ホシアシブトハバチに魅了されてしまう
ある日の調査中、葉が出る寸前のエノキの枝先に止まるハチが目に留まりました。
それはなんと、人生で初めて見るホシアシブトハバチでした……!
その時はテンパって捕獲に失敗し、飛び去る後姿を見送るしかありませんでした。
それがきっかけで、この週末(2026/4/18-19)は近所でのリベンジに燃えていました。
あんな苦い体験をしてしまったら、何としてでも採らなければという気持ちにさせられます。
2026.04.18 高いハードル
今回のターゲットであるホシアシブトハバチは、4月中旬から5月上旬までの短い期間に出現する大型のコンボウハバチの仲間で、寄主植物はエノキ、エゾエノキです。
幼虫が街中や公園などいろいろな場所で見つかることから潜在的な生息地は多いと考えられていますが、成虫との遭遇はなかなか難しいようです。
成虫の具体的な採り方はまったく分かりませんが、いろいろな事例を見る限りやはりエノキの周辺で偶然に見つかることが多いようです。まずは自分の運を信じてエノキ巡りをするしかありません。
まずはエノキの大木が多い近所の河川敷に行ってみることにしました。
11m の長竿を駆使して脳筋スウィーピング作戦です。

4月中旬の今、エノキの葉は完全に出ているものからちょっと出ているものまでさまざまあります。
ホシアシブトハバチに逃げられたあの時、個体が止まっていた枝は……葉が開く直前でした。これが今の自分にとっての唯一のヒントです。
幼虫はふつうの葉っぱを食べるハバチですが、成虫が産卵場所に選ぶのは完全に出た葉よりも出る直前~出たばかりの若い葉なのではないか? と思います。
なんとなくそういう仮説を立てつつも、まずは届く範囲の枝を何でもすくってみました。
ムネアカナガタマムシやヒシモンナガタマムシなどのタマムシが入りました。タマムシも良い季節になりましたね。
このポイントには3本くらい大きなエノキの木が生えているので、巡回しながらスウィーピングを試みましたが……これ、かなり疲れます。
まず樹高がかなり高いので、ほぼ真上を見上げながらのスウィーピングです。
11m 竿もMAXまで伸ばしてすくっていると、腕と首にすぐに限界が来ました。
もちろん手ごたえもまったくなく、見慣れたナガタマムシや分かんなそうなキモンハバチなどが時々採れるくらいです。

眩しい、という問題も……本来はあると思いますが今回はそこだけ対策をしてみました。
「オーバーグラス」を使ってみたのです。
以前から持っていたのですが、視界が暗くなるので1回で使うのをやめていました。
最近久しぶりに発掘したので使ってみると……全然イイじゃん!
視界の暗さも今はそれほど気になりません。
これは100均で買ったやつですが、ヒメハナバチの採集では偏光サングラスを使うと飛んでいるハチがよく見えるようになるという話もあり(→春から初夏の野山でヒメハナバチを探して)、高所スウィーピングを多用する私の採集スタイルにも適したアイテムでした。
(Amazonだと例えばこういうのがある、100均のとどれくらい変わるのか気になりますね)
オーバーグラスのおかげで眩しい木を見上げ続けることができてしまうため、首が完全に逝きました(笑)
スウィーピングはやめて、少し離れた場所から(首を保護しつつ)木を眺めてみます。
離れてもやっぱり木が高いので首がキツイ……
ホシアシブトハバチは15mm 以上ある大型のハバチなので、樹上を飛んでいても目視で見つけることが出来そうな気がします。
やみくもにスウィーピングをして狙うより、エノキをひたすら眺めていた方が勝算があるか……?
実際眺めていると、なんかそれっぽいのが飛んでいるような気がするのです!
この時期は特に多い大型のケバエだったりもしたのですが、褐色のものも見えたのでもしかしたら本当に飛んでいたのかもしれません(アシナガバチとかもいたけど)。
しかし怪しい飛翔体には網が届きませんでした。このポイントで狙うのは難しそうです……
結局1時間半くらい粘ってみたのですが、怪しい飛翔体もやがて見られなくなりました。
他にもエノキのポイントはあるので、次いきましょう。

ここは毎年訪れているクヌギのポイントです。フチトリヒメヒラタタマムシが毎年採れているほか、クヌギナガタマムシが採れたこともあります。↓いつかの採集記
このクヌギの隣にも実はエノキが生えていて、本命はそっちですがせっかくなのでクヌギもすくってみました。

今年はひとすくいしただけでフチトリヒメヒラタタマムシが1頭採れました。
まだ健在のようで良かったです。何回出会ってもうれしい虫ですね。
これ以外のタマムシはまったく採れませんでしたが、今回はタマムシ回じゃないので深追いはせず。
タマムシ以外ではこんな虫も採れました。

