本記事では冬を中心に出現するガの仲間である冬夜蛾(キリガ)類のうち、いわゆる春キリガ(春に成虫が羽化する種類)を紹介します(低地帯の近所で出会えた種のみ)。
春キリガは関東の低地では2月半ば頃から3月いっぱい頃まで観察できます。
「キリガ(冬夜蛾)」についての基本的な説明は以下の記事をご参照ください。

関東平野部で出会える冬夜蛾(キリガ)類【秋キリガ編:8種】
冬の夜の蛾、と書いてキリガ蛾の仲間にはまさしく「ヤガ科キリガ亜科」という分類群が存在していますが、冬夜蛾(キリガ)はこのグループを指す言葉ではありません。ここで言われる「キリガ」というのは…
梅の花が咲いたら春キリガの季節

ウメの花
春キリガの仲間は、低地では梅の花が咲くころに出現します。
彼らは夜間こういった花によく集まります。

ウメの花を訪れるスモモキリガ
春のキリガ観察では、糖蜜採集するよりもウメやサクラなどの花を見て回る方が効率いいです。
花の近くで糖蜜採集しても、誘引できず花に負けてしまうこともある……
逆にいえば糖蜜を用意する必要がないので、春はキリガの観察が最も簡単な時期といえます。
春キリガは灯りにもよく集まります。
街灯を巡ってみたり、ライトトラップをしたりするのもいいですね。

フサヒゲオビキリガとかは花より樹液とかの方が好きそう
なお、同時期に見られる一部の越冬キリガは花よりも糖蜜を好む印象があります。
出会えるキリガの幅を広げたければ、糖蜜採集をやっても損はないです。
<各種の紹介にあたって>
注1)
種名の横にむし社の『日本の冬夜蛾』(小林・四方・枝, 2016)における珍品度(★)~(★★★★★)を示します。基本的には星が多いほど、出会いづらい種です。
注2)
写真は場所を特に示していなければ、埼玉県央部(平野部)で撮影されたものです。
注3)
「観察できた時期」として、近所における最早確認日と最終確認日を示します。
年に関係なく日付のみを参考までに書いています。
春キリガは観察記録ちゃんと取っていない種が多く、あいまいな表現が多発しています。
すみません……
春キリガ:10種
日本の春キリガは大部分がヤガ科ヨトウガ亜科オルトシア族に含まれます。
本記事で紹介する10種も、すべてがこの族に含まれています。
クロスジキリガ屋久島以北亜種(★) Xylopolia bella bella (Butler, 1881)
観察できた時期:3/30(一回のみ。もっと見てる気がするが……)

街灯に来ていた個体(2022/3/30)
クロスジキリガの幼虫はシラカシやアラカシなどを食べるため、暖地に多い印象の種です。
長野県では一度も出会えなかった本種ですが、シラカシの多い近所の公園では灯りに飛んできた個体を何頭も見ました。
下翅は白っぽく美しいキリガです。
基本的に灯りに来た個体を見つける印象ですが、ツバキの花に来ることもあるようです。
スモモキリガ(★) Anorthoa munda (Denis & Schiffermüller, 1775)
観察できた時期:2/27~4/28

糖蜜に来た個体(2022/2/27)
スモモキリガは春キリガの中では早めに出現する種で、近所でも2月末から確認しています。
和名の通り、幼虫はスモモやウメなどのバラ科のほかブナ科も食べます。
平地でも山地でも個体数は多く、採集方法を問わず出会いやすい春キリガです。

灯りに来ていた個体(2022/3/12)
一見地味な肌色の蛾ですが、きれいな個体はうっすら桃色がかった見た目になります。
春らしさを感じる姿がステキな種です。
ホソバキリガ(★) Anorthoa angustipennis (Matsumura, 1926)
観察できた時期:2/27(もっと見てる……はず)

糖蜜に来た(2022/2/27)
ホソバキリガは早ければ2月中頃からみられる種で、春キリガの中で先陣を切って現れる印象があります。
前種とあわせて国内で2種だけのAnorthoa属のキリガです。
春の早い時期に近所の街灯巡りで見かけるキリガは多くが本種です。

長野県で灯りに来ていた個体(2019/4/21)
幼虫はスモモキリガと同様にバラ科やブナ科を食べます。
スモモキリガが確認できる時期には、本種も既に出始めている可能性が高いです。
クロミミキリガなどとよく似ていて同定はやや難しい__
……やっぱり作りましょうか、比較図。
まず多いホソバキリガとブナキリガの2種は、図で示した亜外縁線を確認して見分けます。
クロミミキリガには近所ではまだ出会っていませんが、いるはず。
クロミミや後述のクロテンキリガは変異がたいへん多くて難易度が高いです。
(私も正直、まだつかめていません……)
カバキリガ(★) Orthosia evanida (Butler, 1879)
観察できた時期:3/12(もっと見てる)

灯りに来ていた(2022/3/12)

長野県で糖蜜に来た(2021/3/16)
カバキリガは大きめのキリガで、黄金色を帯びたハッキリとした模様が特徴的です。
幼虫はコナラやクヌギなどを食べるようで、雑木林の灯りによく来ています。
灯りで見ることが多いですが、糖蜜にもときおり飛来します。
本種から続く7種はOrthosia属(オルトシア)。
春キリガを代表する属で、国内から17種が知られてます。
ブナキリガ(★) Orthosia paromoea (Hampson, 1905)
観察できた時期:2/27~3/12(もっと見てる)

ウメの花に来ていた(2020/2/29)
ブナキリガは小型のキリガで、近所では最も目にする機会の多い春キリガです。
名前の通りで幼虫はブナ科をはじめとする広葉樹につき、エノキなども食べるようです。

