実はほとんどが「ニセコガシラ」だって?
こんなゴミムシを見たことはありませんか?
この虫は河川や湿地の周辺でよくみられるアオゴミムシの仲間です。
保育社の『原色日本甲虫図鑑 II』を見ると、コガシラアオゴミムシという種にどうやら近そうだという印象をもちます。
しかし本種によく似た「ニセコガシラアオゴミムシ」という種も知られています。これは原色図鑑が出た後に存在が発覚した種で、2種は日本各地で混生しているようです。
これまで私は「“ニセ”というからには本家より少ないものだろう」という偏見を持ってこの虫を見てきた節がありました。
しかし……
「関東平野にいるものは、ちゃんと同定したらほとんどがニセコガシラアオゴミムシだった」
という話が何年か前にSNSで流れていて、私も自分の標本を見返す必要性を強く感じていました。
2024年、私はようやくこの仲間を再同定し各種の同定ポイントを改めて学びました。
同じ亜属で互いによく似た、以下の4種について本記事で同定ポイントをまとめてみました。
- コガシラアオゴミムシ(コガシラ)
- ニセコガシラアオゴミムシ(ニセコガシラ)
- ムナビロアオゴミムシ(ムナビロ)
- クロヒゲアオゴミムシ(クロヒゲ)
なお、クロヒゲアオゴミムシ以外の3種については交尾器を含む形質の違いがまとめられた論文がネット上に公開されており、これを参考にすれば同定できます(英文です↓)。
Kasahara, S. 1986. A New Callistine carabid (Coleoptera) from central Japan. Ent. pap. pres. Kurosawa: 147-152.
https://coleoptera.sakura.ne.jp/special-publication/Y-Kurosawa-papers1986.pdf
本記事は上記の論文と、『原色日本甲虫図鑑(II)』(上野・黒澤・佐藤, 1985)の記述をもとに作成しています。
渓流沿いに多いクロヒゲアオゴミムシ
ムナビロアオゴミムシの前胸はおにぎり型?
コガシラとニセコガシラを見分ける
♂交尾器の比較【コガシラvsニセコガシラ】
前胸背の比較【コガシラvsニセコガシラ】
上翅側片の比較【コガシラvsニセコガシラ】
日本産Achlaenius亜属の6種
コガシラアオゴミムシ
ニセコガシラアオゴミムシ
ムナビロアオゴミムシ
クロヒゲアオゴミムシ
オオアトボシアオゴミムシ
マルガタアオゴミムシ
彼らの魅力が見えてきた!
クロヒゲアオゴミムシとムナビロアオゴミムシの2種については、特徴を把握していれば野外でも多くは見分けることができます。
慣れないうちは、この2種の可能性を検討するところからスタートです。
渓流沿いに多いクロヒゲアオゴミムシ
クロヒゲアオゴミムシ♂(長野県産)
触角と背面の比較
クロヒゲアオゴミムシは名前の通り、暗い色の触角が特徴です。
触角の2節目以降は暗色です。
背面も基本的に青味が強く、生息環境も他の3種と異なり渓流沿いなどで出会う種です。
ムナビロアオゴミムシの前胸はおにぎり型?
ムナビロアオゴミムシ♀(埼玉県産)
前胸背の比較
続いてムナビロアオゴミムシですが、本種は和名の通りで前胸背が他種より大きく広いです。
前胸背の幅が最大になる位置は後方(上翅側)に近く、下膨れな形になっています。
私の個人的な印象は「おにぎり型の前胸背」です。
そんな風に見えませんか?
コガシラとニセコガシラを見分ける
コガシラかニセコガシラか……ここまで可能性が絞れたら、細かい形質を見ながら同定していきます。
♂の場合、交尾器をみることで同定できます。
このグループの性はオサムシと同じく前脚フ節の形状で見分けられます。
広がっている方が♂です。
♂交尾器の比較【コガシラvsニセコガシラ】
コガシラアオゴミムシの♂、持ってませんでした(悲報)。
手元の♂標本は再同定で全てニセコガシラに落ちました……いずれ探しに行きます。
コガシラの交尾器はKasahara,1986を参照してください(図は150ページです)。
とりあえず、ニセコガシラアオゴミムシの交尾器写真だけ載せます。
