鴻巣の幻 ~コウノスジガバチモドキを探して~

ハチ目(膜翅目)

鴻巣市のシンボルといえば?

埼玉県にある鴻巣市は、県内の中央地域に位置し、県北部と県東部に接します。
県民からは「免許取るときしかいかない街(免許センターがある)」と舐め腐った態度を取られることもある……そんな市です。
私もあんまり採集では行っていないエリア……

そんな鴻巣市はその名前の由来でもあるコウノトリをシンボルとした取り組みに力を入れており、2026年には市では初めての試みとなるコウノトリの放鳥(2羽)が行われました。2025年には市の鳥にも指定されています。

今、コウノトリが熱い鴻巣市ですが、当地にゆかりのある生物がもう1種いることはご存じですか?
そう、タイトルにもある通り……コウノスジガバチモドキです。

これは同じ属のナミジガバチモドキ。ジガバチの仲間に似ています。

コウノスジガバチモドキは1961年に鴻巣市で発見されたハチの1種です。
水田地帯で暮らす小さなハチで、ススキなどの髄に泥を使って巣を作ります。

埼玉県のほかいくつかの県で見つかっていますが、どこでも稀な虫で……県内では1961年と1962年に1頭ずつ得られた以降まったく採れていない幻の昆虫なのです。

貴重さだけでみればコウノトリにも全然負けないポテンシャルを持っていますが、小型で地味なハチのためおそらく市民にもほぼ認知されていません。

私は埼玉県にゆかりのある昆虫にいっぱい会いたいという思いがある中で、産地が家から近く採れる可能性があるコウノスジガバチモドキの存在をずっと気にしてきました。

秋くらいに採れるハチなので、毎年この時期になると河川敷に出かけてはオギなどのスウィーピングを続けています。気にし始めてからもう3年くらい? 経ちますがいまだ採れる気配なし、です。

2026.09.22_始まりの地へ

今年もこの季節がやってきた、という事でコウノスジガバチモドキチャレンジを決行します。
なんだかんだ近所で採れるだろうと思って毎年近場の河川敷で挑んでいましたが、今年は全ての始まりの地、鴻巣市へ改めて行ってみることにしました。

鴻巣市の某所。水田地帯が広がっています。

家から自転車で来るとここまでで1時間弱かかります。
そういう距離的なキツさがあって、この辺りにはなかなか出かけられないのです。

水田や良さげな水路がいたるところにあって、真面目に水生昆虫を探したら楽しそうです。
今日はあちこちの水路が増水して農地に水があふれていました。

コウノスジガバチモドキは水田地帯の虫といわれていますが、田んぼの畔でスウィーピングしていれば採れるかというとそうでもない気がします。
ジガバチモドキ採集において最も重要なのが、営巣場所を狙うこと。

コウノスジガバチモドキを始め、一部のジガバチモドキはススキなどの大型のイネ科草本の髄に営巣します。つまり営巣するススキ群落などでスウィーピングをしていくのが正攻法となるわけです。
(泥を集めに来る個体を狙ったり、イエローパンを設置したりする狙い方もありますが)

つまり、狙うべきは田んぼの畔みたいな環境ではなく、

道沿いにオギ群落が発達している

こういうところですね。
この辺の河川敷に生えているのはほとんどオギで、ススキはまずありません。
したがってオギ群落が狙い目になるわけですが、特にこういう道沿いのオギ群落は邪魔になるので定期的な草刈りによる管理が入ります。ジガバチモドキにはこの草刈りがけっこう大事です。

何故かというと、

枯れ茎が刈られ、断面が露出している

草が刈られることで茎の断面が露出し、彼らの営巣環境ができるからです。
つまり、草原のど真ん中よりもこういう道沿いとかで、刈られた枯れ茎の多いオギ群落をスウィーピングしていくことが……コウノスジガバチモドキにより出会いやすくするための条件ではないかと思っています。(少なくともヒメジガバチモドキはそうだから)

ヨトウガとかが開ける穴。草刈りのない環境ではこういうところで営巣する?

時刻は8:30くらい。早速このポイントでスウィーピングを開始します。
大量ってほどではないけれど、網にはちょこちょこハチが入ってきました。

この場所で採れたハチたち

意外とメンハナバチの仲間が多かった印象で、他にはアリマキバチ亜科の類がいくつか採れました。
カメムシはエサキトゲアシハナカメムシですね。ちょこちょこ採れました。
肝心のジガバチモドキは、写真左側に1頭写っています。

これはヒメジガバチモドキ

こういう環境で採集すれば必ず採れてくれるジガバチモドキの普通種、ヒメジガバチモドキです。
コウノスジガバチモドキはこれに似て全体黒色の種ですが、体長が一回り以上大きいです。

スウィーピングを開始してしばらく、網の中に新しいジガバチモドキの姿が見えました。
なんか……デカくない!?

