拾った虫の死骸から標本を作る

「材料は拾った。」


秋も終わりの11月頃。林縁で静かに生き絶えていた虫は、何気に初めて見るヒロオビモンシデムシ / Nicrophorus investigator Zetterstedt, 1824でした。
綺麗な死骸だったので、今回はこちらを標本にしていこうと思います。

軟化と汚れ落とし

野外で拾った甲虫の死骸というものは大抵パリパリに乾燥していて、脚の形を整えるのも難しいというか無理な場合がほとんどです。
そこでまず、お湯(蒸気)による軟化を行います。

やり方はいろいろありますが、今回はチャック袋にポッドで沸かしたお湯を虫が浸るまで注いで、しばらく待つ作戦。
対象はシデムシ(死出虫)、名前の通り動物の死骸などを主食にしている昆虫ですので、熱湯に浸すことで殺菌や汚れを落とす目的も兼ねています。
身体が細かい毛や粉で覆われている虫は、熱湯に完全に浸けてしまうとそれらが落ちたりして見た目が悪くなってしまうこともあるので、蒸気による軟化を行う方がよいです。
軟化開始から数十分〜数時間経ったところで取り出し、脚や触角が無理なく動かせそうであれば次のステップに移ります。

慎重に身体をほぐします。
胸部を針などで軽く押さえながらピンセットで脚をつまみます。
この時、脚の先の方(跗節)は折れやすいのでつままないように注意。
縮んだ脚を伸ばすために引っ張りたくなるところですが……ここは引くよりも押す方が上手くいく。
脚を折り曲げるように押したら、少し引いて……押しては引いてを何度か繰り返すうちに関節を動かせるようになります。
上手くいかなかったら追加でさらに何時間か軟化して、改善が見込めればよいですが、数日レベルで放置すると最悪カビが生えるので程々に。


触角や脚などをある程度ほぐせたら、身体の汚れを落とします。
濡らしたティッシュなどで拭き取りつつ、目立つ汚れはピンセットなどで削ぎ落とします。
汚れが酷ければ、水の代わりに中性洗剤やアルカリ電解水などを利用するのも効果的です。
なお、体表が凸凹していて汚れが酷い虫(マイマイカブリや糞虫の類)にはメラミンスポンジを使うか、ボンドパックをやりましょう。
今回のようなモンシデムシ類は翅の下側に汚れが残っていると油が滲んで模様が変色する(黒ずむ)事が多いので、しっかり拭き落としておきました。

形を整える


死後時間が経っていると、脚が縮こまるクセが付いていてこのように全然脚が広がらない場合も多いです。潔く諦めましょう……
……悪あがきをする場合。
軟化して標本を作る場合、乾燥も速いので6時間〜10時間くらい待つと柔らかくした脚が固くなり始めます。
このタイミングでもう一度整形を試みると、少しだけ脚が広げられる場合があります。
ただしかなりもろいので、破壊するか妥協するかの見極めは大事。
一日から数日程度経つとガチガチに固まるので、遅すぎたら軟化してやり直すのも一つの手。

今回は軟化終了から10時間後くらいに再度整形を試みました。できる範囲で曲がった首を真っ直ぐに、大顎は開き、触角も伸ばしましたが、これが精一杯。
結局、脚を根元から折ってしまったのでつけ直しています……

標本としての完成形へ

ヒロオビモンシデムシ
さらに念入りに数週間以上の乾燥期間を経たら、ラベルをつけて完全な標本となります。
不格好ではあるけど、しっかりと標本として扱えるものになります。
※写真のラベルに記載されている地名は説明のために仮につけたもので、本種の採集地とは何の関係もありません。(手元に落ちてたラベル適当につけた)
ラベルの作り方などは別でまとめた記事があります↓

昆虫標本ラベルの作成と表記の方法について

昆虫標本を作る上では欠かせないのがラベルです。ラベルは標本に学術資料としての価値を与えるものであり、これがないものを標本とは呼びません…

※死骸を標本にするのは自ら命を奪わない分、精神的な負担は少なく手軽な方法であるとは思いますが、手順はより複雑で、必ずしも綺麗な標本になるとは限りません。


とりあえず甲虫を拾ったので甲虫について書いてみましたが、違う分類群の虫でも死骸を拾ったら挑戦して、その都度この記事もアップデートしていこうかなと思っています。

コメント

タイトルとURLをコピーしました