昆虫標本には必ずラベルをつけますが、そのラベルにもいくつか種類があることを知っていますか?
昆虫標本のラベルは以下の4種類に大別されます。
- データラベル
採集地、採集年月日、採集者名など
「標本を得た状況に関する基本情報」を示すもの(必須)。 - タイプラベル
新種を記載する際に基準となる標本につけるもの。 - 同定ラベル
和名、学名と記載者名、同定者と同定年など「同定の結果」を示すもの。 - コレクションラベル
標本ごとに固有の番号を与え、所蔵者を示すもの。
この中でデータラベルは全ての標本に必ずつけるラベルで、作り方などは過去に別記事で詳しく書きました。

昆虫標本に欠かせないラベルの書き方と作り方まとめ【2024年版】
ラベルがなければ標本ではない昆虫に限らず生物の標本を作る上では欠かせないのがラベルです。クリストフコトラカミキリの標本ラベルは標本に学術資料としての価値を与えるものです。ラベルがないものを標本とは呼びません…
趣味の範囲ではタイプラベルをつけることはありませんが、残りの2つ「同定ラベル」と「コレクションラベル」についても「なるべくつけるべき」といわれます。

左からデータラベル、同定ラベル、コレクションラベル
本記事では「つけるべき」2種類のラベルについて作り方や書き方をまとめました。
データラベルほど複雑ではないので、本記事を参考に各ラベル作りにもぜひ挑戦してみてください。
同定ラベルには「種名」と「同定者」「同定年」
種名の書き方
同定者名と同定年
同定ラベルの書式と用紙
コレクションラベルの役割
コレクションラベルの書き方
コレクションラベルの作成様式
まとめ:ラベルが積み重なった標本はちょっと格好良く見える
同定ラベルには「種名」と「同定者」「同定年」
まずは同定ラベルの作り方を紹介します。
同定ラベルは標本がなんという生物種であるか、同定した結果を示すものです。
各標本に1枚ずつ通します。
同定ラベルの例
同定ラベルに書く内容は以下の3点です。
- 種名(同定結果)
- 同定者名
- 同定年
これを踏まえて作成する私の同定ラベルの典型例を以下に示します。
Eurythyrea
tenuistriata
Lewis, 1893
Namae MYOJI det., 2024
以下で「種名」と「同定者+同定年」に分けて解説します。
種名の書き方
まずは種名の書き方を確認しましょう。
シンプルな例を以下に示します。
Eurythyrea
tenuistriata
Lewis, 1893
和名については図鑑や目録に記載されているものを使ってカタカナで書きましょう。
和名には「本土亜種」のように亜種名がつくことがあります。
亜種名はスペースに余裕があるなら書いた方がいいですが、学名を併記するのであれば省略してもいいように思います。
続いて学名を書きます。
学名は属名+種小名の簡易的な表記から、命名者表記を入れる完全なものまであります。
同定ラベルにおいては「どこまで記すか」を気にすべきところです。
少しややこしいので別の例を用意します。
これはマイマイカブリ(関東・中部地方亜種)の学名です。
上の枠内で太字にした属名、種小名、亜種小名の部分は同定ラベルに必須です。
残りはスペース次第では最悪削っても大丈夫ですが、極力入れます。
Carabus (Damaster)
blaptoides oxuroides
(Schaum, 1862)
※亜属名は省略する人が多い。私もスペースを見て入れたり入れなかったりです。
マイマイカブリのようにラベルより虫が大きくなることが確定している昆虫では、あえて省略せず表記して大きな同定ラベルを作ってもいいですね。
