秋も深まってきたのでバッタやキリギリス、カマキリなどの標本づくりにトライする方も多いのではないでしょうか。
チョウセンカマキリの標本
クルマバッタの標本
バッタやカマキリの標本を作るときは、内臓は取り除かずそのまま作っても標本としては問題ありません。
(写真の標本は内臓抜いてません)
ただし、こういった直翅類の標本は(緑色の種は特に)変色が起こりやすく、きれいに作るためには何らかの対策を講じることが推奨されます。
ちょっとグロテスクな作業を伴うので、内臓抜いて色残しまでやるのはハードルが高いです。
内臓の抜き方や脚の整え方はいくつかのサイトで紹介されていますので、本記事は色残しに重点を置いて標本の作り方をご紹介します。
バッタ・カマキリの採集から保管
まずは野外で標本を作りたいバッタやカマキリを採って来ましょう。
今回はキリギリスの仲間であるヤブキリをメインの教材にして進めます
まずここで、内臓を抜くかどうかを決めます。
内臓を抜く場合、採ってきたバッタやカマキリは早いうちに(酢酸エチルなどで)〆て処理をします。
(参考:標本作成における昆虫の〆方(殺し方))
内臓を抜かない場合、三角紙に包んで糞を全て出させ餓死させます。
このときチャック袋などにいれてしまうと、出した糞で翅先が汚れがちです。
翅先が汚れてしまった例
糞出しする場合は、乾きやすい三角紙などを使うことがオススメです。
(推奨)DNAサンプルを取る
〆たらここで大事な工程があります。
DNAサンプルを採りましょう。
脚を1本取り、エタノールで脱水する
特にヤブキリのように分類上の問題を抱えているグループでは、DNAサンプルを別途残しておくことに重要な意味があります。
もし余力があればやってみてください。手順と必要な道具は以下の記事で書いています。
バッタ・カマキリの内臓処理
ではここから、内臓の抜き方をご紹介します。
ピンセットが必要です
バッタやキリギリスの仲間の場合、頭部と胸部の間に膜があるので、そこをピンセットなどで破ります。
空いた穴から内臓を引き抜きます(わりと失敗しやすいので、ほどほどに妥協する)。
たぶんうまくいった例
上手に抜けると、体の長さと同じくらいの量の内臓が引き抜けます。
出した内臓は破棄してOKです。残してもとくに使い道はありません。
内臓を抜くと、腹が少し凹んでしまいます。
そのまま乾燥させるとかなり縮んでしまうので、綿などを少し詰めて形を整えましょう。
詰めるのはカット綿でも、ティッシュ片でもいいです
これはやってみれば分かるかと思いますが、そんなにたくさん詰めなくてもお腹が膨らむ程度で大丈夫です。
というか、たくさん詰めるのは逆に難しい気がします。
綿を詰め終えたら、穴をあけた頭部と胸部の間は閉じておきます。
ふつうにくっつけて乾燥させればOKですが、あまりにも外れるようならボンドなどで固定しましょう。
続いてカマキリの内臓処理です。
切った方が早い
カマキリにはバッタの仲間のように体節の間から内臓を抜けるポイントがなく、お腹を縦に切ってそこから内臓を抜き取るのが基本です。
写真↑の時は脚の付け根から頑張って抜きましたが、綿詰めるのがめちゃくちゃ難しかったのでこれはオススメしません。
切り開く場合でも、綿を詰めたら自然な形に戻せば接着などは特に必要ないと思います。
整形して乾燥 ~色残しのポイント~
ここまでで下準備は完了です。
あとは展足して乾燥させればOK。
適当なスチレンボードなどをカットして展足板を作りましょう。
この形を参考に
左右対称に作る甲虫類と違って、バッタの場合は横向きで標本を作ります。
昆虫針は中脚の上くらい(中胸)に刺しましょう。
そして形の整え方にはいくつかのルールがあります。
- 左脚は折りたたみ、右脚はやや伸ばす
- 左前脚は口器と重ならないように
- 左後脚は上翅や産卵管と平行に
- 右後脚は内側の模様(あれば)が確認できるように
- 触角は長ければ後ろに流す
一見複雑に見える脚の整え方ですが、これは標本を観察しやすくする上で意味があるものです。
脚が硬かったりして思うようにいかないときもあると思いますが、可能であれば上述の条件を守るようにしましょう。
なお、今回は右中脚をDNAサンプルとしているため右中脚がありませんが、ある場合は伸ばして右後脚に沿わせます。
(右中脚は曲げて標本作る人も多いですが、伸ばすのが正式……なはずです)
右中脚の伸ばし方は画像を参照
カマキリの場合は、スチレンボードを階段状につなげて以下のように整形します。
この形が研究向けのスタイル
片方の翅を開いて後翅の色や模様が見えるようにします。
脚は大きく開くのではなく、オサムシのように折って畳んで、邪魔にならないようにします。
翅は展翅テープや適当な紙で挟んで固定しましょう。
形を整えたら乾燥させます。
色残しを気にするのであれば、ここからの行程が重要です。
私が使っているやり方を紹介します。
使うのはコレ!