コガシラ♂が採集出来たら追記します。
コガシラとニセコガシラの交尾器における大きな違いは、基部の曲がり具合です。
コガシラは鈍角になる程度なのに対し、
ニセコガシラでは90°近くまで強く曲がります。
※ムナビロアオゴミムシの交尾器は基部に横じわが出ないことで2種と区別されます。
♂は交尾器でなんとかなりますが、♀も同定したいですよね。
大丈夫です。♂の交尾器以外にも、わずかながら違いがあります。
ここからは、♀でも有効な形質の違いを比較します。
※比較にあたり、ニセコガシラは交尾器によって同定した♂個体をモデルにしましたが、コガシラについては一番自信をもって同定できた♀個体をモデルにしました。
これがもし誤同定だったら……? もう♀の同定は諦めます!
前胸背の比較【コガシラvsニセコガシラ】
まずは前胸背の比較です。
ここでもムナビロのときと同じで「最大幅を取る位置」に着目します。
コガシラは前胸背の幅は前角側で最大ですが、ニセコガシラでは中間~やや後角よりで最大幅をとります。
画像で示していますが、かなり微妙な差です。
個体により前胸背の形がいびつなものがあったり、見る角度次第で最大幅の位置が違って見えたりと……悩まされることが多いです。
コガシラの前胸側縁部は、後角付近で湾曲しますが、これもわずかな湾曲なので迷いやすいです。
よって、前胸背を見るだけでは同定の決め手に欠ける……同定ミスしやすくなります。
(私もたくさん同定ミスをしてしまいました)
そこでさらなる形質__上翅側片を確認しましょう。
上翅側片の比較【コガシラvsニセコガシラ】
上翅側片は、ナトビハムシの同定ではおなじみのこの場所です
黄色く囲った部分が上翅側片です。
上翅の側面となる場所で、腹面から見た方が確認しやすいです。
コガシラとニセコガシラの上翅側片を並べた写真がこちらです。
赤く囲んだ、肩の部分に両種の違いが現れます。
コガシラでは密な毛と点刻が肩までみられますが、ニセコガシラは毛も点刻も少なくなめらかです。
この部分は標本にした後で確認しようとすると中脚が重なって見えづらいことが多いです。今回は写真を撮るために強引に曲げたり外したりしました。
差がはっきり出るのはあくまで「肩部」であって、上翅側片の全体における毛や点刻の密度では判断が難しいと思います。
また、ここで示したコガシラは特に毛が太く密な個体で分かりやすかったのですが、別個体では毛が細めで最後まで悩むこともありました。
各種、やはり若干の個体変異がありポイントを理解してもすぐ分かるようにはなりませんでした。
特に♀については、複数の観点から総合的に判断する必要があると感じています。
これ以降では、私が所持している各種の標本写真を載せて変異の例も紹介しつつ、日本産Achlaenius亜属の各種について簡単に紹介をしていきます。
日本産Achlaenius亜属の6種
コガシラアオゴミムシ Chlaenius (Achlaenius) variicornis Morawitz, 1863
ニセコガシラとの比較に用いた♀(長野県産)
コガシラアオゴミムシは北海道から沖縄島まで全国的に分布し、体長は11.2-13.5mmです。(原色日本甲虫図鑑II)
少なくとも関東地方の平野部ではニセコガシラよりも少ないようで、私の手元にあった14個体の標本も再同定によって11個体はニセコガシラに。コガシラは3個体にまで減りました(ミスりすぎでしょ)。
胸部が小さく、前胸背側縁の湾曲も分かりやすい♀(栃木県産)
こちらの個体は前胸背の印象は理想的なコガシラ型ですが、上翅側片の毛は先に示した個体と違った印象を受けます。
毛が密でない? と当初は思ったのですが毛が細いだけで特にまばらでもないことに気づきました。
肩部の点刻が密であることがはっきり確認できて、自信をもってコガシラと同定できました。
判断にまだ少し不安が残る♀(埼玉県産)
前胸背の最大幅は前角側に思えましたが、側縁の湾曲はほぼない個体です。
上翅側片をみると、先ほどの個体と同様に肩部までしっかり点刻がある印象です。
3個体について、採集環境を振り返ってみます。
2個体は座標ありのデータで、座標なしの1個体は採集記がありました。