ウメの花に来ていた(2020/2/29)
ウメの花でも街灯でも一番多いのは本種です。糖蜜に来ることもあります。
再掲
似たような模様の種が多い中で、本種は亜外縁線(前翅の外縁部近くにある白い線)が滑らかになることが特徴です。
ホソバキリガなどでは線の一部にズレがあります。
クロテンキリガ(★) Orthosia fausta Leech, [1889]
観察できた時期:3/12(1回のみ)

ウメの花に来ていた(2022/3/12)
クロテンキリガは照葉樹林に多くみられる、小型のキリガです。
幼虫はエノキやアラカシを食べるようです。
アラカシが生えるような場所では普通にみられますが、学生時代の長野県では一度も出会いませんでした。
埼玉の近所でも、シラカシを主体とする公園で1頭みたのみで、河川敷や周辺の雑木林などでは出会えていない種です。

典型的な「黒点」が出た個体 県内の山で(2023/3/21)
本種は名前の通り黒い点が出る個体も居ますが、模様がほとんど発達しない個体も多いです。
むしろそれが同定のヒントになるかも……
また、他種と比較して下翅が暗色になりやすい気がします。
下翅の色味は標本にしないと確認が難しい
ヨモギキリガ(★★★) Orthosia ella (Butler, 1878)
観察できた時期:2/29~3/19

ウメの花に来ていた(2022/3/12)
ヨモギキリガは翅を開くとチラ見えする白色の下翅が美しい種です。
幼虫はヨモギやギシギシなど、よくある草本を食べており、河川敷や田畑の周辺で出会うことが多いです。
灯りに飛来することはありますが、ブナキリガやホソバキリガほど飛んでこない印象です。
しかしウメの花にはよく来ています。
本種に出会うためには夜のお花ルッキングがもっとも有効だと思います。

長野県でウメの花に来た個体(2020/3/21)
模様がちゃんと見えなくても下翅の白が見えれば、ヨモギかも? と気づけます。
前翅の模様も独特な雰囲気で、外縁付近は翅脈が明るい色になりがちです。
本種の下翅は「純白」って言われたり言われなかったりする
シロヘリキリガ(★) Orthosia limbata limbata (Butler, 1879)
観察できた時期:3/12(もう1回は見てる)

灯りに来ていた個体(2022/3/12)
シロヘリキリガは同属の他種と異なるダークな翅色が渋くて格好いい種です。
幼虫はサクラ類やコナラなどを食べており、雑木林にみられるキリガです。

県内の山で出会った黒化傾向の強い個体(2022/4/9)
前翅の黒化度合いには変異があり、写真のように濃い色になる個体もいます。
糖蜜にも来ることがありますが、灯りに来た個体を見る方が多いです。
チャイロキリガ(★) Orthosia odiosa (Butler, 1878)
観察できた時期:3/25(1回のみ)

灯りに来ていた(2022/3/25)
チャイロキリガは赤褐色の翅が特徴的な種です。
本種の幼虫もバラ科やブナ科などを幅広く食べる、雑木林のキリガです。

長野県で日中、偶然見つけた個体(2020/3/18)
新鮮な個体は模様がうっすら浮き上がり、赤みも強く美しいガです。
本種によく似たイイジマキリガは山地に出る虫なので、平地であれば同定に悩むことはありません。
灯りでよく見ますが、糖蜜にも来ます。
アカバキリガ(★) Orthosia carnipennis (Butler, 1878)
観察できた時期:3/12(1回のみ?)

灯りに来ていた(2022/3/12)
アカバキリガは前翅のI(アイ)字模様がよく目立つ種です。
胸部や前翅にはほんのり赤みがあり、白っぽい下翅とのコントラストが映えます。
図説『日本の冬夜蛾』の表紙を飾っているのも本種
幼虫はバラ科やブナ科を始めとする幅広い広葉樹を食べる種です。
私は灯りに来た個体しか見たことがありませんが、糖蜜に来ることもあるようです。
春の夜はお花見をしよう
秋キリガ編、越冬キリガ編と本記事の3本立てで書いてきた「近所のキリガ」シリーズもこれで終わりです。
もちろん春は越冬キリガも一緒にみられますし、本記事で紹介したほとんどの春キリガは山地でも同様に観察できます。
山地に行けば山地性のキリガも加わり、出会える種の幅もグッと広がるでしょう。




スギタニキリガ、エゾモクメキリガ
マツキリガ、キンイロキリガ
一部、平地にもいるかもしれないが……
3月~4月頃の山地ではライトトラップが楽しめます。
ライトトラップではシーベルスシャチホコやオカモトトゲエダシャクなど、キリガ以外にも魅力的な春のガと出会えます。
春の山地での採集記↓

4月上旬の奥秩父で越冬中のオサムシと早春の蛾類を一緒に狙ってみました
2022.04.09久々に遠方に採集に出られそうなタイミングが来ました。遠方と言っても県内ですが、今回は早春の山地にみられる蛾類を狙いにいってみました。夜間ライトトラップやるだけでは勿体ないので、朝から行って別の虫探したり鳥見たりもしよう…….
もちろんトラップの用意がなくても、山地では春に咲くキブシやアセビなどの花に集まるキリガを観察できます。
キブシの花
この春は夜のお花見でもいかがですか?
__私が行きたいですけどね!
(最近の調子:まだ冬眠から目覚めない)
いまのところ、リハビリ的な散歩は日光を浴びられる時間に行っているので夜は歩いてません。
近所のウメの花を見るくらいなら体力的に大丈夫そうだし、近いうちに行ってみようかな……

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