真冬でもできる! アリヅカムシの採集と観察

コウチュウ目(鞘翅目)

2025年末、ライカのいい顕微鏡を購入しました。
倍率は6.1~55倍。これに1.6倍の補助レンズをつけたため最大88倍まで拡大できます。

ようするに、今までちゃんと見えなかった小さな虫でもしっかり見えるようになったわけです。
この機会に今までちゃんとやってこなかった新しい分野を開拓しようと思い、目をつけたのが……アリヅカムシでした。

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フサヒゲアリヅカムシ属(Trisinus

アリヅカムシはハネカクシ科に属する甲虫の仲間で、日本国内からは370種類ほどが知られています。
(種数は日本列島の甲虫全種目録(2025)による)

アリと関係が深い種も知られる一方で、多くの種は森林などの土壌中で自由に生活を行っています。
落ち葉をふるったり、土壌を持ち帰って光を当てるツルグレン装置などを用いることによって採集することができます。

そしてそんなアリヅカムシの採集は、今の時期でも行えます。
別に旬とかではないと思いますが、落ち葉ふるいは冬でもできる採集方法のひとつです。

年末年始の休みを利用して、落ち葉ふるいによるアリヅカムシの採集を行ってきました。
本記事はその成果と、これまでに得たアリヅカムシの標本観察という2本の内容でお送りします。

思っていたより採れない

2025.12.29

まずはアリ採集の時にもお世話になった、近場の雑木林に向かいました。

アリ採集の時と流れが似ているので、そっちの記事も読んでもらえればと思います。

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クヌギ・コナラ中心の林

当時は(11月頃)何となく落ち葉をふるっているだけでもいろいろな形のアリヅカムシが出た記憶がありました。

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ふるいと受け皿、吸虫管、ヘッドライトなど使う道具も一緒です。

やり方や狙い目はある程度アリ採集の時につかんでいるので、それを活かそうという思いでいました。
そのくらいの気持ちで、落ち葉ふるいをやってみたのですが……

ヤバい全然とれないわ(2時間くらい経過)

場所をコロコロ変えながら何度も落ち葉をふるったのですが……まるで手ごたえがありません。

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ウロコアリ属(Strumigenys

アリも晩秋と比べると全然落ちないですね。冬になると越冬のためにどこかに隠れてしまうのでしょう。
甲虫もまったく落ちないわけではないのですが、少ないです。

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ハネカクシ科

ハネカクシはちょこちょこ落ちる。
アリヅカムシとて同定できるわけではないけど、ハネカクシまではまだあまり手を伸ばせないでいます。

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こういう所は乾燥しててダメ

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樹林だけじゃなく湿地でやったりもした、けど……

林床が全体的に乾燥気味で、生き物が少なく感じました。
湿度を求めて近くの湿地でも枯れ草をふるったり、根際をガサガサしたりしましたが……アリヅカムシの姿はありません。

秋の湿地ガサガサでアリヅカムシも見た記憶あるのだけど、どこへ行ってしまったのか。

以前ノコギリハリアリが出たあたりはどうかなと思って、一応ふるってみることに。

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針葉樹があり、日陰になっているところで

やっと出た

ごく小さいですが、1頭目のアリヅカムシがここでようやく出てくれました。
同時にもう1個体が入りました。ここがホットスポットのようです。

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落ち葉は少ないが、下は粘土質のゴロゴロした土で少し湿り気がある

ここで少しねばって、計4頭を採集することができました。
全部同じやつかなと思ったのですが、持ち帰ってしっかり見ると2種が2個体ずつ入っているようでした。

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どっちも同じオノヒゲアリヅカムシ属(Bryaxis)

立派に発達した小顎肢を見るに、オノヒゲアリヅカムシ属で良さそうです。
この属は国内に35種ほどが知られるかなり難しいグループです。属以上を追うのはキツそうです。

一応、種までの検索表があったので翻訳しましたが……交尾器抜かないとダメな種もけっこういますね。
On the Japanese Species of Bryaxis (Coleoptera: Staphylinidae:Pselaphinae), with Notes on Allied Genera and on Endoskeletal Polymorphy

このサイズの虫の交尾器抜く技術はないですね……。

ちなみに、2008年時点での埼玉県に記録があるアリヅカムシがまとめられた目録(埼玉県産アリヅカムシ目録)がありまして、そこでは6種が載っています。このどれかだと思えば同定は楽かもしれませんが、図とかないし、確定はできないです。