草地付近(埼玉県)
河川敷で10月末に採集しています。掘りか材割だと思います。
わずかに水が流れる水路がある、林縁部でした。
水辺(栃木県)
ハンミョウモドキと同所で5月に採っているので、湿地の枯れ草の下から出てきた個体ですね。
ビタビタの湿地です。
河原の崖から(長野県)
記事の冒頭で紹介した子でした。
この子は真のコガシラアオゴミムシで良かったんですね。
いかにも「コガシラ」って雰囲気を感じる個体で、これは採った時の事をはっきり覚えています。2月に砂質の崖を掘って得た個体です。
洪水で流路が変わった河川敷に残る旧流路で、両側が斜面になっている場所です。
近くにワンドがあったかも。
__まあ、水気のある場所ってだけで一貫性はないですね。
まとめたら何か分かるかと思ったけど無理でした。
ニセコガシラに混じって運で採集している、今のところはそんな感じです。
ニセコガシラアオゴミムシ Chlaenius (Achlaenius) kurosawai Kasahara, 1986
コガシラとの比較に用いた♂(長野県産)
ニセコガシラアオゴミムシは本州から九州にかけて分布し、体長は12.8-14.2mmです。(Kasahara, 1986)
1986年にコガシラアオゴミムシから分けられた種で、原色日本甲虫図鑑には載っていません。
最大幅が前角側にあるようにも見えた♀(埼玉県産)
上翅側片の肩部は点刻も毛もまばらですね。
左右で側縁部の曲がり方が違うような気がする♀(埼玉県産)
胸部が曲がった標本は最大幅の位置を読み取りづらいので、展足するときは頭を持ち上げ気味に整えてあげるのがいいかもしれません。
ムナビロっぽいニセコガシラとみている♀(埼玉県産)
ムナビロと同地で採集した個体で、ニセコガシラにしては前胸背の最大幅はずいぶん後角側によっている印象です。
上翅側片も他個体と比較して点刻や毛が少ない気がします。でもムナビロほど滑らか(後述)ではないです。
種間交雑とかあるんですかね、そんなことは考えたくない……
このように個性豊かな(笑)前胸背を持っているため、コガシラとニセコガシラを背面からの写真のみで同定するのは困難に思います。
(それっぽい、くらいが限度)

