昆虫標本に欠かせないラベルの書き方と作り方まとめ【2024年版】

標本作成

ラベルがなければ標本ではない

昆虫に限らず生物の標本を作る上では欠かせないのがラベルです。

クリストフコトラカミキリの標本
クリストフコトラカミキリの標本

ラベルは標本に学術資料としての価値を与えるものです。ラベルがないものを標本とは呼びません。
私もそうですが、趣味として昆虫採集を行い、主にコレクションとして収集する目的で昆虫標本を作るという方も多くいます。

しかし、研究で使うかどうかなどの目的に関わらず正確で保存性の高いラベルをつけることが望ましいとされています。
なぜなら昆虫標本は作成者の死後であっても、別の人や研究機関に受けつがれ適切に保存されれば、数百年に渡って利用できるものだからです。

標本を作った本人にその気がなくても、何十年後か何百年後の第三者には重要な資料となりえます。
ただし、ラベルの書き方が不十分であった場合、利用の可能性は狭まってしまいます。
ラベルの書き方は人により様々で、決まった規格のようなものはありません。

とはいえ、いくつかの重要な要素と、「こうしたほうがいい」といわれる要素があります。
私はこれまで10年以上にわたって趣味として昆虫採集をしてきました。
その中で、見せてもらった個人の標本ラベルや文献、SNS上でのやりとりなどから多くを学びました。

本記事では、そうして私が学んできた昆虫標本ラベルの書き方と、その作り方について解説していきます。
昆虫の標本作りに興味がある方や、趣味として昆虫採集を行っている方に読んでほしい記事です。

初めて標本を作るという方が読んでも大丈夫なように、記事前半で「基本的なやり方」を紹介し、後半では「より良いラベルにしていくための工夫」について解説していきます。
詳しい説明は不要で、最新の標本ラベルテンプレートがほしい人はこちらからどうぞ(ダウンロード無料)↓

昆虫標本ラベルの無料テンプレート【2024年版】(Word)
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長い記事なので、初めての方は前半だけ(4章まで)読んでもらえればいいかなと思います。

  1. ラベルがなければ標本ではない
  2. 標本に必須な「データラベル」の3要素
    1. 採集した場所→正しい住所を調べて
    2. 採集した年月日→西暦4ケタで書くこと!
    3. 採集者の名前→問い合わせ先として
    4. ※「虫の名前」は別のラベルに書く
  3. 昆虫標本ラベルの作り方
    1. ラベル用紙は「厚手の紙」がいい
    2. ラベルの文字は「鉛筆」か「顔料インク」で
    3. 手書きによるラベルの作成
    4. パソコンによるラベルの作成
  4. ラベルを標本と一緒の針に刺し完成
  5. 標本ラベルをより本格的にする表記
    1. ローマ字や英語が主体のラベルにする
    2. 英語表記でも地名は大地名から順に書く
    3. 日本語地名も市町村以下を記す
    4. 国土地理院の英語表記の規定にならう
    5. 緯度経度と標高を追加する
    6. トラップで採集した場合に使える略称
  6. ツッコまれないために覚えておきたい表記上のルール
    1. ローマ字表記では長音記号をちゃんと使う
    2. 国名はすべて大文字で1行目は目立たせる
    3. 月はアルファベットの組み合わせか英語
    4. 範囲には「–(enダッシュ)」を使う
  7. 読みやすく、扱いやすいラベルにするために
    1. 書式は「フォント」だけでも気にしよう
    2. 印刷設定は「きれい」、限界まで「濃く」する
    3. ラベルの耐久力テストもしておこう
  8. 情報が入りきらないときは「折る」か「2枚に分ける」
  9. データベースを作ってさらに情報を充実させる
  10. 「自動入力」で正確さを高める
    1. 同定ラベルとコレクションラベルもつけよう
  11. まとめ:まずはラベルを「つける」こと
    1. 参考文献

標本に必須な「データラベル」の3要素

昆虫標本につけるラベルにはいくつかの種類があります。最も重要なのが「データラベル」で、これは各標本に必ずつけます。
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標本につけるデータラベルの例(手書き、印刷)
同定ラベルやコレクションラベルなど、任意でつけるラベルについての詳細は別記事で解説する予定です。(前に書いた記事を修正中……)。
データラベルに書く内容は次の3つが基本です。

  1. 採集した場所
  2. 採集した年月日
  3. 採集者の名前

これが最低限で、余力があればその他の情報を加えていきます。
第三者が見ても正確な情報が読み取れるように、丁寧に書く必要があります。
書き方の例を示すと以下のようになります。

埼玉県さいたま市見沼区
大谷 七里総合公園
2024年2月9日
苗字名前 採集

なお、

採集地:埼玉県さいたま市見沼区大谷
採集年月日:2024年2月9日
採集者名:苗字名前

みたいに項目名を含めて細かく書かなくても内容は伝わるので、簡潔に書いてコンパクトなラベルにしましょう。
昆虫標本を集めて管理する上で、コンパクトさは非常に重要です。

これ以降は基本の3要素について、それぞれの書き方を解説していきます。

採集した場所→正しい住所を調べて

「採集した場所」は最も重要な情報です。
地名を調べて、正しく書きましょう。
例えば、Google Mapsでは以下のように地点を選択すると住所が出てきます。
(スマホでこの記事読んでる方は横画面の表示にすると出ます)


今回の例では「埼玉県さいたま市見沼区大谷」までを住所として使えばOKです。
番地は不要です。採集した場所が公園や山の場合は、その名前も入れるとなお良いです。

埼玉県さいたま市見沼区大谷 七里総合公園

誰がラベルを見ても正しく分かるように、住所は県名から省略せずに書きましょう。
(ただ、郡名はなくてもよい)
※他の例
 

東京都八王子市高尾町 高尾山
栃木県栃木市藤岡町内野 渡良瀬遊水地
埼玉県秩父郡東秩父村白石 林道萩平笠山線


※ローマ字(英語)

[JAPAN: Tōkyō-to],
Hachiōji-shi, Takao-machi,
Mt. Takao,

(ローマ字表記の詳細な話は記事後半でします)
住所の境界が近い場所では、少しのズレで採集地名が変わることがあるので注意です。
正確な採集位置を思い出せればいいですが、難しい場合は現地で記録しておくのも手です。

スマホで採集位置を現地記録する方法を書いた記事もあります。
これは初心者向けではないかも→(スマホアプリで標本データを現地記録する方法

採集した年月日→西暦4ケタで書くこと!