なお、命名者表記以外の学名は斜体(イタリック)にするルールがあるため、ツールなどを用いて学名のイタリック化を行うか、手作業で斜体にする必要があります。
種名は例に示したように和名と学名の併記が親切でよいと思います。
ただし、2つの名前が食い違うとどっちか分からない厄介ラベルが誕生してしまうため注意です。
私は現在、和名をキーにして学名を既存目録から取得するやり方を用いて同定ラベルを作成しています。
手入力や手動コピペよりは圧倒的にミスが少ないので、このやり方で和名と学名の併記を安全に行えるようにしています。
※種まで同定できなかったとき
種まで同定が行えれば完全な名前をかけますが、そこまで同定出来ない場合もありますよね。
その場合は、
Agrilus sp.
のように上位の分類群単位までの同定結果を示す形でもOKです。
(私は未同定種にはそもそもつけないことが多いが……)
ここまでで種名の書き方についての説明は終わりです。
同定ラベルの残り要素、「同定者名」と「同定年」を次項で説明します。
同定者名と同定年
ふつうは一番下の行に同定者名と同定年を書きます。
同定者名としては同定を行った者=自分の名前を書きましょう。
det. はdetermined(決定した)の略で、同定ラベルでは一般的に使われる略語です。
日本語で書くなら「名字名前 同定 2024年」でOK。
なお、インターネットで知らない人に種名を教えてもらった場合、自分で同定したものとして書いてはいけないか? というとそんなことはないでしょう。
同定というのは、同定ラベルを作って標本につけた人間がその責任を負うと私は考えています。
したがって他人からもらった標本やSNSなどで名前を教えてもらった標本であっても、同定ラベルを作ってつけるのが自分であれば自分の名前を同定者として書きます。
(私はそうしています)
同定者名の後ろに同定年を書きます。
同定年が意味するのは「同定を行った=同定ラベルをつけたタイミング」です。
例えば2015年に特定の昆虫の分類が見直されて複数の種に分かれた、というようなことがあったとします。
その場合、少なくとも2015年以前に同定された古い標本は見直しが必要になりますよね。
そういったケースで、同定年の情報が役立つのです。
自分の標本を同定したタイミングを記録しておくことで、自分自身のみならず、将来自分の標本を第三者が見る場合にも同定の見直しが行いやすくなるかもしれません。
同定ラベルの書式と用紙
同定ラベルはデータラベルと比較すると情報量が少ないため、書式も融通が効きます。
私が作っている同定ラベルのテンプレートは以下から無料でダウンロードできます。
昆虫標本同定ラベルのテンプレート
https://www.dropbox.com/scl/fi/8f28wo6xsbti8o7a899gl/.docx?rlkey=ril2om8gpxd7l6dh10ow18jbq&dl=0
書式設定は以下の通りです。
- 文字サイズは4ptが基本、行間4.5pt
- 5行のラベルになるように調整
- 和名フォント「メイリオ」太字、学名フォント「Times New Roman」の太字
- 同定者と同定年フォントは「Arial」
この設定で作ると、あの書式で作ったデータラベルとラベルの高さは同じくらいです。
ポイントとしては、「学名」と「同定者・同定年」で英字のフォントを変えていることです。
同じにした場合よりも学名が読み取りやすくて良いかなと思ったためです。
同定ラベルの用紙はデータラベルと同じようにケント紙などを用いても良いです。
他のラベルと異なる色(クリーム色や薄い黄緑が推奨)にすると同定された標本であることがすぐ分かる、との事で私は↓のような色付きの用紙を買って、同定ラベル専用紙として使っています。