真空にできるタッパー
食品保管用の真空にできるタッパーです。
ここにシリカゲルを入れて、展足した虫を置き、冷蔵庫で乾燥させます。
重要なのは冷蔵庫で乾燥させること。冷蔵乾燥と常温乾燥では仕上がりはだいぶ変わります。
真空タッパーの効果のほどはちゃんと比較できていませんが、無いよりだいぶマシなように感じています。
虫を入れたらポンプで減圧して真空状態にします。
簡単に真空状態にできる
トンボ類の標本づくりとかにも使えるので、持っておいて損はないです(そんなに高価じゃないし)。
これで最低でも2週間以上は冷蔵乾燥させ、さらに常温でも1週間以上、可能な限り長く乾燥させます。
バチバチに乾いたら完成です!
ヤブキリ♀の標本

ハラビロカマキリの標本
完成品はこのようになりました。
どちらもちゃんと緑色が残ってきれいな標本になったかなと思います。
標本が出来たら以下の記事を参考にラベルをつけましょう。
おまけ:セミの標本の作り方
今回は直翅類の標本作りを紹介しましたが、セミもまったく同じ方法で標本作り&色残しを行うことができます。
ヒグラシの標本(乾燥済み)
セミの標本はカマキリと似ていて、片方の翅を開いて作ります。
脚は普通に左右対称になるように展足します。
この状態の標本を先述の方法で真空冷蔵乾燥させると、上のヒグラシのような標本ができます。
このヒグラシは色残しもかなりうまくいったかなと思っています。
セミも結構変色しやすいので、このやり方は有効ですね。
まとめ:目的によってやり方は変わる
以上、直翅類の標本の作り方でした。
今回は比較的色が残りやすい種を選んでやり方をご紹介しましたが、この方法が全く通じないグループもいます。フキバッタです。
全然色が残らないフキバッタ
フキバッタの仲間は悲しいくらい色が落ちます。この仲間をきれいに標本にするのはそうとう工夫しないとダメみたいです。
本記事では色残しに重点を置いた紹介をしましたが……(学術的な)昆虫標本において色残しは実はそこまで重要ではありません。
直翅目の同定は色や模様にそこまで依存していないからです。
むしろ鳴き声とか……そういう角度の情報が残っていることが望ましいグループもいるくらいです。
記事中で紹介したように一部の種はDNAサンプルを取ることが非常に重要ですし、種によって標本作りで優先すべき内容は異なるのです。
もちろんこれは学術的な標本作りの上での話であって、趣味で作るのであればきれいな色を残すことを優先してもいいかなと思います。
結局、標本はたくさん作って残すことが一番大事なので……標本作りのテクニックはみんなで開発してどんどん共有していけたらいいなと思っています!



















コメント
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突然失礼します!
バッタとかカマキリって色残し難しいですよね…
自分も何度か試してやってますが、YouTubeで亜硫酸ガス➕冷蔵乾燥で色残ししてた方がおられまして実際にやってみたら確かに色残ってました!
ただ、あまりにやりすぎると逆に黄色ぽく変色するやつもいたので時間と経験がものを言うのかもしれないですね…
真空乾燥も検討しようと思ってたんですけど、機械だと高いんでこの方法はいいですね!参考にさせていただきます!
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コメントありがとうございます!
実は亜硫酸ガスは標本の持つDNA情報を破壊してしまうため、専門家の方も使用しないように呼び掛けるくらいの禁じ手です。
標本の学術的な価値が下がってしまいます。
色は確かにきれいに残したいですが、標本に求められる情報もしっかり残さなきゃいけないので……やり方も「許容される範囲」を見極めないといけません。
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返信ありがとうございます
何を優先させるかですよね
自分は綺麗に作りたいので、この方法で試しました
ヒノマルコロギスなんかも真空で色残りますかね?
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真空よりも冷蔵乾燥が重要なのかなと思っています。
コロギス類ではこのやり方試していませんが、そこまで相性悪くないと思います。
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なるほどありがとうございます!
今年の6月に石垣島行くので、その時ヒノマル取れたら標本にしようと思います!
また、出来た時に報告したいなぁと思います!