必ず4ケタの西暦を使って、以下のように採集年月日を書いてください。

2024年2月9日

令和6年だからと「06/02/09」のように書くと、年月日がどう並んでいるのかも分からなければ2006年の日付と誤解される恐れもあります。

※他の表記例

9.II.2024
9 Feb. 2024  など

どんな表記であれ「特定の日付」を表していることが間違いなく伝わる形を意識しましょう。


★飼育羽化に関しての表記
幼虫や材などで採集し、羽化させた成虫を標本にすることもあります。
飼育品の場合は採集した年月日を記し、さらに成虫が羽化した年月日も書きます。

1967年11月6日 幼虫採集
1995年7月3日 羽化

または

06.XI.1967,
em. 03.VII.1995,

(意味は1967年11月6日採集、1995年7月3日羽化)
羽化日と採集日は同じ行に書くとややこしいので行分けした方がいいように思います。
em. はemerged(羽化)の略称です。余裕あれば略さず書いても大丈夫です。

略称を使う時は語句の後ろに「.(ピリオド)」を打ちます。
なお、材からの脱出や割り出しみたいに真の羽化日がはっきり分からない場合でもemerge(現れる)で意味は通るようです。

羽化させた標本については、データラベルとは別に以下のような「羽化ラベル」を付ける方法もあります。

em. 03.VII.2024
ex. Quercus acutissima
  (branch)
クヌギ枯れ枝から羽化

まずはem. の後に羽化した年月日を続けます。
次の行でex. の後に羽化させた植物種(植物体名)を書きます。ex. は「~から」の意味です。

最後に日本語で植物名などについて書きます。
こうすれば、単に「羽化させた」だけでなく「どの植物を利用したか」という生態情報が付加した標本を作ることができます。

※累代飼育の場合
親の産地と、累代飼育であることを示す表現を書きます。
クワガタ飼育などで使われるWD、WF1みたいな表記は統一された規格ではありません。
使用には注意が必要ですが、何も書かないよりはいいかなと思います。

この辺はあまり知識がなくて、気の利いた説明ができません……。
その他にも以下のような略称を用いる表現があります。

e. o. (『ex ovum: 卵から飼育した』)
e. l. (『ex larva?: 幼虫から飼育した』)
e. p. (『ex pupa?: 蛹から飼育した』)

採集者の名前→問い合わせ先として

「採集した場所」「採集した年月日」に比べると重要度は落ちるけれども、基本的に書くのが採集者の名前です。
以下に4つの表記例を挙げます。

  1. 苗字 名前 採集
  2. 苗字 名前 飼育
  3. Namae MYŌJI
  4. N. MYŌJI leg.

「採集」や「飼育」などの文字を添えると、標本が自然のものか飼育個体かが分かります。
3番目のようにローマ字で表記する場合であっても、可能であれば省略せずに名前を全て書く方がよいです。どうしても長すぎてスペースに収まらない場合は「N. MYŌJI」のように名前を省略します。

なお、標本のラベルでよく用いられる「leg.」の表記はラテン語「legit」の略で、日本語の「採集」と同じです。
「leg.」は必ずしも書かなくて大丈夫です。
名前を省略するくらいなら「leg.」を削ってください。

採集者の名前を書く理由については、文献でも意外と説明されていない印象がありました。
個人的な意見ですが、採集者は標本についての問い合わせ先と考えています。
標本についての採集状況など、より深い情報が必要になったとき、採集者に聞くのが一番確実です。

また、採集者名が書いていないと、自分が採集した標本と人からもらった標本が区別できなくなることも考えられます。
標本の取り扱いのことを考えても、ちゃんと名前が書いてあるほうがいいでしょう。

※「虫の名前」は別のラベルに書く

データラベルの基本3要素の説明は前項までで終わりました。
しかし、「ゴマダラカミキリ」「モンキアゲハ」のように標本となった虫の名前は書かなくてよいのか? とここまで読んで思ったかもしれません。

もちろん、採集した虫の名前を調べて判明した場合はラベルに書くべきです。
たとえば、次のように記述しておく必要があります。
例1)

ゴマダラカミキリ
苗字名前 同定 2024年


例2)

モンキアゲハ
Papilio helenus
(Linnaeus, 1758)
Namae MYŌJI det., 2024

例に示したように同定の結果は「種名」「同定者名」「同定年」の3セットで書きます。
ただし、この内容はここまでお話しした「データラベル」とは分けて別のラベルに書きます。
種名を含むラベルは「同定ラベル」と呼ばれ、データラベルとは少し違う性質を持つのです。
具体的には、以下のように区別されます。

データラベル:標本についての客観的な観察事実
同定ラベル :標本についての主観的な推論

データラベルに記載する採集地や採集年月日といった情報は誰にとっても変わらないものです。
一方で、同定ラベルに書かれる虫の名前はあくまでラベルを作った人の「ある時点での推測」であり、同定結果は間違っていたり、将来的に分類が変わって違う名前になったりするのです。

イマサカナガタマムシの標本
貸した標本が返ってきたとき、同定ラベルが追加されていました。
この標本は「同じ種名の同定ラベルが2者によってつけられている」ということで、同定の信頼度がより高いものになります。

標本は、このように研究の過程で新しいラベルが下に追加されていきます。
それぞれのラベルについての時間的な関係性が、その標本の歴史を表すのです。

データラベルに種名を合わせて書いてしまうのは、時間軸の異なる事実と推論を混ぜて書いているようなもので、のちに混乱を招く恐れがあるといいます。
(ちょっと想像が難しいかも……私も正直、あんまり具体的にトラブルのイメージができてなくて)

フタツメゴミムシの標本
フタツメゴミムシの標本
2枚に分けた方が、個々のラベルに書く内容を充実させられるのでいいかなと思います。
「データラベルと同定ラベルは分けて作る」を覚えておきましょう。

ただ、インテリア用の標本とかそういう場合はお好みのフォーマットでOKです。
同定ラベルの書き方については別記事で紹介しています(→昆虫標本における同定ラベルとコレクションラベル【データラベル以外のラベル】
ここまでで、ラベルに何を書くかの話はいったん終わりです。
情報の追加や、より丁寧な書き方は記事後半で解説します。

昆虫標本ラベルの作り方

ここからは、標本ラベルをどうやって作るかについて説明していきます。
まずはラベルの材料である「用紙」「文字(手書き/印刷)」の2つを紹介します。
材料を選ぶ際には「長期間の保存に耐えるかどうか」という視点を持つ必要があります。

ラベル用紙は「厚手の紙」がいい

標本のラベルにはコピー用紙やノートの切れ端のような貧弱な紙を使うのは避けるべきです。
ラベルにしっかりと情報が記されていても、紙が劣化したり、文字がにじんだりするような素材を選んでしまうと台無しになる恐れがあります。