明らかによく見るヒメジガバチモドキのサイズじゃない

これは、デカいぞ!! 可能性あるぞ!!
持って帰って細かい形質を調べない事には確定できませんが、これは本当にコウノスジガバチモドキの線があり得るかもしれない……!

ヒメと比較。コウノスのサイズ感はほんとこんな感じのはず

勝ったな(慢心)……早くも目標達成かも。
一応この後も追加を狙ってスウィーピングを続けましたが、大きいのはこの1頭のみでした。

ジガバチモドキが大量に採れるわけでは無かったですが、採れるハチの多様性が高くて採集していて楽しい環境でした。
その他の虫は、クロトゲハムシやヤマトヒメメダカカッコウなどが得られました。

あっ

ひとしきりスウィーピングして満足したので、次なるポイントを求めて移動することに。
この日の朝は風がとても強くて、道端に停めていた自転車が倒れてしまっていました。

あれっ

パンクしてるじゃん

お★約★束

なんで今なんだよ~!!
駅に自転車置いて帰って、修理キット持ってまた戻ってきて修理するか? いや~ロスが大きすぎる。
ここからは歩いて家まで帰ると3時間近くかかるし、帰りのことも考えて動かなければなりません。

というか倒れただけでパンクするの意味不明すぎる
(帰宅後確認したら、以前雑に修理した箇所の穴が再び開いてしまったことが判明、自業自得やそれは……)

幸い今日散策したいポイントはここから歩いてでも回れなくない距離感なので、自転車は道端に置いて歩くことにしました。

セイバンモロコシはジガバチモドキと相性が悪い印象 枯れ茎がない

ひたすら歩いて、広いヨシ原のあるエリアに来ました。
オギ草原もあるかなと思ったのと、ここでヨシから採れるというセイボウが気になったため来たのです。

ただ、道の脇はほとんどセイバンモロコシに占拠されていて、ヨシはあまり掬えませんでした。
結局ろくにハチも採れず、歩くばかりの散策が続く……

黄色い花が咲いているマメ科……アズキですね。

ヤブツルアズキでしょうか、アズキの仲間がありました。
もしここにヘリカメムシの仲間がついていたら、それはきっと___

アズキヘリカメムシ

本当にいた!!アズキヘリカメムシだ!!
本種は埼玉県レッド2018における準絶滅危惧(NT1)です。県内でも局地的に得られているようです。

ヤブツルアズキの小さな群落にたくさんのアズキヘリカメムシがついていました。
掴んでみると、すごくいい香り。青りんご? 梨? 爽やかな香りがしました。

キバラヘリカメムシとかよく青りんごって言われるけど、アレよりこっちの方が断然いい香りな気がします。部屋に置きたいタイプの香りでした。

この手のカメムシの識別はつい最近記事を書きました。
アズキヘリカメムシの情報も更新しておこう。

水路からあふれた水で脇の道が冠水している

この雨だらけの日々のせいで、河川が増水して濁ったり、農地に水路の水が流れ込んだりしているのが各所で見られました。
この場所も本当は歩いて道沿いのヨシやオギをスウィーピングしたかったのですが、長靴を履いていても進めないほどの深さになっており危険だったため諦めました。

あまり攻めない方が良さそう

しれっと水面をフタボシチビゴミムシが歩いているのが見えましたが、手に持っている網を置く場所がなくあたふたしているうちに見失ってしまった……

結局、戻って大回りして最初のジガバチモドキポイントに戻ることにしました。
歩くのがとにかくしんどい。長靴のインソールをもっとしっかりしたものに変えればいいのかな。

今日は想定以上に熱く、また運動量も多く(主に歩き)なってしまったため、13時頃の段階で飲み物が尽きてしまいました。
幸い自販機を発見し逃げ込むも、10円の釣り銭切れ&財布には100円玉と500円玉(と札)で何も買えないというピンチに。

リュックの中に非常用の小銭が少し入っていたことを思い出して、確認するとしっかり50円玉が入っていて、何とか飲み物を確保できました。備えってこういう時に生きるのだなあ……