バイオトップカラー ハガキサイズ/160グラム クリーム
100ミリ(横)×148ミリ(縦)

バイオトップカラー クリーム A4/160グラム 50P
A4サイズ 160g 50枚入り
同定ラベルについては以上です。
コレクションラベルの役割
ここからはコレクションラベルについて紹介します。
コレクションラベルの例
昆虫標本には、ラベルに書ききれない情報がしばしばあります。
例えば採集した時刻や、採集した植物、トラップに使った材料などです。
こういった情報に特に重要性があると感じる場合はフィールドノートをつけることで残すことができますが、後々の利用を考えると標本をデータベース化をして付属情報を残しておくのも有用です。
コレクションラベルは作成したデータベースと実物の標本を結びつける役目を果たします。
データベースがないならつけても無駄かというとそんなことはありません。
コレクションラベルにはもう一つ、標本の所蔵者をはっきりさせる意味もあるためです。
標本のラベルに記される採集者名は標本の所蔵者と一致しない場合もあります。
私の場合、家族や友人(非虫屋)からもらった標本がいくつかありますが、それらについての問い合わせが採集者本人にいっても困らせてしまうだけです。
問い合わせ先は標本を手元に置いて管理していた私自身になっていた方が良いでしょう。
そこで、コレクションラベルに問い合わせ先として所蔵者の名前が示されている方が後々扱いやすいのです。
(別の人間に標本が渡ったあと)
コレクションラベルの書き方
コレクションラベルを構成する要素は、「所蔵者」と「標本番号」です。
3行でまとめて作成すると以下のようなコレクションラベルができます。
Collection
NMC000047
1行目に名前を、2行目に「Collection」の表記、3行目に標本番号を書きます。
番号の先頭には固有のアルファベット(姓名イニシャル+CollectionのC)をつけます。
この「NMC000047」という番号が標本番号であり、標本のデータベースと実物を結ぶキーワードです。
コレクションラベルの作成様式
コレクションラベルでは番号以外は全く同じ形式のラベルとなるため、連番を自動で作成できるような様式を用いて作成するのが便利です。
具体的には、柿添・丸山(2021)のやり方に習うのが楽でよいと思います。
私は「Wordで作る方法」として紹介されているやり方でやっています。
コレクションラベルのテンプレートは柿添・丸山(2021)で示されているURL
→ https://zenodo.org/records/4467629
から入手できます。
私もこれをベースに作る……はずが、なぜか手作りしていました。
一応テンプレをおいておきます↓。ほんの少しだけ書式が違います。
昆虫標本コレクションラベルのテンプレート
https://www.dropbox.com/scl/fi/n8cgw090zi2pupw6el94w/.docx?rlkey=ic9h33qtrl4at17kv8gyw4zu4&dl=0
主な書式設定を以下に示します。
- 文字サイズは4pt、行間4.5pt
- 3行のラベル
- フォント「Segoe UI」
フォントは見やすいといわれる「Segoe UI」を採用し、4ptでみやすいラベルにしました。
ラベル自体が小さいので、もっとフォントサイズ大きくしても全然イイと思います。
Namae MYŌJIを自身の名前に全置換し、任意の開始番号を指定して使います。
Windows環境では「Alt」+「F9」キーで入力モードと表示モードを切り替えることができます。
- 入力モードで左上セル、r以降の数値を変更
- 全体を選択して「F9」を押すと以降のセルに連番が入力される
- 印刷前のプレビュー画面で反映を確認
例えば「000443」から連番で作成したい場合、まず左上セルのr以降の数値を「000443」にします。
その後「Ctrl+A」で全選択→「F9」で連番を反映させます。
印刷プレビューを見ればうまくいっているかが分かる。
私のパソコンではかなり動作が重く、はがきサイズで1枚ずつ作るのが限界です。
エクセルで作るともっと軽く動くものができますが、事前の準備が面倒でWordで作りました。
なお、用紙はデータラベルに使うものと同じもの(↓とか)でOKです。

伊東屋 ハイパーレーザーコピー ハガキ 200g ナチュラルホワイト 50枚 HP024 2個セット
サイズ: 約W100xD148xH11 mm
まとめ:ラベルが積み重なった標本はちょっと格好良く見える
本記事では同定ラベルとコレクションラベルの作り方を紹介しました。
同定結果を示す「同定ラベル」では標本になった生物の種名を示すことができます。
所蔵者と標本番号を示す「コレクションラベル」では、データベースと合わせると詳細情報を補完できます。
実際にこれらを標本につけると……
※適当につけたラベルです
こんな感じで、最大3枚のラベルが並ぶ標本ができます。
ラベル1枚の時よりちょっと格好がつく気がしませんか?(笑)
ていねいな展翅や展足でもたらされる美しさとはまた違う、ガチっぽさがなんか好きで、私はこのスタイルが気に入っています。
同定ラベルやコレクションラベルは「つけるべき」どころか「当然つけるものです」とか言われることもあるほどのラベルです。
これらをつけることで標本の「質」を手軽に上げることができます。
見た目の格好良さを追求するついでに、将来的な標本の利用価値を上げることにもつながるはずです。
まだつけてない方、ぜひ「同定ラベル」「コレクションラベル」をつけましょう!
参考文献
- 馬場金太郎・平嶋義, 2000. 新版 昆虫採集学.
- 野村周平, 2014. 同定ラベルをつけよう. 月刊むし(515): 6–9
- 柿添翔太郎・丸山宗利, 2021. 昆虫標本におけるラベルの作り方.
http://www.museum.kyushu-u.ac.jp/publications/bulletin/018/018-6.pdf

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