絶滅危惧のGlobia属2種
Globia属のヨトウガの仲間は国内で以下の2種が知られています。
- キスジウスキヨトウ
Globia sparganii (Esper, 1790) - ガマヨトウ
Globia aerata (Butler, 1878)
2種とも幼虫期にはガマやミクリなどの抽水植物の茎内を食べて育つ湿地性のガで、低湿地の減少に伴い数を減らしているとされます。環境省のレッドリスト(2020)ではどちらも絶滅危惧II類(VU)です。ただしガマヨトウの方が明らかに少なく珍しいようです。
この2種は腹部が長く、止まった時に翅先から腹部がはみ出るという特徴があります。
以前はハガタウスキヨトウ Archanara resoluta Hampson, 1910と同じ属でしたが、最近別属に分けられたようです。
この2種以外にも似ているキヨトウはいっぱいいるのですが、キスジウスキヨトウとガマヨトウのどっちかで悩む場面が多く、同定に苦戦させられました。
2026年、2種の標本が手元にそろったことで違いをしっかり理解することができたので、見分け方の記事を作ることにしました(需要ある?)。
キスジウスキヨトウには腎状紋下部に黒点がある
まずは模様から両種を見分けていきましょう。
特徴がよく出たきれいな個体であれば、模様だけで十分見分けられます。
そもそも腎状紋が不鮮明すぎてあるのか分かりませんが、キスジウスキヨトウではその辺りの位置に黒点が現れ、おわん型に腎状紋を縁取ります。
ガマヨトウでは翅の付け根から伸びる黒条があるので黒っぽくはなりますが、腎状紋のあたりに明瞭な黒点は出ません。
ガマヨトウは図示した1個体しか持っていませんが……キスジウスキヨトウはいくつか採れているので他の個体も載せておきます。
当然ながら、模様の特徴は擦れた個体でははっきり分からなくなり……他の形質を見る必要があります。
メスは模様で同定するほかありませんが、オスでは他に触角と交尾器の確認ができます。
ガマヨトウ♂の触角は鋸歯状にならない
続いて♂の触角を比較してみましょう。
観察する角度がわりと重要で、背面または腹面から見ましょう。
側面から見ると両種とも同じように見えてしまうので注意です。
こちらは腹面側から触角の根元付近を見たものです。
キスジウスキヨトウでは触角が明らかに鋸歯状ですが、ガマヨトウでは張り出しが弱く鋸歯状にはなりません。
この違いは背面から見ても分かりますし、キスジウスキヨトウの♂であれば標本写真を見た時に鋸歯状の触角が目につきやすいので、拡大しなくても分かる場合があります。現場でも確認可能です。
もう一つの違いの交尾器については、観察する難易度が少し上がります。
生の内に交尾器を抜いておくか、乾燥標本の腹部を溶かして取り出す必要があります。
交尾器の差も微妙で、触角を見た方が早いし確実かなという感触ですが、一応紹介します。
交尾器(バルバ)の形状を見る
交尾器の一番目立つ一対の部分はバルバ(valva)と呼ばれます。
このバルバの側縁部の形状を見て2種を見分けます。
キスジウスキヨトウでは付け根から先端にかけて滑らかにつながりますが、ガマヨトウでは反り返って角を作ります。毛が邪魔で見えずらいことが多いので、しっかり溶かしてから観察することがポイントです。
(交尾器の処理はKOHだけでなく入れ歯洗浄剤でもできます。今回は入れ歯洗浄剤でやりました。)
バルバ以外の形質についても違いがありそうですが、1個体しかないガマヨトウくんの交尾器をバルバ以外消滅させてしまったので今回は取り上げません。
ちなみに、Digital Moths of Japanのキスジウスキヨトウのページに掲載されている交尾器は間違いで、ホソバウスキヨトウのものとのことです。
参考として、『Atlas genitalia Korean Noctuidae LR』に掲載されている2種の交尾器画像を引用します。
リンク先でオープンアクセスのPDFが見れ、雌雄の交尾器画像が確認できます(画質悪い)。
♂交尾器はPlate 125の5(ガマヨトウ)、6(キスジウスキヨトウ)です。
キスジウスキヨトウとガマヨトウに出会うには?
最後に、この2種に出会うにはどうすればいいかという点について今書けることを書いておきます。

どちらを狙うにしても、寄主植物のガマやミクリがある湿地やため池の周辺でライトトラップを行いましょう。成虫の出現時期は夏で、7月から8月にかけて狙えます。
ガマがあるなという場所でライトをつけて待つだけですが、キスジウスキヨトウが飛んでくる時間はけっこう遅めでした。22:00以降にならないと飛来せず、23:00~0:30くらいにやや多く飛来するような印象です。
したがってライトトラップをあまり早く切り上げてしまうと、生息している場所でも採れないということが起こり得ます。
ガマヨトウはどうかというと……20:30くらいに来たんですよね。

この1個体しか採集経験がないので、この個体がめっちゃ早いだけなのかどうか分かりませんが……同じ属の2種でも活動時間が異なっている可能性があります。
ということなのでこの2種を採りたければ、夏にガマが生えるような湿地で日没後~深夜までライトトラップを頑張りましょう!
この時期は飛んでくる虫も多く、ライトトラップ自体が楽しいので飽きずにやれるのが魅力です。
聞き及んでいた通り、ガマヨトウは非常に手ごわく感じていますが(2026年は6敗)、キスジウスキヨトウはガマが生えている場所で待っていればちゃんと来てくれる印象です(2026年は3カ所で確認)。
キスジウスキヨトウもガマヨトウもレッドリストに掲載されている都道府県は多いので、各地で両種の分布を調べて記録していくことには大きな意味があります。
興味をもってこの仲間を調べようとしている人の参考になれば幸いです。


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