今日は何か試練が多い日だなと思いながらも、悪魔のささやきが聞こえます。

最初のアレが”コウノスジガバチモドキであれば”お釣りがくるレベルだ、と。

それは同時に、コウノスでなかったときにひたすら辛い思いをしているだけということでもあるのですが……その心配を無くすべく、もっとあのサイズ感のジガバチモドキを得たいですね。

スポット的なオギ群落を見つけてはスウィーピングを繰り返す

しかし、このあといくらすくってもジガバチモドキの追加は得られませんでした。
それどころか、朝はいろいろなハチが採れたポイントに再訪してもさっぱり何も採れなくなっていました。

そんなんで午後は大した成果もなく、この日の採集は終わりました。
パンクした自転車を回収して、無理やり乗って帰りました。予備のチューブを買い置きしてあるし、ダメになってたら交換すればいいやと思い。
(結局交換した)

あのジガバチモドキが結局コウノスジガバチモドキだったかどうか?
もちろん……ただのデカいヒメジガバチモドキでした(泣)

どうやら、多くのハチ採集では午前中の方が成果が上がりやすいみたいです。

そうかもしれない!
これまでの採集を振り返ると心当たりは確かにありました。

今日は無駄に歩き回ったけど、最初のポイントでもっと粘るべきだったのかもな……
後悔が残ってしまいましたが、翌日はインセクトフェアだし今年もう一度ここに採集に来ることは__早朝行けばいいんじゃね!?

時間帯を気にする前に、気温を気にした方が良いのかも

翌朝、家の車を借りて同じ場所を訪れたのは……朝の5時!
日の出よりも前、市民薄明の開始と共に現地に入りました。採集ができるギリギリの明るさです。

到着したらまずは、トラップを設置します。

黄色い紙皿はダイソーかどこかで買った

Yellow Pan Trap (YPT)です。
イエローパントラップは、黄色などの目立つ色に昆虫が誘引される性質を利用して主にハチやハエなどを捕獲するために用いられる採集法です。

黄色い器に水を張り、中性洗剤を一滴たらすだけでできるのでお手軽です。
(あるいは、最初から洗剤を混ぜた保存液を用意しておく)

何気に初めてやりました。たまたま家にそれ用の紙皿があったことを思い出したので持ってきたのです。

ジガバチモドキは花に来る虫ではなさそうですが、イエローパンにはけっこう入るみたいです。
この環境でかければスウィーピングをするよりも効率よく採れるかも……という期待をしながら10個かけました。
10個かけるだけでも1Lほどの水が必要ですので、チャリ採集者にはちょっと負担がデカいですね……

イエローパンを並べているうちに明るくなってきたので、スウィーピングを開始します。

うーん! 採れない!(そんな気がしたんですよね)

日の出までは待った方がいいかな
↓
日の出から1時間くらいは待った方がいいかな
↓
7時には動き始めるかな
↓
8時、かな……

昨日はこの時間に採れてるんだけどな

何かがおかしい。
昨日との条件の違いは……今日は曇りで気温も5℃くらい低いですね。
22℃だって。涼しすぎるのはダメなのか……?

実際、場所を変えながら何度スウィーピングをしても前日みたいにハチが採れず。
残念ながら、ダメな日に当たってしまったみたいです。

この日の成果

頑張っていたら1頭だけヒメジガバチモドキが採れましたが、この1頭から逆転できるとは思えず撤退しました。
イエローパンにもほとんど虫が入らず、ガッカリです。

紙皿だと1回の使用でダメになってしまうので、プラスチックの皿がいいですね。
↓こんなのを買ってみました。次はこれでリベンジします。来年かな。

これは高いぞ、と思う人は紙皿をまとめ買いして使い捨てするのがよいでしょう。
私はそんなに頻繁にイエローパンやらないので、持て余すかなと思って紙皿はやめました。

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幻は幻でした

ということで、コウノスジガバチモドキチャレンジ2026でした。

初夏にも採れてるんだったような気がしますが、その時期は別の虫の採集で動くことが多くハチまで手が回りません。
今回の探索の成果としては、重点的に調べるべきポイントがなんとなく見えたことでしょうか。

来年はお天気がいい日に、午前中に、イエローパンも引っ提げてリベンジに臨みたいです。

この虫を気にして探している人は埼玉県内に片手で数えられるくらいしかいないかもしれません。
しかしもっと多くの人に関心を持ってもらえれば、いつかは再発見されると信じています。

埼玉県外では千葉県や東北地方でも採れているので、ぜひ水田地帯の珍しいジガバチモドキを気にして調べてみてください。そして、コウノスジガバチモドキの採り方が分かったら私にも教えてください(笑)

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