などを決めておけば後は相談しながら決めていけます。
ただ、ルートが長すぎて負担にならないようには考えておいた方がいいでしょう。長くても3km ほどがよいです。
さまざまな調査環境
また、調査ルートには対象地域のさまざまな環境のタイプがなるべく含まれるようにします。
こうすることで観察できるチョウ類も増えるほか、環境タイプごとのチョウ類の違いや変化を明らかにできます。
ルートをある程度決めたら、実際に現地を歩いてみて安全に実施できるか、セクションの区切りはどこにするかなども確認しておきましょう。
さらに、道幅が広い場合は道の左右どちら側を歩くかまで決めます。
基本的にチョウがより出そうな方を歩くように、ここも保全協会の方と相談しながら決めます。
例:この道では明るく草地のある左側を歩くことにした
なんとなく「ここでやろう」「このルートでやろう」と決めたら、まずは日本チョウ類保全協会の方に「モニタリング参加したいです、この辺でやりたいです」と連絡を入れます。(自分一人で勝手に調査を始めることはできません)
連絡先アドレス→ jbcs@savebutterflies.jp
私の時は2回くらいwebで打ち合わせをしたような気がします。
調査の目的を聞く回と、どこで調査するか話し合う回があったと思います。
ここを歩きます、ここでセクションを区切りますなどの話は、このweb打ち合わせで大体まとまります。
それ以降のやり取りはメールで行い、調査のマニュアルや専用の調査票PDFを送ってもらったり、腕章をもらったりします。
腕章は調査と関係ない虫とりで使ったりしないように注意(協会の名前が入っているので)
調査ルートやセクションが打ち合わせで決まったら、しばらく調査をやったのちにeBMSのwebサイトに調査地の情報を登録します。
ここも保全協会の方から入力作業のマニュアルを送ってもらえ、分からなければ一緒に作業してもらうこともできます。
ルートを書いて、各地点の環境情報も入力する
この登録作業がけっこう難しかった記憶があります……私はマニュアル見ながら一人で頑張りました(笑)
ここまでの作業が全て終われば、アプリを使って簡単に調査ができるようになります!
調査で分かること
調査を行うことで、あなたの身近な場所にどんなチョウがいて、それらがどういう関係で生態系を築き上げているのかが分かります。
例として、私が調査をしてみて分かったことを別記事にまとめています。

埼玉県上尾市で実施したチョウ類のモニタリング調査結果と、近隣地域との比較
日本チョウ類保全協会が主導して行っているチョウ類のモニタリング調査に今年から参加していました。散歩のついでにできる簡単な調査で、出会ったチョウ類の種と個体数を記録していくものです…
チョウについて詳しく知れたことはもちろんですが、調査中に出会った野鳥やヘビ、トンボやハチといった他の昆虫など身近な場所にいろいろ貴重な生き物がいることが分かりました。
初めて見る虫や、県下の記録が少なく報告を作ることになった案件もあります。
散歩のついでで始めた調査ですが、今は調査をやるのが週末の大きな楽しみになりました!
モニタリング調査に参加しましょう
ということで本記事ではチョウ類のモニタリング調査についてご紹介しました。

ミズイロオナガシジミ
モニタリングは身近な自然の面白さやスゴさを再発見するチャンスを与えてくれる、とても意味のあるプロジェクトです。
興味を持った方がいればまずは日本チョウ類保全協会やeBMSのHPから情報をチェックしてみてください。
日本各地でモニタリング調査の研修会が開催されているので、一度それに参加してみるとやり方がよく分かると思います。
日本チョウ類保全協会:https://savebutterflies.jp/
eBMS:https://ebms.savebutterflies.jp/
あるいはメールアドレスに「モニタリング調査に参加したい」とメールを送ればきっと手厚くサポートしてくれます。
連絡先アドレス→ jbcs@savebutterflies.jp
本記事で紹介した内容は以下のマニュアルにより詳しく書かれています。
チョウ類のトランセクト調査 ~チョウのモニタリングマニュアル~
モニタリング調査に参加して、チョウや身近な自然をもっと好きになりましょう!


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