また、薄い紙は針に刺した後もくるくると回りやすく、標本からの脱落や破れなどのリスクもあります。
ほかには、インクジェット専用紙や写真専用紙など表面に特殊な加工がされた用紙は変質しやすいものが多く、使うべきではないといわれます。

これから数百年の保管にも耐えうるように、しっかりした素材選びが大切です。
では何がいいのか、というと……

昆虫標本のラベルに使えるケント紙
入手しやすくオススメできるものの1つがケント紙です。
ホームセンターなどで市販されています。写真右のものはホーマックで買ったような気がします。(これですね→A4ケント紙10枚入 KN-614
左のものはドン・キホーテで買いました。紙が大きいのでA4プリンターで使うにはカットする必要があります。

ちなみに三角台紙を自作するときも、これらのケント紙を活用しています。
Amazonで販売されているケント紙ではこちら↓が良さそうですね。

ケント紙にもいろいろな種類がありますが、注目すべきなのは厚さです。
たいてい「g/㎡」の単位で表示されていて、ラベルに適しているのは160~200g/㎡とされます。
分厚すぎるとプリンターに詰まることがあるため、印刷する場合は極端に厚いものは避けましょう。

なお市販されているケント紙は209g/㎡くらいのものが多いですが、この程度であれば問題なく印刷できることを確認しています。

昆虫標本のラベルに使える用紙であるハイパーレーザーコピー
印刷であれば「ハイパーレーザーコピー」が推奨されている。

ケント紙は印刷してラベルを作る場合でも使えますが、「ハイパーレーザーコピー」は印刷時のにじみが少なく専門家からも推奨されている用紙です。私はこちらを使っています。
ハイパーレーザーコピーはAmazon等で購入できますが、種類がかなり多く買い間違いやすいので詳細をよく見て買いましょう。

200g/㎡のもので、「ナチュラルホワイト」の色は目に優しく好まれます。
私がデータラベルで使う2種類のリンクを以下に載せておきます。

ラベルの文字は「鉛筆」か「顔料インク」で

ラベルの文字は手書きするか印刷するかだと思いますが、こちらもやはり長期間の保存に耐えるものである必要があります。
手書きで作成する場合、ボールペンで書くのは耐久性に不安があります。

水性ボールペンは言うまでもなく、油性ボールペンでもまだ不安です。
こすったら消えるフリクションのボールペンとかは絶対にダメといえるレベルです(熱でインクが消えます)。

ラベルの文字を手書きするときは鉛筆か、シャーペンで書くのが無難です。

油性ボールペンの文字は薬品でにじんでしまう
消毒用エタノールに浸した文字。
ボールペンの文字が著しくにじんでいる。


ボールペンのインクは光や液体によってにじんだり劣化したりする場合があります。
作業時のちょっとした事故などで、ラベルがエタノールなどの薬品にさらされる可能性は十分に考えられます。

このため、文字がきれいに残りやすい鉛筆などで書く方が安心できるのです。
鉛筆やシャーペン以外には、耐久性の高い顔料インクのペン(製図用)を使われる方もいます。
これなら鉛筆よりもはっきり濃く書けそうで、よりいいかもしれません。

また、標本のラベルをプリンターで印刷する場合はインクの種類を必ず確認しましょう。
家庭用のインクジェットプリンターでよく使われる「染料インク」は水だけでもすぐに印字がにじんでしまい、耐久性はボールペン以下です。

もしそれを使っていたら次からは使用をやめましょう。
印刷においてもやはり「顔料インク」を用いるのが耐久性の面で優れています。

染料インクで印刷したラベルを水で濡らした
染料インクで印刷したラベルの右半分を水で濡らしました。
少し水がかかっただけでも染料インクは読みづらくなります。


プリンターによっては顔料インクに対応しない機種もあるため、既に家庭にプリンターがあってもラベル印刷用にもう1台購入する必要が出てくるかもしれません。
しかし、ここは投資してでも顔料インクにしておくことを強く勧めます。

EPSON PX-K150
私はEPSONのPX-K150というプリンター(顔料ブラックインクのみ対応)を使っています。
今は新型↓が出てますね。

価格は8,500円ほどでプリンターとしては安い製品ですが、ラベルの印字や耐久性は問題なし(体感)です。
ついこの間、故障して同機種の中古品を買いましたが……印刷が前よりかすれ気味になった気がします。
ちゃんと新品を買うべきですね……

プリンターにお金をかけたくない場合は、コンビニのプリンターを使うという裏ワザもあります。
セブンイレブンでは、はがきサイズの用紙とPDFデータを持ち込んで印刷することができます。
セブンイレブンのプリンターはレーザープリンターのようで、近所のはFUJIFILMの複合機でした。

近しい製品の仕様とか調べてみたけど、よく分かりませんでした。
https://www.fujifilm.com/fb/product/multifunction/apst_c3551kt
古い機種でなければレーザープリンターを用いた印刷でもラベルの耐久性に問題はないとされています。

セブンイレブンで印刷したラベル
セブンで印刷したもの。線が細い文字の印字は苦手かもしれない。

試しに使ってみたのですが、はがき1枚あたり20円で印刷できました。
ハガキサイズでしかラベルを作らないのであれば、確かにこれで事足りるかも知れませんね。
セブンイレブンにあるマルチコピー機の使い方
https://www.sej.co.jp/services/multicopy/print.html#copy

手書きによるラベルの作成

パソコンによるラベルの作成

これ以降では、パソコンによる標本ラベルの作り方を紹介します。
Microsoftの「Excel(エクセル)」または「Word(ワード)」で作成します。
どちらでも作れますが、私がWindows環境のWordで作成している関係で偏った紹介になります。
(Mac勢、Excel派、お許しください!)