ヨツモンクロツツハムシはクヌギなどにつくとされますが、神出鬼没のイメージです。
過去に奈良県と長野県、栃木県で各1頭ずつを見ているのみで、まとまった数を見たことがありません。
埼玉県では今回が初遭遇でした。
クヌギすくいもほどほどに本命のエノキもすくっていきますが、ここもダメそう。
しかし、エノキからはこの春の重点ターゲットであるマルクビクシコメツキが採れました(樹上からも採れるのか)。
この日もこの翌日も、各地の草地でスウィーピングをしていたのですが、マルクビクシコメツキはこの1頭しか採れませんでした。好む環境とかあるのか……?
芝地の害虫みたいだから、もっと人工的な草地でやった方が採れるとかあるんでしょうか。
さらに移動して次のポイントへ。
こちらにも立派なクヌギがあり、去年初めてフチトリヒメヒラタタマムシが採れました。

1年経ってこのクヌギは(タマムシ的に)いい感じに仕上がっていました。
この感じだとトガリバシラホシナガタマムシが来そうですね。覚えておこう……!
軽くスウィーピングしました。タマムシは採れませんでしたが……
タマカイガラムシを食べるという変わったゾウムシであるタマカイガラヒゲナガゾウムシが採れました。
実は去年もまったく同じ木から採れています。
偶然ではなく、明らかにこの木に固執している感じですね。
この日は近くのクヌギからもさらに1頭採れました。
このポイントにもエノキがありましたが、ホシアシブトハバチは採れず。
なんとなく雰囲気は最初のポイントが一番良さそうな感じです。あそこで粘るしか道はないかも……

結局、最初のエノキ大木ポイントに戻りました。
15時くらいまでの1時間ほど、木の前に立って眺めていましたが……怪しい飛翔体もなし。
完敗でした。
今日は見つからなかったけど、いないということはないと思うのですよね。
6月くらいに来たらふつうに幼虫が見つかったりしそうです。幼虫見つけて育てる方がやっぱり楽なんじゃないか?
ダメだ。このくらいで諦めては。
まだ休みはもう1日ある。場所を変えて再挑戦あるのみ……!
2026.04.19 直感を信じて
この日は朝のチョウモニタリングをこなしてから、河川敷の別ポイントへ向かいました。
適度な大きさのエノキが点々と生えているような環境です。

ここは糖蜜採集でミツボシキリガがよく採れるようなポイントです。
すぐ傍が土手になっているため、高い位置の枝もすくいやすい立地です。
昨日は1カ所で張るという作戦で大敗したため、今日はとにかく本数をこなして勝負する作戦で行きます。
一通りすくって、少し待ってみたけどアシナガバチに惑わされたのみでした。次へ行こう……。
移動した先で、エノキに向かうまでの道中で下草をスウィーピングしていました。
マルクビクシコメツキは相変わらず採れませんでしたが、思いがけずうれしい出会いがありました。
いわゆるキンバネハネカクシです。キンボシハネカクシ(キンボシマルズオオハネカクシ)に似ていますが、明らかに小型です。
上翅も本種の方が全体的に金色で、まさに金翅と呼ぶにふさわしい見た目です。
情報も少なくどういう環境の虫なのか全然分かっていませんでしたが、キンボシマルズオオハネカクシと同じように河川敷みたいな環境で採れるのですね。
キンバネハネカクシのすぐ近くではシラホシハナノミも採れました。
模様付きで美しいハナノミです。
この河川敷でも過去に1度だけ採ったことがあります。これもかなり神出鬼没な虫ですね。

エノキすくいに専念しない方が副産物が充実していて楽しいような気がしてきた(笑)
しかし、めげずにエノキのスウィーピングを続けたことで得られたものもありました。

なんとセミスジニセリンゴカミキリが採れました。
クヌギやコナラなど各種の広葉樹を寄主植物とするため、いてもおかしくはないのかもしれませんが……ふつうは6月頃に山奥でハルニレやシナノキをすくって採る虫です。たぶん二度とない奇跡だと思います(こんなところで運を使わないでくれ……)。
エノキや下草をすくいながら進むと、まだ展葉していないつぼみみたいな状態の葉をたくさんつけたエノキがありました(写真撮ってない)。
そうそう、あの日逃げて行ったアイツが来たのはこんな枝だったはずだ……。
やっぱりアシナガバチが飛んできて惑わされましたが、ここで一つの気づきを得ることになりました。