根返りの土から(埼玉県)

泥っぽい崖から出した(埼玉県)


粘土質の崖から(埼玉県)
採集している環境はほぼ河川敷で、冬季の材割や崖掘りで出やすいですね。
(河川敷にかたよった採集をする者だからこうなっているだけかもしれないが……)
ムナビロアオゴミムシ Chlaenius (Achlaenius) sericimicans Chaudoir, 1876
水田の畔で採集した♀(埼玉県産)
ムナビロアオゴミムシは北海道から西表島までの広域に分布し、体長は13.2-14.5mmです。(原色日本甲虫図鑑II)
私はこれまで2頭しか採集していませんが、他種よりちょっと大きいですよね。
前胸背の最大幅を見れば背面だけでも同定できますが、上翅側片にも特徴があります。
肩部には点刻や毛がなく、他種より明らかになめらかです。
河川敷の草地(休耕している畑地)付近でのベイトトラップで得た♀(埼玉県産)

トラップかけた付近の環境。水気はそんなにない(埼玉県)
出会った場所は河川敷や水田です。良好な田んぼの周辺に出るのかなという印象があります。
千葉県ではふつうにいるみたいですが、一般的には前2種よりは出会いにくいのではないかと思います(千葉県はいい意味でおかしいので、あの地の基準は参考にできないです……)。
クロヒゲアオゴミムシ Chlaenius (Achlaenius) ocreatus Bates, 1873
ナガゴミムシ掘りに行くときに拾った♂(長野県産)
クロヒゲアオゴミムシは北海道から九州まで分布し、体長は11‐12mmです。(原色日本甲虫図鑑II)
この仲間では小さめの種です。
特徴的な青味のある緑色と、2節目以降で暗色になる触角を覚えておけば背面からでも分かりますね。
別の沢で採集した♀(長野県)
参考までにここまでの3種と同じように撮った写真を並べています。
前胸背の形はコガシラに近いですが、側縁部の湾曲がかなり強いですね。
上翅側片は毛が少ないですが肩部に密な点刻があり、他の3種とはまた違った形質がみられるような印象を受けました。

さっきの♂はまさしくこの場所で採集している(長野県)
生息環境は先述の3種とは全く異なっていて、山地の渓流沿いにみられます。
例えば林道沿いで、沢を横切るような場所。石がゴロゴロと転がっている場所の付近で、水の染み出る砂利道を歩く個体に日中でも出会うことがあります。
同じ環境に夜間いけば、もっとたくさん見られるのかもしれません。
本記事で取り上げた4種についてはここまでで紹介し終えました。
日本国内から知られるAchlaenius亜属のゴミムシは、実はもう2種います。
簡単に紹介しておきます。
オオアトボシアオゴミムシ Chlaenius (Achlaenius) micans (Fabricius, 1792)

湿地の水たまり、岸辺の崖から(埼玉県)
この記事を作成するなかで、オオアトボシアオゴミムシがコガシラたちと同じ亜属に入っていることを初めて知りました。
上翅が密に毛で覆われている感じが、言われれば似てるかなとは思います。
本種は各地の草地などでふつうにみられる少し大型のアオゴミムシです。
分かりやすい模様もあるし、同定で迷うことはなさそうなのでこのくらいの紹介に止めておきます。
マルガタアオゴミムシ Chlaenius (Achlaenius) rotundus Andrewes, 1920
なんですかこれ(存在を初めて知った)
国内では石垣島からのみ知られている種のようです。
カラーの写真など情報は外国産を含めてもほとんどないですが、本種が初めて日本で報告された時のPDFはネット上で読むことができます。
ここに、モノクロの標本写真が載っています。↓
日本産歩行虫ノー ト V : 琉球の石垣島で発見された日本新記録のマルガタアオゴミムシ(新称)
https://coleoptera.sakura.ne.jp/ColeoNews/ColeoNews086.pdf
ムナビロアオゴミムシに近い雰囲気ですが、上翅が丸くてひょうたん型みたいな独特の体形ですね。
採集された1986年から40年近く経過していますが、現在もいるのだろうか……
彼らの魅力が見えてきた!

材から出てきたこれは……
採集してないので分かりません(ニセコガシラ感)
自分で写真撮ってじっくり見ながら情報を整理したことで、私自身も彼らに対する理解を少し深められたような気がします。
彼らは他のアオゴミムシの仲間と比較すると派手な色模様があるわけでもなく、珍重されることもあまりなさそうです。
マイマイカブリの採集などで外道扱いされ、「コガシラ系のなにか」とざっくりした紹介をされてしまうことも多い……そんな虫です。

しかし、黄金色の毛で覆われた背中は赤や緑、青の輝きを秘めていて、じっくり見ると美しさに気づかされる昆虫だなと思いました。
前胸背の形の変異をみるのも面白いし、同所にいる種でも好む環境や生活史に違いはあるのか……考えながら採集するのも楽しそうです。
オリンパスTGシリーズなどのマクロ撮影ができるカメラか、顕微鏡があれば上翅側片を確認することができます。
(本記事の写真はTG-4で撮りました)
もし、手元に不明な個体があったら見返してみてください。
コガシラアオゴミムシとニセコガシラアオゴミムシには、地域的なすみ分けが見られることもあるといいます。
あなたの地元はコガシラとニセコガシラ、どちらが多いですか?
私はこの度、コガシラ♂未採集の人となってしまいましたので、改めて真剣に探しに行きたくなりました。
というか行きます。……元気になったら(まだダメそうです)
体力、はやく戻ってきてくれーー!!

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