まず、エクセルとワードでラベルを作成する際の主な違いを確認しておきましょう。

昆虫標本ラベルの作成におけるワードとエクセルの違い
ここに書いてあるのは私の認識です。
使いこなせてない機能もあるため、この限りではありません。
「差し込み印刷」を習得したいですね……。


最初から表形式になっているエクセルでは手軽にラベル作成が始められます。
また、標本のデータベース化をすでに行っている場合はデータベースとリンクしてラベルを高速で大量生産できます。

フォントやラベルの形にこだわらなければかなり楽ができるかもしれません。
ワードで作成する場合、最初に表を作る必要があり少し手間がかかります。
※タブで区切る、という技法もある。
長島, 2016. 小型昆虫の三角台紙貼り標本の作製手順
私は未だにこれのやり方ちゃんと分かってないんですが……

Wordは表形式にする準備がいる代わりに、設定の融通が利きやすく、書式を工夫しやすい一面もあります。
なお、最初に作る表を含む標本ラベル用のテンプレートを自作して共有しています。
以下からダウンロードして使ってもらっても構いません(無料)。

昆虫標本ラベルの無料テンプレート(Word)画面

昆虫標本ラベルの無料テンプレート(Word)
https://www.dropbox.com/scl/fi/5q2flnzjsw150fk8ral2p/.docx?rlkey=csnbr7mer2g0t4vq9marevyrt&st=xod47k8i&dl=0

このテンプレートにおける表作成の流れは山岸, 2006. 昆虫採集と標本整理 を参考にしています。
ラベル1個あたりの大きさは主に以下の4要素で決まります。

  • フォントの大きさ
  • フォントの種類
  • 行間
  • セル内の余白

テンプレートの書式が気に入らなければ、調節して使ってください。
個々の設定に関するポイントとかは……記事後半で。
なお、最近は以下のように標本ラベルの作成を補助するツールも登場しています。

らべる作成くんweb
https://kojin-shuzo.com/map.php
住所を調べながらラベルの入力内容を決められるので、少しづつラベルを作る初心者には有用です。
→現在Googleマップが機能しなくなって使えない状態か?

WebSpecimanager
https://www.webspecimanager.net/manual/labeling/
クラウド上にあらかじめ標本のデータを入力することで、データラベルや同定ラベルなどを自動作成し、PDFで出力させることができます。

WebSpecimanagerで出力したラベル
WebSpecimanagerで出力したラベル
試しにWebSpecimanagerを使って1データ分、ラベルを作ってみました。
データ入力は慣れないと苦労するかもしれません(初心者向けではないかも……)。

ラベルを標本と一緒の針に刺し完成

手書きか印刷で作成したラベルを、虫と同じ針に通せば……ついに標本の完成です。
ホソアシナガタマムシの標本
データラベルが一番上。
以降は同定ラベル、コレクションラベルなどを作った順番に刺していくのが通例です。
ラベルは虫と同じ針に刺す必要があります。

ラベルが虫と別々に刺されていると、どのラベルとどの虫が対応するのかは自分にしか判断できなくなってしまいます
独立した同定ラベル
例えばこうしたところで、ラベルと標本の対応範囲は作った本人にしか分からない。

一応区切って並べているつもりでも、
「これ……どこからどこまでが同じ種類なの?」
と聞かれることは多いです。

そんな時、個別につけた同定ラベルを確認しないと第三者には分からないことを痛感させられます。
というところで……第一部、標本ラベルの書き方と作り方についての基本は説明できたかなと思います。

初めて標本を作るという方は、まずはここまで読んでいただければ大丈夫です。
良ければ最後に、記事の「まとめ」も読んでいってください。
↓第二部をスキップして、まとめまで飛ぶリンク
まとめ:まずはラベルを「つける」こと


本記事はここから先の方が長いです。
お覚悟を……第二部に行きましょう(笑)
ここからは、より良いラベルにしていくために意識したいことを紹介します。
余裕があればやってみよう、というものとして読んでください。
一応、改めて目次を置いておきます。

  1. ラベルがなければ標本ではない
  2. 標本に必須な「データラベル」の3要素
    1. 採集した場所→正しい住所を調べて
    2. 採集した年月日→西暦4ケタで書くこと!
    3. 採集者の名前→問い合わせ先として
    4. ※「虫の名前」は別のラベルに書く
  3. 昆虫標本ラベルの作り方
    1. ラベル用紙は「厚手の紙」がいい
    2. ラベルの文字は「鉛筆」か「顔料インク」で
    3. 手書きによるラベルの作成
    4. パソコンによるラベルの作成
  4. ラベルを標本と一緒の針に刺し完成
  5. 標本ラベルをより本格的にする表記
    1. ローマ字や英語が主体のラベルにする
    2. 英語表記でも地名は大地名から順に書く
    3. 日本語地名も市町村以下を記す
    4. 国土地理院の英語表記の規定にならう
    5. 緯度経度と標高を追加する
    6. トラップで採集した場合に使える略称
  6. ツッコまれないために覚えておきたい表記上のルール
    1. ローマ字表記では長音記号をちゃんと使う
    2. 国名はすべて大文字で1行目は目立たせる
    3. 月はアルファベットの組み合わせか英語
    4. 範囲には「–(enダッシュ)」を使う
  7. 読みやすく、扱いやすいラベルにするために
    1. 書式は「フォント」だけでも気にしよう
    2. 印刷設定は「きれい」、限界まで「濃く」する
    3. ラベルの耐久力テストもしておこう
  8. 情報が入りきらないときは「折る」か「2枚に分ける」
  9. データベースを作ってさらに情報を充実させる
  10. 「自動入力」で正確さを高める
    1. 同定ラベルとコレクションラベルもつけよう
  11. まとめ:まずはラベルを「つける」こと
    1. 参考文献

標本ラベルをより本格的にする表記

自分がもっている昆虫標本を、より多くの場面で活用できるものにしたい、と思うなら表記の充実にチャレンジしましょう。
表記が複雑になれば、現地で記録すべき情報が増えたり、データの整理が複雑になったりと作成者の負担が増えます。

したがって、あくまでも無理のない範囲でやりましょう。
趣味で楽しくやっていたはずの昆虫採集が、負担が大きすぎてしんどい作業になり……標本が作れなくなってしまっては本末転倒です。

それでもがんばろう、という方に向けて参考になりそうな情報をまとめます。
まず、私のデータラベルの現在(2024年)の表記は以下のようになっています。

[JAPAN: Tōkyō-to],
Hachiōji-shi, Takao-machi,
Mt. Takao,
02.VIII.2024, Namae MYŌJI,
35.3552° N 138.7252° E, (BT.),
(alt. 440 m), 八王子市高尾町

主な仕様は下記の通り。

  • 「採集地」「採集年月日」「採集者名」を順番にローマ字表記
  • 山や川など固有名詞と国名は英語表記
  • 1行目は[ ]で強調
  • 補足の情報として「緯度経度」「採集方法」「標高」「日本語の地名」を追加
  • 6行のラベルになるように調整
  • フォントは「メイリオ」(日本語)、「Fira Sans Condensed」(英数字)
  • 文字サイズ3.5pt、行間4pt

以降はこのラベルで使われている表記上の工夫について、個別に解説していきます。

ローマ字や英語が主体のラベルにする

ラベルの言語は日本人でなくても読めるようにローマ字や英語を主体に書くことが理想です。
将来、自分が作った標本を利用する人は日本人だけとは限りません。
日本人の研究で用いられる場合でも、ラベルのデータも英語に変換して新たにつけ足す場合があります。