いつかの日本環境動物昆虫学会のセミナーに参加した時にもらったアリヅカムシの属までの検索表も持っていますが、顕微鏡を使って見てもしっかり形質が読み取れなくて、この仲間を見ることのそもそものハードルの高さを感じました。

今は同定できなくても、形態の多様性を見て楽しむくらいの気持ちで集めてみようかなと思っています。

少し場所を変えて、別の雑木林へ。

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根返りの横とか、落ち葉溜まってて良さそうですが(いなかった)

一度採れたからと言って簡単には採れるようにならず、やはり苦しい時間が続きました。
ここでも1時間くらい虚無の採集を続けました。

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大きな根返り

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その横には厚めの落ち葉溜まりが

この横が他の場所より落ち葉が深く、湿り気もありいい感じでした。
ふるってみると、明らかに多くの生き物が落ちました。

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ここでようやく今日初めてのカニムシ

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アメイロケアリかな

これは期待できるだろう! と思った矢先、アリヅカムシの姿も見えました。

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2種いる!

ここで少しねばってみたところ、2種5個体のアリヅカムシを得ることができました。

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ここで採れた2種

右の個体は先ほどもみたオノヒゲアリヅカムシ属ですが、明らかに細身でこれもまた別種のようです。
そんなに環境変えずにやっているのに種が被らないの凄いですね。

左のアリヅカムシは少し大型でがっしりした印象です。
写真から分かりにくいですが前胸背に1対の棘があり、ムネトゲアリヅカムシの類だと分かりました。

見た目や形態の特徴を照らした結果、カザリムネトゲアリヅカムシ属(Tribasodites)が近いかなと感じています。
本属であれば、本州に分布するのはヒメムネトゲアリヅカムシの1種のみなので、種まで到達しそうなのですが……

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2個体は同種だと思うが、頭部の形状が異なる

採れた2個体をよく見てみると、頭部や触角第1節の形状が異なることに気がつきました。
本属の検索キーにある「♂の前頭部または触角に2次性徴が発現する」というのがこれのことなのかなあと思っています。

というところでもう日が傾いてきましたので、今日の採集は終了です。

本題のアリヅカムシは4種9個体を採集できました。
もっとどっさり採れる予定だったので、ちょっと悔しい結果ですが……また違うポイントも攻めてみようと思います。

もはや1つも採れない

2025.12.30

次の日はまた違うポイントで落ち葉をふるうことにしました。
……この日はひどく、アリヅカムシは1頭も採れませんでした。ダイジェストでお送りします。

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見かけ上よさそうだが、採れない

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クヌギ林は良くないのかもしれない

クヌギの葉っぱは大きくて隙間ができやすいので、土壌の乾燥を招きやすいのではないかと思いました。
うちの近所はクヌギが主体の雑木林が多くて、苦戦させられる原因の一つになっているのかも。

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こういうところでもない

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川沿いの塵芥をふるいに行ったが敗北

川沿いに堆積した塵芥は格好のポイントのはずですが、やっぱり堆積してから時間が空き過ぎるとダメなのでしょうね。
ここに溜まりができることは分かったので、来年は洪水の後すぐ来るようにします。

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草刈り後の枯れ草溜まりも良い感じだけどなあ(敗北)

アリヅカムシは森林性のものばかりでなく草地性のものもいるという事で、草地でのふるい採集もやっていました。
湿った枯れ草が溜まった場所もありましたが、何も引けず……

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最終的にたどり着いたのは、竹交じりの広葉樹林

あまりに厳しいので、もう帰ろうかなと思ったところで……入っていない雑木林を見つけたので、最後に立ち寄って帰ることに。
全体的に乾燥気味なのは他の場所と同じでしたが、湿っているリターを中心にふるい採集を続けていると、思いがけない出会いがありました。

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ノコギリハリアリ
Stigmatomma silvestrii Wheeler, 1928

格好いいハリアリ、ノコギリハリアリが採れました。
本種は4年前のアリ採集の時にも採れていますが、今回は別の場所で純粋な地元市産となるためうれしさもより一層高いものになりました。

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ほんとにピンポイントでいる場所にあたっただけだと思う

アリヅカムシはここからも1頭も出ませんでしたが、ケシキスイは出ました。

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ナミモンコケシキスイ
Cryptarcha strigata (Fabricius, 1787)

お洒落なケシキスイが採れ、ノコギリハリアリの追加ももう1個体採れました。
今回で2025年の採集納め、ここで満足して終わろうという気持ちになりました。

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格好いいノコギリハリアリ

ということで採集編はこれで終わりです。

全体的に苦戦を強いられた原因はやはり__時期かな。
たぶん春とか秋とかにやったらもう少し楽しめると思います。

時期を改めて、またアリヅカムシ採集をやってみたいと思います!