テングチョウが新芽に来る。
この日はちょくちょくテングチョウを見かけていたのですが、本種が新芽に好んで飛来していることにここでようやく気がつきました。
どうやら本種はエノキの新芽に産卵するようなのです。もしかして、ホシアシブトハバチと好む木の状態が似ているのでは……!?
というかテングチョウ、近所ではめったに見かけないチョウだと思っていたのですが、エノキの新芽にはそこそこの数が飛来していました。こんなところにいたんだね。
何かを感じてこの木の前で少し張ってみましたが……やはり飛来はなし。
結局は運だよね、そうだよねと思いつつ移動。
今日最後のポイントまで来ました。
オニグルミのアレがいないことを確認したら、エノキのスウィーピングに移ります。
やっぱ違うな。やみくもにスウィーピングしてて採れるような虫じゃない。
1日やってみて、この採集法がかなり厳しいことを悟りました。

最後のポイントにもこんな感じで、芽吹く前の葉が多くついているエノキがありました。
左隣には葉が開ききったエノキも。この場所なら展葉前~展葉後までのエノキが選び放題ですね。
スウィーピングも疲れたし、腹をくくってここに懸けてみるか。
このエノキの新芽にも絶えずテングチョウが飛来していました。やっぱりこういう木が好きみたいですね。
ちょうど土手の上から木を見下ろせるような立地で、首が疲れないのも良い地点でした。
ここで座って、テングチョウたちを眺めながら何かが起こるのを待ちます。
どのくらい待ったでしょうか。
15分も待ってない気がします。
時刻は15:10頃。
”それ”はふいに現れて、目の前のまだ葉が開いていない(膨らんでいるだけ)の枝先に止まりました。
見えた__オレンジのお腹!
黒い斑点!!!
確かに先日の個体には逃げられてしまったけど、ちゃんとここに至るための答えを示してくれていたんだ__!

「これだああああああああああああああ!!!!」
網の中には、この数日頭の中に残り続けていたあの時の虫と、同じ姿の虫が入っていました。

ホシアシブトハバチ
Agenocimbex maculatus (Marlatt, 1898)
特徴的なオレンジの体に黒い斑点、こん棒状の短い触角を備えた大型のハバチです。
寄主植物はエノキ、エゾエノキ。やはり芽吹く前の新芽を選んで飛来するようで、テングチョウが集まるような条件の木で待っていると狙って採ることもできそうです。
実際、このわずか10分後には2個体目が同じ枝先に飛来しました。
完全に気が抜けていたので、振り抜きの思い切りが足りず、まんまと逃げられましたが……。

そういえば、先日逃げられた時の飛来時刻は14時過ぎとかだった気がします。
一番気温が高くなる時間帯を選んで活動するのかもしれません。
待つのは確かに大変ですが、スウィーピングで採るのはもっともっと大変なので……今回有効な戦術が見出せただけでも大きな一歩です。
16時頃まで待ちましたが、3頭目が飛来することはなくこの日の採集は終わりました。
たった1頭でも、採れてくれれば大満足です。
ホシアシブトハバチに出会うためには
この数日間で得た知見をまとめると、
- 4月中旬以降に
- テングチョウが集まるような展葉の遅い木で
- 芽吹く前のエノキの新芽に
- 気温が上がる午後に
彼女らは飛来する……と考えられます。
そう、この方法ではメスしか採れません。もともとコンボウハバチの仲間はオスが非常に得難いグループ(だったと思う)ので、オスに関しては完全に運頼みですね。
採卵して育てることもちょっと考えましたが、同じ場所で幼虫採った方が早い気がしたのでやめました。5月半ば頃にまた来よう!
ホシアシブトハバチは4月中旬頃にならないと発生しないと思われますが、4月中旬にはほとんどのエノキの葉が開いているというのが難しいような、逆に的を絞りやすいような微妙なところですね。
ほんとはもっと早く出てるのかな?
ほんとに新芽を好むのであれば、時期は早ければ早いほど有利、遅いほど不利です。
今回のポイントも来週には葉が出ているだろうし、実質4/15~20頃しかまともに狙えない、時期にシビアな昆虫なのかもしれません。
また、今回はテングチョウの存在を指標にできましたが、都市公園のような場所ではそもそもテングチョウがいない場合も考えられます。そうなると己の勘だけが頼りです。
成虫がなかなか見つからないホシアシブトハバチは、環境省のレッドリスト(2020)にも掲載されていて情報不足(DD)となっています。
しかし、今回ご紹介したような方法を用いればおそらく狙って採ることができると思います。
エノキがちゃんとあれば、身近な場所にもきっといるはず。
ぜひ、この愛らしいハチを探しに行ってみてください。









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