ラベルに日本語しか書いていないと、地名や人名の正しい読み方が分からず、間違った情報が記載されてしまうことがあります。
また、日本の地名には初見で読めないものが多くあるため、読み方を補助するものとしてローマ字や英語の地名が併記されているとより親切ですよね。

地名の読み方や英語表記の際のつづりは以下のWebサイトで調べることができます。
47都道府県 – 郵便番号一覧、住所・地名の読み方
ちなみに先述したラベル例では、項目の順番を入れ替えることで盛り込む情報を増やすことができます。

[JAPAN: Tōkyō-to],
Hachiōji-shi, Takao-machi,
Mt. Takao, 02.VIII.2024,
Namae MYŌJI, (alt. 440 m),
35.3552° N 138.7252° E, (BT.),
八王子市高尾町 高尾山

※採集年月日と標高の位置を動かしています。

ラベルの幅や行数はそのままで、日本語地名に「高尾山」を足すことができました。
こんなふうに、改行や順番は工夫して多くの情報を盛りこめるようにしています。

都道府県や市町村はローマ字表記ならそのまま(-ken,-shiなど)、英語表記なら略称を使って(-pref., -city,)書きます。
意味の切れ目ごとに「,(コンマ)」を打って区切ります(忘れやすい)。

英語表記でも地名は大地名から順に書く

通常、英語で住所を表記する場合は小地名から順番に書きますが、標本ラベルの表記を小地名→大地名にする必要もメリットもないです。

標本のコレクションを整理する際には、採集された地域ごとに仕分けることもあります。
このとき、ラベルの1行目から小地名が書かれていたり、順番がごちゃごちゃしていたりすると整理の上で余計に手間がかかります。

私は採集地ごとに標本を整理した経験がなくて、これまで表記の順番にこだわっていませんでした。
しかし、仮に「地域別に自分の標本を整理してみろ」と言われたら……大地名から小地名の順番通りに書いてあった方が絶対に楽ですよね。
それと関連して、「淡路島」「西表島」など離島で採集された標本につけるラベルは、

[JAPAN: Awaji Is.],
[JAPAN: Iriomote Is.],

のように島の名前を1行目に書いて、「Hyōgo-ken」や「Okinawa-ken」はその後に書くほうが、整理の上では扱いやすいといわれています。

日本語地名も市町村以下を記す

英語表記が重視される一方で、日本語の地名が書いていないと混乱するパターンも、ごくまれにあります。
私の採集では実際にあったのですが、埼玉県の深谷市には「くしびき」という地名が離れた2カ所にあります。

A: 深谷市櫛引
B: 深谷市櫛挽

このとき、ラベルに「Fukaya-shi, Kushibiki」とだけ書くと、どちらを指すのか分からなくなります。
座標データがあれば一番いいのですが、ない場合は日本語を併記しなければなりません。
実際に書く日本語地名は例えば以下のようになります。
(ラベルの空きスペース次第では削る)

  • 栃木市藤岡町内野
  • 深谷市高島
  • 秩父郡小鹿野町伊豆沢

なお、地名を和英併記するときは、日本語の地名のうち県名は省略しても大丈夫でしょう。
通常は標本整理する上で最も重要な国名と県名をラベルの1番上の行に書くため、これを見ればローマ字であっても県名はすぐにわかるはずです。

私が日本語で書く地名は市町村以下を基本とし、もしスペースに余裕があれば郡名も書くようにしています。
市町村名が書いてあれば郡名がなくても場所は正しく伝わるため、ローマ字表記の部分では常に郡名を省略しています。

また、ラベルに漢字併記をしておくことは、地名の変化に対する備えにもなります。
漢字は変わらなくても地名の読み方が時代によって変わることがあるためです。
(例:栃木県宇都宮市の徳次郎(とくじろう)町は2021年に徳次郎(とくじら)町に読み方が変わりました)

さらに、日本語の地名が長いときは代わりに郵便番号を書く(〒337-1890とか)、という手もあります。
「〒」の記号は日本でしか使われていないため、国外の人間には郵便番号であるとは必ずしも伝わりません。

その他、細かい固有名詞をいれるかどうかは下記のようにラベルの大きさをみながら調節します。

標本ラベルにおける情報量の調整
地名以下の「高尾山」とか「荒川左岸」とかもやはりスペースがあるときだけ書いています。
住所の長さと、座標データの有無によって調整する部分です。
※ローマ字での表記は可能な限り入れ、日本語はラベルの大きさを見ながら削るというスタンスです。

この例で日本語をさらに減らさなければいけない場合は、渡良瀬川左岸→栃木市→藤岡町の順に削って最低でも「内野」は残るようにします。

国土地理院の英語表記の規定にならう

山や川などの英語表記は難しく、なんでも「Mt. Takao」とか「Tone River」みたいにすんなりとはいきません。
「Mt. Yatsugatake」とか「Arakawa River」のように表記される場所もあります。
英語表記には国土地理院で定められたしっかりとしたルールがあります。迷ったらここを確認しましょう。
地名等の英語表記規程

なお、上記のページにIs.(島)やMt.(山)といった略称のルールも載っています。
このほか、標本のラベルでよく使う略称は以下のようなものがあります。

  • 川(Riv.かR.)
  • 峠(P.)
  • 海岸(B.)

表記のルールは複雑で、ここで紹介し始めるとキリがないです……
難しかったら無理せずに丸山,2014で言われているようなAra-kawaやFuji-sanといったローマ字読みをそのまま書く方式にしておきましょう。

緯度経度と標高を追加する

ラベルの採集地情報の主体はあくまで「採集地名」ですが、さらに「緯度経度」を加えることでピンポイントに場所を伝えることができます。
標本ラベルに緯度経度を書く場合は、現地でデータを取ってくることが基本になるでしょう。
スマホアプリで座標を記録していくやり方は別記事で紹介しています。


★座標の表記法
よく使われる位置座標の表記法は大きく以下の2通りがあります。
(同じ場所を示しています)

  • 10進法の「度」表記
    35.9064°N 139.6231°E
  • 60進法の「度分秒」表記
    35°54’23” N 139°37’23” E

標本のラベルにおいては、前者の10進法「度」表記を使う方がオススメです。
ラベルに入力する文字列の幅はこちらのほうが狭く済みますし、他にも応用が利きやすいです。
座標は小数点以下4桁までがよく使われます。現地で記録し忘れてピンポイントに思い出せないときは3桁や2桁にして示す誤差範囲を大きくするのも有効です。