昔採ったアリヅカ

ここからはオマケコーナー。過去に採集したアリヅカムシの標本を観察してみました。

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オオトゲアリヅカムシ属(Lasinus)(埼玉、東京、奈良)

最初は大型のオオトゲアリヅカムシ属から。この仲間は触角の形状を見ることで同定が可能で、左の2頭はミカドオオトゲアリヅカムシ Lasinus mikado Bekchiev, Hlaváč et S. Nomura, 2013と同定しています。
右の1頭は何故か触角が全損しているため、同定できていません。

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フサヒゲアリヅカムシ属(Batrisoplisus

続いてこちらは、特徴的な触角を持っているフサヒゲアリヅカムシ属の1種です。
ガロアかラフレイかだと思うのですが、両者の違いがちゃんと分かっていないため属で止めています。

ここから先は属も分からないもの達です。

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産地(埼玉、長野、神奈川、神奈川)

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産地(長野、埼玉、埼玉、埼玉)

こうやって見てみると、明らかな種のダブりはなさそうですね。
適当に採っているのにここまで種がバラけているのは、やはりアリヅカムシの多様性がものすごいからなのでしょう。

これ分かるようになりてえな……!!

いい顕微鏡を買ったからと言って、すぐ同定できるようにはならないという事が今回よく分かりました。
日本産アリヅカムシ大図鑑、待ってます!!

コメント

  1. ちどり より:

    SECRET: 0
    PASS: 67c8a20aee24583389bff0d75258fe94
    はじめまして。
    タマムシにも興味がありたまにお邪魔していましたが、あまりにタイムリーな内容に思わずコメントしてしまいました。
    好蟻性昆虫から入り土壌動物にも関心があり、アリヅカムシのあまりの多様な形状や色ツヤが好きで、ついに興味のなかった昆虫標本作りに、大晦日から足を踏み入れてしまいました。
    小さくて展足も難しく、構いすぎたら腹を飛ばしてしまいましたが。
    記事中によく似た種を見つけたので、はじめて名前がわかるかもしれません。嬉しくてコメントしてしまいました。

  2. 執虫 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    同じ時期にアリヅカムシの沼を覗いている仲間がいたとは……!
    しかし昆虫標本作りの初手アリヅカムシはなかなかハードルの高いところを攻めますね(笑)
    私もまだまだ同定はできませんが、少しずつ修行を積んでいきます。
    お互い頑張りましょう。

  3. ちどり より:

    SECRET: 0
    PASS: b1d2f08ee977acafae7cde5d281c3ea7
    お返事ありがとうございます。
    ふるいは以前から少しやっていたのですがリリース。吸虫管を始めたのも最近で、エタノール保存しか分からない超新米です。
    差し支えなければ教えていただけたら嬉しいのですが、アリヅカムシを展足する前には、とりあえずエタノール液浸とか、毒瓶とか、冷凍とか、どう処理されていらっしゃるのでしょう。
    こんなにきれいな標本が作れたら楽しいでしょうね!

  4. 執虫 より:

    SECRET: 0
    PASS: 74be16979710d4c4e7c6647856088456
    アリヅカムシは採集したらチャック袋に入れて保管し、帰宅後に酢酸エチル(除光液)で〆ています。
    処理後は濡らしたティッシュに包んでチャック袋に保管し、翌日以降に展足をしています。
    濡らしたティッシュに包むことで乾燥を防ぎつつ、死後硬直が解けるまでの時間を稼ぐ感じです。参考になれば幸いです!

  5. ちどり より:

    SECRET: 0
    PASS: 753f51bf6b381c51ea60745f8690ab56
    お返事いただいていたのに、お礼が遅くなり申し訳ありません。ご丁寧に詳しく教えてくださって本当にありがとうございました!
    理由も知ることができ、大変参考になりました。
    次に捕獲したら試してみようと考えていたのですが、降雪があったり、トビムシばかりだったりで実現しておりません。
    驚くほどいる場所もあるけれど、やはりなかなか出会えない存在な気がします。
    何度もご丁寧にありがとうございました!またアリヅカムシの記事も待ってます!

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