座標の記録時に標高も取得できる
また、採集時に座標が取れていれば一緒に標高も記録できます。
標高は (alt. 440 m) のようにカッコつきで表記します。
カッコをつけないとalt.と440 mが別々の意味を持つと解釈されてしまうのかな?(詳しい事情は分かりません)

なお、標高の数値は測定誤差もあるので10 m以下の数値は四捨五入するなどで調整しています。
純粋に(440 m) だけの表記にすると標高であることが伝わらない場合もあるようなので、alt.などの標高を示す言葉をちゃんと書く必要があります。

alt. はAltitude(標高)の略称です。
a.s.l. → Above the sea(海抜高度)も同様に使えます。
H=100 m のような表記方法を使う方もいます。

なお、数値と単位(m)の間には半角スペースを空けることが正しいルールです。
ただし座標の「°」は例外的にスペースをいれない単位の一つです(ややこしい)。

トラップで採集した場合に使える略称

ラベルに書かれた採集地が持つ意味は、「任意の採集」か「トラップによる誘引」かで大きく異なる場合があります。
例えば、林内を歩き回って樹液で見つけたオオクワガタと、遠方からライトトラップで寄せたオオクワガタをイメージしてみてください。

前者の採集位置はピンポイントに「オオクワガタの発生地」ともいえるデータですが、後者では隣の山で発生した個体かも? と考えることができます。
トラップ採集の表記は、基本的に短い略称を用いて表現されることが多いです。

スペースに余裕があれば積極的に入れたいところです。
私がこれまでに見聞きした略称の例を以下の表にまとめました。
全てが文献に示されているものではないので、伝わらない可能性もあります。
昆虫採集におけるトラップの省略表記法
もちろん省略せずに表記できるならその方が伝わりやすいでしょう。

ツッコまれないために覚えておきたい表記上のルール

英語やローマ字でラベルを書く上で、確認したい表記上のルールを4つ挙げます。
「守れていないと情報が伝わらない」というほどでもないのですが、覚えておくとより丁寧な表記のラベルにできます。

ローマ字表記では長音記号をちゃんと使う

国土地理院の表記(=英語表記)では長音記号が使われませんが、例えば「大阪:Osaka」は「おさか」とも読めます。
ローマ字でラベルを書くときは、地名の正しい発音が伝わる「Ōsaka」とするのが正式なルールです。

JRの看板は「Tōkyō」や「Hyōgo」といった表記になっていますよね。
ちなみにWindows環境で長音記号つきのアルファベット(ūなど)を出すには少し設定が必要です。
キーボードで「Ctrl」+「^」+母音「a,i,u,e,oのどれか」を3つ同時押しするとâ,êのように入力ができますが……デフォルトで出てくる長音記号の種類は少し違います。

û (デフォルト)
ū (出したいやつ)

出したいのはまっすぐな伸ばし棒のやつです。
この問題は、Wordでショートカットキーの割り当てを変更することで解決できます。
※Excelではこれができないっぽいので、都度どこかから拾ってくるしかないのかも。

ショートカットキーの割り当てを設定する-1
Word(ワード)を開いて、上段の「挿入」から「記号と特殊文字」にいきます。
「その他の記号」を選択すると、特殊文字の一覧が表示されます。

ショートカットキーの割り当てを設定する-2
この中から必要な文字(ū,ō,Ō)を探して、左下「ショートカット キー」選択します。
キーボードのユーザー設定が出たら「割り当てるキーを押してください」のところで、登録したいショートカットキーの組み合わせを押します。

「割り当て」を選ぶと登録完了で、以降は設定したキー入力で登録した長音記号付き母音が出せるようになります。

★設定の例

  • 「Ctrl」+「^」+「u」で「ū」
  • 「Ctrl」+「^」+「o」で「ō」
  • 「Ctrl」+「^」+「shift」+「o」で「Ō」

この方式が元々のショートカットと合ってていいかなと思いますが、お好みでオリジナルのショートカットをあててもいいでしょう。
ふつうはū、ō、Ōの3文字以外で長音記号を使わないので、最初はこの3つだけ割り当てておけば十分です。

国名はすべて大文字で1行目は目立たせる

国名はJAPANでもJPNでも、NIPPONでもよいのですが、いずれにしても大文字にするのが一般的です。
また、国名と県名(島名)が記されるラベルの1行目は、太字体にしたり、
[JAPAN:Saitama-kan],
のようにカッコでくくったりして目立たせることが多いです。

これは標本整理を円滑に進める上での工夫ですね。

月はアルファベットの組み合わせか英語

02.XII.2024のように、採集年月日の月はアルファベットの「V(ブイ)、X(エックス)、I(アイ)」を組み合わせて表記します。
あるいは、02 Dec. 2024のように英語表記を行ってください。

単に02.12.2024とされるより、月と日の表示方法が違う方が区別しやすいという利点があります。
「ⅷ」や「Ⅻ」のような環境依存文字は印刷時につぶれやすく読みづらくなるため使わないほうがいいです。

範囲には「–(enダッシュ)」を使う

標本のラベルでは時に、範囲を記述することがあります。
複数日にまたがる採集、ある範囲の標高を指定する際などです。
こういったものは、
12–14.V.2024 や
(alt. 400–500 m)
というように表現されます。

ここで範囲を示すために使われている記号が、–(enダッシュ)です。
文献のページ番号を示すときにも使う記号で、ふつうに半角で入力される-(ハイフン)とは微妙に異なるものです。
ちょっとだけ、棒が長い(笑)

ハイフンがSaitama-kenとかChipi-chipi,chapa-chapaとかひとまとまりの言葉をつなぐのに対して、enダッシュは「~」と同じように主に別々のものをつないで範囲を示します。
-と–を使い分けてもラベルの見た目はほとんど変わらないので、本当に細かい所まで気にする上級者(?)向けの要素です。

しかし、こういう微妙な違いは日頃から気にしておかないと、ちゃんとした文章書くときに間違えてしまうんですよね。
私も提出済みの原稿で住所のところハイフンでいいのに全部enダッシュにしてたことに、いま気がついた……
ちなみに、Windows環境ではenダッシュも一発では出なかったと思います。

先ほどの長音記号のやり方と同じようにショートカットキーを割り当てた記憶があります。
※「Ctrl」+「-(ハイフン)」で出るようにしました。

読みやすく、扱いやすいラベルにするために

ここまで、ラベルの表記にまつわる話を長々としてきました。
ようやく終わりが近づいてきます。
ここではラベルをより見やすく、使いやすいものにするためにやっておきたいことを3つ紹介します。

書式は「フォント」だけでも気にしよう

パソコンでラベル作成する場合にまず気にすることは文字の読みやすさです。
非常に小さい文字でラベルを作ることもできてしまうため、読みづらく情報が正しく伝わらない恐れがあります。

読みやすさを考える上で、もっとも重要なのがフォントの書式設定です。
標本ラベルでは、
1(数字)、
I(大文字の「アイ」)
l(小文字の「エル」)
のように形が似ている文字が正確に見分けられるフォントを採用することが望ましいです。
このブログのフォントはどうですか……?
I と l
見分けられますね。

FC2でブログやってた頃は見分けられないフォントでした。そういうフォントって意外とあるんです。
柿添・丸山, 2021で推奨されている標本ラベル向けのフォントを中心にいくつか比較してみます。

英数字フォントの形状比較
まず英数字のフォントですが、種類によって文字列の幅が変わります。
もちろん文字幅が広い方が読みやすいのですが、省スペースなラベルに情報を多く盛り込みたいとき、幅が狭いフォントが使いやすいです。
私は上から2つめ、「Fira Sans Condensed」を使っています(2024年現在)。

この中で、下から2つ目の「Arial」は先述したアイとエルが見分けられないフォントになっています。
また、上から4つ目の「Times New Roman」は文字の一部が細めで、印刷時にかすれて読みづらくなることがあります。
これについてはフォントを太字体にすることで読みづらさを軽減できます。
続いて日本語のフォントです。

日本語フォントの形状比較
種類を変えても幅はそんなに変わらないですね。
日本語は読みやすいフォントといわれる「メイリオ」や「游ゴシック」がオススメです。
日本語のフォントでも、漢字の詰まり具合やカタカナ「ロ」の大きさ、濁点(「ブ」とか)の読みやすさなどがちょっとだけ違います。

この中で明朝体は少し文字線が細いですが、これもやはり太字にして補強できます。
「読みやすさ」は個人の好みにもよりますし、印刷方法との相性もあるので、何パターンかサンプルを作って見比べて決めるのが良いでしょう。

なお、フォントのサイズは3pt~4ptが推奨されています。
「そんなに小さいと読みやすくないでしょ!」と思うかもしれませんが、フォントサイズを小さくすることにはラベルのサイズを小さくする意味があります。
※正確にはフォントのサイズに合わせて行間も詰める必要があります。

フォントの大きさ別のラベル比較
左から5pt、4pt、3ptのラベル。
2ptの差で2倍くらい大きさが変わります。


標本管理の上では、ラベルはなるべく小さくして収蔵スペースを節約するほうがよいのです。
※ちなみに標本におけるラベルの大きさは幅12~16mm、高さ8~12mmくらいがいいとされる。

標本を詰め込んだ標本箱
まとまって多く入ってるほうが、標本を探しやすいし箱代も節約できる。

小型の虫では特に虫体よりラベルの方が大きくなりがちです。
ラベルをコンパクトにすることは面積あたりに収蔵できる標本数を2倍にも3倍にも増やすことにつながります。

収蔵スペースのひっ迫が問題視される博物館も多い現代……個人のちょっとした工夫で拾いあげられる標本が増えるかも知れません。
また、小さい文字はルーペや顕微鏡などで拡大してみることができるため、老眼によりラベルの文字が将来読めなくなったときでも何とかなります。

とはいえ「じゃあ1ptで作るぜ!」とかやると肉眼で読めるはずの人も読めなくなります。
標本管理や利用に支障がでますので……3pt~4ptくらいで多くの人がふつうに読めるサイズを死守しましょう。
それとあわせて、フォント選びでなるべく読みやすさを追求する、というのがフォント設定の理想です。

印刷設定は「きれい」、限界まで「濃く」する

ラベルを作り終えたあと、印刷の段階でもできる工夫があります。
印刷前に、設定を少し調整します。
※以降の説明はプリンターごとに異なると思います。

「プリンターのプロパティ」から印刷設定を開き、印刷品質を「きれい」にして、モノクロ印刷にします。
標本ラベルの印刷設定
「色補正」をユーザー設定にし、プレビュー画面がべったり濃くなるように調整します。
ラベルの印字は限界まで濃くし、くっきりした文字のラベルにしましょう。

ラベルの耐久力テストもしておこう

情報が入りきらないときは「折る」か「2枚に分ける」

地名がやけに長かったり、ラベルに情報を盛り込み過ぎたりした結果、ラベルが大きくなってしまうことはよくあります。
先述しましたが、大きすぎるラベルは収蔵スペースを圧迫し、整理にも支障が出ます。

ラベル編集時に幅を見ながら上手に改行したり、住所以外の順番を少し入れ替えたりして大きさを調節することはできます。
それでも上手くいかないときは……2枚目のデータラベルを作るという手もあります。
折ることで両面使えるラベル
真ん中で折って使えるラベル
2枚目のデータラベルは完全に分けてもいいですし、折って2面になるようにするのもありですね。
私はやったことないですが、先日いただいた標本にこんなラベルがついていて「いいじゃん!」と思いました。

とは言え私がそれを解禁すると、なんでも情報を盛り込みたくなって2面どころか3面のZ型ラベルとか誕生しそうで、自制します(笑)

情報が多すぎると作成者の自分自身やラベルを読む人の負担が増してしまいます。
個人的には可能な限り1枚に「収める」意識は持ちたいと思っています。
折り曲げてコンパクトにした同定ラベル
過去に自分が作ったラベルが大きすぎる場合にも、ラベルを折り曲げて刺し直すことで改善を図れます。
折り曲げることで印字が歪んだり文字貫通したりするかもしれないので、データのバックアップは前提です。
(面倒くさがらずに、作り直すのが一番だよね……)

データベースを作ってさらに情報を充実させる

「ラベルに書く」以外にも標本に情報を付加できる方法があります。
エクセルなどで標本の情報を整理したデータベースを作ることです。
昆虫標本のデータベース
標本に新たにコレクションラベルをつけ、自作したデータベースと紐づけることができれば、ラベルに書ききれない情報も追加できます。
例えば以下のようなものが書けます。

  • 採集地の具体的な環境や植物種
  • 天候や時刻
  • トラップに使ったエサや形式
  • 省略した名前の正しい表記

データベースに書き残した情報は、あとから検索することも容易です。
他にも確認した行動、食べていたものなどの詳細な観察記録を残すことで、ある時点の生息状況を詳しく示せたり、未知の生態解明につなげたりもできるかもしれません。
さらにがんばれば、採集地の環境写真や生体写真データも標本と紐づけて残すことができるでしょう。

このように、データベースを活用することで、標本の情報量を大きく伸ばし、価値をより高めることができます。
また、過去に作ったラベルの耐久性に問題があったり、記述に不備があったりするときもデータベースをバックアップとして使うことができます。
データベース作りに関する記事はこちら↓。

昆虫標本のデータベースをExcelで作る ~スマホアプリで取得したデータから~

「自動入力」で正確さを高める

標本のラベルにおいて、「正確な情報」を書くことは非常に重要なことです。
しかし、書き間違いや読み間違い、ラベルのつけ間違いはどうしても発生してしまうものです。
本記事では併記の手法をいくつか紹介してきました。

  • 日本語地名と英語地名
  • 座標と住所
  • 和名と学名(別記事で話します)

同じ情報を異なる書き方で併記することでラベルの情報を充実させられますが、これには1つ大きなリスクがあります。
どちらか片方が間違っていた時、第三者が正しい情報を判断できず混乱することです。

同定ラベルの表記ミス
オオキベリアオゴミムシの同定ラベルで発見したミス。
学名がクビアカツヤゴモクムシのものになっている。


「当然日本語が優先でしょ」
「標本見れば意図はくめるでしょ」
と本人が思っていても、第三者はどちらを優先すべきか勝手に決めることができません。
これを回避するためにも、入力ミスは最小限に抑えるべきです。

そういったミスを減らすためには、「自動入力」を活用することがカギになるかもしれません。
住所にせよ、生物の種名にせよ……人間がキーボードで打ち込んでいれば入力ミスは必ず発生します。
既存の住所データや生物リストなどを活用してデータを作成し、手入力や手動コピペする項目を極力減らしていくことがミス削減の第一歩になるのではないでしょうか。

参照元のデータに間違いがなければ、ミスの発生をかなり抑えることができます。
また、作業時に参照したデータを自作した標本のデータベースなどに明記することで、ミスがあった時も第三者による原因の特定が可能になるかも知れません。
和名を使って学名を既存のデータベースから取得する手法はこのブログでも過去に紹介しています。

なお住所(日本語、英語とも)は座標データから自動で取得する方法があります。
(いつか紹介します)
また、以前このブログで紹介したスマホアプリで標本データを取る方法は、「採集地」「日付」を自動記録できるものです。
このデータを上手にラベル作成画面まで引き継ぐことで手入力する採集データをほぼゼロにできます。
(これもデータベース関連の話とあわせて、いつか紹介しますね)

同定ラベルとコレクションラベルもつけよう

本記事では標本にとって、もっとも重要なデータラベルの話を中心にしてきました。
記事中でも少し登場しましたが、標本につけるラベルには他にも「同定ラベル」や「コレクションラベル」といったものがあります。

同定ラベルとコレクションラベル
同定ラベル(左)とコレクションラベル(右)

これらのラベルは必須ではありませんが、データラベルとは異なる役割を持っているものです。
標本につけることで、整理や活用の幅が広がります。

必須ではないけれど「つけるべき」とは言われています。
データラベルが問題なく作れるようになってきたら、他のラベル作りにもぜひチャレンジしてみてください。
作り方をまとめた記事は↓

まとめ:まずはラベルを「つける」こと

標本には必ずデータラベルをつけます。
データラベルには「採集地」「採集年月日」「採集者」の3点を書きます。
初めて標本を作るのであれば、まずはそれだけ意識していれば大丈夫です。

この記事を作成するにあたって、『新版 昆虫採集学』(馬場・平嶋, 2000)を読み返しました。
ここにとても大切なことが書いてあり、ハッとさせられました。
以下に、その文を引用します。

今後、規格化が進む結果、ラベル作りが面倒なために昆虫採集の初心者が標本作りを敬遠する状況は避けたい。旅行先で採った1匹の虫も、行政区分やメッシュコードを調べることなく単に「何々山」だけのデータで標本にでき、立派に通用する、そういう可能性も残しておく必要がある。

引用:『新版 昆虫採集学』
(馬場・平嶋, 2000)

「お手軽さ」こそが昆虫採集の強みです。
楽しみながら簡単に作れる昆虫標本で、学術的に価値あるものを生み出せます。

昆虫の研究がアマチュアの力を大きく借りて発達してきた要因として、標本作りが他の動物に比べてお手軽だったことは大きいでしょう。
今回の記事では昆虫標本のラベル作りの上で意識したい、いろいろな要素についてお伝えしてきました。
面倒という意識を持たれても仕方ないくらい、それはもう、しっかりと……(笑)

    • 正確な情報を書く
    • 耐久性を意識して材料を選ぶ
    • フォント設定で見やすさを追求する
    • ラベルはなるべく小さく作る

etc……

しかし、これらはあくまで「余力があれば」やることです。
すべての標本が最初から研究目的で作られるわけではないはずです。
趣味として、もう少し気楽に標本作りをやってみたい人だっているでしょう。

そんな中で、最初から他人の標本まで「人類共通の財産」にする気満々で高い理想を押し付けてしまうことは……私は本当は好ましく思っていません。
(研究に活かしたいという思いを持って作っているのであれば別ですが)

私はというと、求められるルールなども気にかけながら……自分が大事に思う標本たちを「もっと良いものにする」ことが趣味として一つの楽しみ方になっていました。

その中で「最初から知っていれば」「早くから意識していれば」ということもありました。
この記事は、同じ失敗をして後悔する人が減ればいいなと思って書きました。
決して「みんなもこうしてほしい」と、伝えたいのではないということです。

いちばん大事なのは、データラベルをちゃんとつけることです。
ちょっと格好悪くても、汚い字でも、デカくても……時間が許せばあとからそれを何とかする術はあります。
なのでラベルの書き方について初めから難しく考える必要はありません。

趣味ならば……「自分はこういう標本がスキ」を基準に楽しめるやり方を考えていいのです。
データラベルをW折りにしてもいいし、同定ラベルにお花のフレームをつけたっていいんです!(笑)
昆虫採集も標本作りも、趣味としてやる上で自身が楽しむ気持ちを大切にしてほしいです。

そして、いただいた命に対する誠意を示したいと思えたら、
あるいはがんばって作った標本を役に立てたいと思えたら__
「ラベルの表記や情報を充実させて、より使いやすく、価値のあるものに」することができます。
この記事で紹介したのは、その時に役立つかもしれないアイデアです。

シラホシナガタマムシの標本
まずは自分自身が「イイ!」と思える標本を作って、昆虫採集という趣味を楽しんでください。
この記事や本ブログが、その一助になれば幸いです。
本記事には個人的な経験に基づく(不確かな)記述もあるので、不備がありましたらご指摘いただけると幸いです。

参考文献

本記事は以下に示す文献やウェブサイトを参考に作成しました。
さらに深く調べたい方はこちらも読んでみてください。

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